表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
後の悔い先に立たず  作者: 狸ノ腹
第二章 学園邂逅
30/46

【授業前の衝突】01

『災暦1496年12月6日』


「はぁ……」


 夜明けの道場内に、あきれたと言いたげなアビのため息が響き。


「だから言っただろうが、面倒な事になるって」

「そんな言われ方した覚えはねぇけど、お前の選択が正しかったのは認めるよ……」


 俺を叱りつけてくるアビの言葉に、俺は静かにうなだれた。

 なぜアビが俺にこんなことを言ってくるのか。

 それは鍛錬中に、ここ二日俺が見た授業の様子や、その感想をアビに話したことが――正直に言えば、この二日間の愚痴をアビに聞いてもらったのが原因だ。


 俺は今更ながら、アビの意地でも授業に出ないという選択を羨ましく思っていた。


「俺らの歳であんなガキ共と一緒に授業なんざ受けれるかってんだ――んな事想像しなくたってわかるだろうが?」

「わかってはいたさ……」


 苦し紛れの言葉だが嘘を言っている訳ではない。

 学園で授業を受けると決めた時から、多少大変な思いをするだろうと覚悟はしていた。

 ……ただ、覚悟していたつもりでも、結局それはつもりでしかなく――彼らの授業態度がこうも酷いとは、流石に思っていなかった。


 無論、生徒達全員の授業態度が酷いというわけではない。

 少なくともユイを中心とした生徒の過半数は授業に対して前向きに取り組んでいるが、良くも悪くも未だ若い十七歳の学生達。

 そんな若々しく元気が有り余る彼らが、授業を静かに聞いていられるはずがなく。


「――でもまさか授業の真っ最中に質問攻めにされるなんて、想像できるわけないっての……」


 彼らが俺へと向ける好奇心なんて一時的なものだとは思うが、それでもこの二日間の様子からして後数日は質問攻めに遭うのは確実であり。

 そう考えれば考えるほど、授業に出るのが面倒になってきた。


「はぁ……また今日も質問攻めに遭うんだろうなぁ……」

「面倒なら行かなきゃいいだろ?」

「それはそうだけどさ……」


 流石にキッドさんの手前、たった二日で授業をぶっちするわけにもいかないだろう。


「はぁ――」


 ため息と共に息を吐き切り、背中を伸ばして体をほぐし。

 胸元で腕をクロスして「ミシミシ」と、息を吸いながら全身の筋肉を膨張させる。


「はぁ――」


 再度息を吐きながら、次は体を大の字に伸ばして息を吸い。


「――ッン!」


今度は先ほど以上に力を込めて『ブチブチ』と、俺は強引に体の筋繊維を引きちぎった。


「――たく、何でそれで体づくりできんだよ」

「本当にな――」


 本当に、何故こんな行為で体づくりが出来るのか俺だって知りたいところではある。

 隣にいるアビを見ればちょうど刀を振り下ろした瞬間で、その額に浮かぶ努力的な汗とは対照的に、俺を見るその表情は呆れたと言いたげなとても冷ややかなものであった。


 この鍛錬とも言えない行為をするようになったのは、もちろん先生の指示だ。

 先生も元は思いつきだったようだが。修羅道にある程度慣れ、屋敷の庭にあった真っ黒な岩を砕けるようになった時に、この鍛錬をやるように言われた。

 やり始めた当初は俺だってこんな行為に意味なんてあるのだろうかと思っていたが、やり続け出来上がったのがこの肉体。

 いくら気分転換を兼ねて毎晩走っていると言っても、こんな行為で身についた筋肉に持久力はあるはずはないというのに、この肉体の持久力は凄まじく――いつからか、甦った時の、俺の骨格や筋繊維は、異常な強度と筋力を持った異質な物へと変換されるようになっていた。


 力を抜いた状態で自分の左腕に触れてみれば、元は柔らかかったはずの筋肉は、まるで束ねられた強靭のゴムのような触感を持ち。

 まるで義手のような腕だというのに、この腕は不気味なほど思い通りに動いてくれた。


「打ち合いでもするか?」


 打ち合いか……。

 剣術素人の俺としては、アビとの打ち合いは是非ともやりたいところではあるのだが。


 アビからの提案に俺は首を横に振る。


「お前も飯にはくるんだろ? ならそろそろ支度しないと」

「ああ、もうそんな時間か――」


 時刻はすでに六時。

 初授業日以降、俺達はユイ達と朝食を食べながら、キッドさんからの伝言を聞くという流れが出来始めていた。


「なら俺も汗流して飯行く支度でもすっかな」


 ただ、どうやらアビが朝食に同行する理由はキッドさんからの伝言を聞く為ではないようで、意気揚々と鍛錬を切り止める様子からも察することができるが。

 アビが朝食に同行する理由は朝食――と言うより、食堂の食事の方にあるようだった。


 味覚が弱い俺にはわからないが、どうやらここの食堂の料理はカナデの手料理と引けを取らない程美味しい物らしく。意外に食い意地傾向のあるアビは、食堂で決められている一人一回一食のルールを律儀に守った上で、朝・昼・夕・夜の一日四食を欠かさず食べていた。





「おはようございます」

「「おはようございます」」


 アビと共に汗を流し、食堂で朝食を受け取ってからいつもの席へ向かうと。

 先に朝食を食べ始めていたユイとエリザ居たので挨拶をして、二人からも挨拶を返される。


 俺がユイの正面に、アビは俺の隣――一つ席を開けて座ると。

 アビは一言『いただきます』と言って、ユイ達に挨拶もなく朝食を食べ始めた。


「アビさんは相変わらずですね」

「わりぃかよ?」


 ユイの言葉に、アビはスープを運んだスプーンを口に咥えたまま返事を返し。

 そんなアビの様子にユイは微笑みながら首を横へ振った。


「いえ、人それぞれ考え方は別ですから悪いということはありませんよ」

「そーかよ。お前の兄貴はそう考えてねぇみたいだけどな?」


 アビの言葉遣いは攻撃的な物ではあるが、ユイの言葉に悪意がないからか怒っているわけではないらしく。

 特に問題もなさそうなので、俺も会話を聞きながら食事を食べ始めることにした。


「そうですね、あれはそう言った常識を持ち合わせていないバカですので、アビさんがお望みでしたら後日試合の準備をさせてもらいますがどうしますか? アビさんならアレに恥かかせるぐらい簡単に出来るでしょう?」


 フォンの話で急にユイの語彙が強くなり、その屈託のない笑顔に嫌味を言ったはずのアビが困ったような表情を浮かべた。


「――もう、ユイさん、お兄さんのことを冗談でも悪く言ったらダメだよ」

「あはは、ごめんなさい。アビさんも今のは冗談なので忘れてくださいね」


 エリザの言葉にユイは笑いながらそう言いはしたが、先ほどの言葉は間違いなくユイの本心からの言葉だ。

 先日の二人の会話からも察しはしていたが、ユイとフォンはあまり仲が良くないらしい。


「もうなんでもいいよ……」


 アビがめんどうくさそうに息を吐き、話題を変えるためにユイに聞く。


「それよりキッドさんから何か伝言はあんのか?」

「二点ほどあります――」


 どうやら俺にも関係がある話のようで、ユイが俺へも視線を向けてくる。


「二人には今夜、深夜一時頃に道場にいてほしいとのことです」

「キッドさんが来んのか?」

「おそらくそのつもりだと」


 ユイはそう言い終えると、今度は完全に俺のことだけを見て――


「それともう一つは、今日の午後からの武術授業でカズさんが使う武具を用意するため、何を使うのか聞くように言われています」

「武具?」

「はい武具です」


 武具……武具か。

 用意してもらえるのはありがたい話だが、俺の使い方ではすぐに武器が壊れてしまうし……そもそもそんな心配をしなくていいように――


「それなら大丈夫ですよ。自前で刀を用意してあるので」

「――用意したのは俺だけどな?」


 何だ急に――

 アビが横から物申したげに、俺の言葉に割って入ってくる。


「金は十分払ったろ?」

「あれが定価だ馬鹿!」

「あれが定価って……まじ⁈」

「マジだよ――」


 眉を顰めてくるアビの言葉に冷や汗が止まらない。

 毎回アビに刀を用意してもらう毎に五千G前後払っていたはずなので、日本円で一本約五十万。


 俺はそんな物をあんなポンポンと壊していたのか……。


 思い浮かぶのは鍛錬中アビと打ち合い欠けて逝った自分の刀……ではなく、俺の魔装との打ち合いに耐えきれず砕け散って逝ったアビの十三本の刀達。

 アビの刀を壊す毎に罪悪感は感じていたが、俺自身でも気付かぬうちに、どうやら刀を壊すことへの罪悪感が薄れていたようだ。


「わりぃ……」

「ったく、謝ったところでどうせまた砕くんだろうが?」


返す言葉もない。

今まで壊した刀について一銭も請求してこなかったアビには頭があがらないが、間違いなく俺はアビの刀をまた壊す、そのことだけは確実だ。


「はぁ……」


 両手を合わせて謝罪する俺の様子に、アビは諦めたようにため息を吐き。

 話が脱線したせいか、困った表情を浮かべていたユイに俺はとりあえず謝罪する。


「――すいません。えっと、そう言うわけなので武具などは大丈夫です」


 だが、何故だろうか。

 俺からの謝罪にユイはますます困ったような表情を浮かべ。

 そんなユイに代わって、エリザが確かめるように聞いてくる。


「その……カズさんが言っている刀って、真剣ですか?」

「――え?」


 刀なのだからそりゃ真剣に決まってるが……エリザも俺が持っている武器が真剣だということは理解しているようで。

 何故そんなことを聞いてきたのかを、エリザが申し訳なさそうに説明してくれる。


「その……学内授業では真剣類や、殺傷性の高いスキルや魔術の使用は禁止されているんです……」

「え……?」

「――っぶははは、マジかよ真剣禁止とか、あはははは――」


 頭の上に『?』を浮かて俺が固まっていると、そんな俺の様子に、アビが腹を抱えながら馬鹿にするように笑い始めた。


「おもしれぇ。そんじゃなんだ? 授業じゃ模造刀でも使うのか?」

「あの、その……」


 腹を抱えて笑うアビからの質問に、エリザが怖がり言葉を詰まらせ。


「――はい。その通りです」


 エリザの代わりに、再びユイが答え始めた。


「もちろん魔物討伐の実地授業やダンジョン探査試験など、許可が出ている場合は例外ですが、基本的に授業で使うのは模造刀や木剣類、魔術ならば非殺傷性の魔術となり、教員の監督中でも中級魔術までで、違反があった場合は原則的に謹慎などの罰則対象になります」

「――っぶははは、罰則対象だってよ! こりゃいいや、あ〜腹いてぇ」

「あの、そんなに変な事でしょうか……?」


 笑い死にしそうな勢いで笑うアビの様子に、エリザが怯えながらも質問した。

 表情を見るに、ユイも同じ疑問をアビに抱いているようだ。

 それもそうだろう。

 二人の立場から見れば、アビのこの笑いは自分達の授業を――言い換えれば学園の訓練方針を馬鹿にされているように映る。

 ……だが、アビが笑っているのはそんなことが理由ではない。

 アビが笑っている理由それは……。


「あぁ、わりぃわりぃ。別にお前らのことを笑ってる訳じゃねぇよ。ただ――」


 そこまで言うと、アビは腹を抑えるのをやめて、俺に指を差しながら。


「こいつは装備できる武器じゃねぇと魔装を纏えねぇんだよ」


 先ほどから笑っている理由を二人に説明した。


「装備できる武器じゃないと魔装を纏えない?」


 ユイはアビの言葉を復唱しながら頭を横に傾け、エリザもアビの言葉の意味がわからず頭を傾ける。


 二人の疑問に対して、アビが視線で『自分で言うか?』と問いかけてくるので、俺は頭を横に振って『任せる』と、この場の説明を――

 俺の特性について俺より詳しいアビに任せることにした。


意見大歓迎です、評価も待ってます!

誤字脱字わからない表現があれば教えてください。

読んでいただきありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ