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後の悔い先に立たず  作者: 狸ノ腹
第二章 学園邂逅
26/46

【能力値の役割と吐露】03

「ただいまぁ〜」

「おう、お疲れー」


 学力検査を終え部屋に戻ると、そんな俺を出迎えたのは上裸で――指だけで逆立ちをしているアビだった。


「全部終わったのか?」

「あぁ、なんとかな」


 肉体的な疲れはないが、ため息混じりに返事を返す。

 流石に十年以上ぶりの学力検査には頭を悩まされた。

 試験の内容は国歴数理能――国数理はなんてなんてことはない内容だったが、歴史と能力に関しては適当に回答することしかできなかった。


 そもそもなんだ能力って、スキルや魔術を習得できない俺が、その習得方法と効果について知るはずがないだろう――


「これ置いとくぞ」


 認証盤の中からアビの記録石を取り出してベッドの上に置くと、逆立ちをやめたアビが、突然無言の圧を放ってくる。


「何だよ?」

「感想は?」


 一体何の感想なのだろうか?

 と、一瞬考え。


「あぁ――」


 と、俺はその質問の意味を理解した。


 アビは自分の能力値を俺が見たと思っているようだ。

 だが、そんなアビには申し訳……無くもないが。


「能力値なら勝手に見るのもアレかと思って俺は見てねぇからな」


 とりあえず、このことは先に伝えておいた方がよさそうだ。


「何だよアレって、見てもいいって言ったろうが?」

「俺の耳には『勝手にしやがれ』って、言ってたように聞こえたんだが?」

「汲み取れよ!」

「汲み取ったから見てねぇーんだよ! ……たく、一応言っとくが能力値を見たのはキッドさんだけで、フェルトの方も本人が嫌がってるなら私は見ないって、結局お前の能力値は見なかったぞ」

「はぁ、何だよそりゃ? あんな文句言ってきたくせに見なかったのかよ」

「本当にな――」


 文句を言ったのはアビの方だった気もするが、あれほど色々言っていたのに結局能力値を見なかったフェルトの言動には、俺も少なからず思うことはあった。


「それで、見ねーのか?」

「見ていいのか?」

「おう。見ろ見ろ――その代わりお前のも見せろ」


 そっちが目的か、初めから見たいと言えば見せると言うのに。


「ほらよ――」


 自分の記録石を外してアビに手渡し、ベッドの上に先ほど置いたアビの記録石を自分の認証盤へはめ込んでアビの記録石に手で触れる。


名前:アビ   性別:男     種族:龍人   年齢:20

身分:B    ギルド:――   商業:――    称号:――

装備品:龍帝式認証盤 :宝希  :――      所持金:29199G

体力:521  生命力:159  筋力:139 技量:720

魔力:340  知力:71    敏捷:372  精神力:130

運:43    魔術適正:雷・水・風  スキル・魔術:敏捷向上S:超加速A:金剛A

総合評価『S』 『災暦(さいれき)1496年12月1日 16:58』


 表示されたアビの能力値を見た感想は――正直、特にはなかった。

 自分の能力値を見た時のような淡々と能力数値を確認するような気分だ。


 アビの能力値を見て気になった点とえば、スキル欄にスキルが三つしか表示されていないところだが、これは記録石の仕様なのだろう。

 そのことは自分の能力値を見たことで理解でき。

 理解できたからこそ、アビの能力値を見たからと言って思うことはなく……。

 何も思うことはないと思っていたが……やはり自分の能力値を見た後だと、どうしても表示されるアビのスキル欄に目がいってしまった。


 アビの保有しているスキルがどの程度、身体的な能力値に補正をかけているのかはわからないが、俺がアビに打ち稽古で勝てたことが無いということは、アビの能力値はスキルによって少なくとも俺の能力値と同等以上の底上げがされていることは確かで――勝てない理由が能力値の差だけではなく、アビ本人の技量が伴っているからこそとわかってはいるが。

 それでも少し……本当に少しだけだが、スキルを習得できることを羨ましいと、そう感じてしまう自分がいた。


「――ッチ! 何だこりゃ」


 舌打ちをして不満げな声を上げたアビへ視線をやるとお互いの目が合い。


「何だよこの無茶苦茶な数値は?」

「何だよって言われてもなぁ」


 アビの不満げな言葉に俺は返す言葉が思い浮かばず。

 なぜかアビからは俺と同様の、能力値に対しての嫉妬心と――


「魔力が限界値に達してるのは知ってたが、何だよこの精神力の値は――」


 眉を顰めたその表情から感じた感情は、不満というより、俺に対しての不安と心配そうな感情だった……。


「弟子入りしてからどんだけ上がったんだよ」

「……300近く」

「――なんでだよ!」


 本当に何で何だろうな……。


 俺の言葉によって湧いたアビの怒りには返す言葉もなく。


「修羅道のせいか? 先生のせいか? それとも――」

「ゴォーン、ゴォーン、ゴォーン――――」


 午後五時を知らせる鐘の音がアビの言葉を遮って室内に響き。

 日が暮れ始め、鐘の音が終わるのと共に――


「俺達や、亡くした女のせいか?」


 アビはやるせなさそうに、苦しそうに聞いてきた。


「何でお前がそんな顔してやがんだ」

「……何でだろうな。お前の普段の様子を見て、多少なりとも立ち直ってるもんだと思ってたんだ。それがどうだ、能力値を見たらこんな数値って……」

「…………」


 あの日――フィーと夢の中で別れた俺はもうフィーを悲しませないと、二度と後悔をしないと誓いを立てた。

 俺はその誓い通りあの日以降フィーを悲しませるようなことをしていないし、後悔するようなこともしていない。


 ……してはいないが、それはフィーを失った事実が無くなるわけではなく。

 あの日、フィー達兄妹を守れなかった、助けられなかった事実が消えるわけではないのだ。


 一度生まれた後悔は消えない。

 あの誓いの日以降、俺は前に向かって進んでいる。

 だが、いくら進んでいると言っても、俺は……。


「俺はさ、憎いんだよ……俺自身が……」


 普段から感じている怒りの感情を拳に込めて、苦笑しながら俺は自分の思いを口にした。


「…………」


 アビは何も言葉をかけてこないが俺の目を無言で見つめ、言葉の続きを待っていて……。

 こんな話を俺はあまりしたくはなかったが――


「先生に弟子入りした時、俺はさ――苦しくても、辛くても、何回死のうが、何が何でも強くなってやるって決めてたんだ」


 自分の思いを言葉で綴りながら。


「実際あの時の意気込み通り何回も死んだ。まぁ、死んだってか殺されただけだけど」


 ――苦笑しながら。


「でもさ……苦しくも、辛くも無かったんだ。別にそれはフィーを失った感情が薄まったってわけじゃなくて――お前や、カナミと出会って、楽しいって思っちまって……。楽しいって感じれば感じるほど……何で俺はフィーを死なせたってのにこんな感情を抱いてやがるんだって思えて……」


 フィーを守れなかった時から、自分の無力さへの怒りがあった。

 その感情は今でもあるし、これから先も無くなることは無いだろうし、俺が苦労せず修羅道に至れた理由でもあるのだろうが。

 その感情とは別に、アビやカナミとの日々の日常は、俺にとってはノルアの街でフィー達と暮らしていた日々と同じように楽しい時間であり。


「俺は何で……何で笑ってるんだって、思っちまって……」


 自分の感情を、自分の感情が抑えられなくなっていき。


「そんな自分の感情が、本当に許せなくて……許せないのに今の生活は俺にとって幸せなもので……」


 これ以上、自分の感情を言葉にするのは限界で――


「フィーに、会いたいな……」


 俺は、思ったことを口に出した。

 両目を閉じて、息を吸って思い出す。

 フィーの栗色の髪を、栗色の瞳を、フィーが好きだった金木犀の香りを、フィーとの日々を思い出す。


「感情ってのは複雑だな」

「本当にな――」


 アビの言葉に俺は苦笑しながら返事を返した。


 少しだけ感情が落ち着いてきた俺は、認証盤から記録石を外し、アビとお互いの記録石を返し合う。


「今俺は幸福だ。それに幸福だって思っちまう自分の感情を悪いだなんて思ってない。――でも、どうしても考えちまうんだ。本当に良いのか? って、俺は幸せを感じても良いのか? ってな。フィーが隣にいたら、間違いなくぶん殴られて『いいに決まってるでしょ!』って、怒鳴られるんだろうけど、どうしてもそう思っちまう自分がいる」


 アビに思いの丈を言い切った。


「まったく。俺が代わりに殴ってやろうか?」

「――っは、やりやがったら殴り返すからな」

 アビの言葉に俺は笑いながら言葉を返し、その胸元向かって勢いよく拳を突き出しながら。


「心配かけてわりぃな」


 拳をアビの胸元に軽く当て謝罪した。

 俺の様子を見てアビも眉から力を抜くと笑い返してくる。


「本当だぜ。こっちはカナミに頼まれてんだ」

「カナミに……?」

「ああ、なんか合ったらお前の力になってあげてってな」

「お前そんなこと頼まれてたのかよ――」


 カナミの無邪気な悪戯をしたあとの笑い顔が頭に浮かぶ。

 ……まったく。彼奴は俺を何だと思ってるんだ。


 先ほどまでとは打って変わって真剣な表情で――いや、先ほどまでも真剣な表情では合ったのだけれど、また変わった真剣な眼差しでアビが俺に問いかけてくる。


「なぁ、カズ。お前気づいてんだろ?」

「気づいてるって……何にだよ?」

「カナミがお前を好きってことだよ」

「…………」


 こいつは急に何を言ってやがるんだ? とは――まぁ、言えないわな……。


「カナミの思いに気づかないほど鈍感じゃねぇだろ?」

「そりゃな……」


 アビの言葉に沈黙を諦めて言葉を返す。

 カナミが俺に抱いている感情には気づいていたし、感情がわからなかったとしても、流石にああも積極的なことをされれば、子供ながらに恋心を抱かれていることにはすぐ気づく。

 だが所詮は子供の恋心、確かにこの世界での成人は十六歳で、カナミも来年には成人を迎えるし、フィーと婚約した時のフィーの年齢も十六歳ではあったが……。


 俺にとってカナミは妹のような存在だ。


「でも、だからどうしたって言うんだよ?」

「…………」


 俺の言葉に今度はアビが黙り込み。

 その額に汗を浮かばせたと思えば、次第に目が点になり――


「いや、何だよその顔は……」


 口をへの字に曲げたアビは――


「やっべ……」


 言ってはいけないことを、感情のままに言ってしまったようだった。


「お前なぁ……」

「今の無し!」


 何が『今の無し!』だよ……。

 先ほど感情を吐露した俺が言えたことでは無いが、アビには言った後の事を考えてから物を言って欲しいものだ。


「言ったことには責任持てよーーんで言った以上は最後まで話せ、何でこんな話をした?」


 俺の質問にアビは困ったと言いたげな表情を浮かべると、自分のベッドへ座り込み。

 観念したのか、重々しくその口を開いた。


「……カナミが、お前のこと好きだって里から出る時に言ってきたんだよ。そんで何とか自分の婚約者にならないか? ってな」

「お前……それを承諾したのか?」

「――してねぇよ! 何こいつ馬鹿言ってんだ? と思って、好きなら好きって自分で言えって言ってやったさ!」


 じゃあ何故こんなことを? と、俺が聞く前に――


「お前……不死だけじゃなくて不老なんだろ?」


 と、アビは言いづらそうに聞いてきた。


「……先生から聞いたのか?」

「似たようなことを言ってただけだ……でも、やっぱりそうなんだな――」


 どうやら俺はしくじったようだ。


『お前は歳を取ってない。老化が極端に遅いのか、ある一定で固定されてるのかは試さんとわからんが、お前の鬼才から鑑みるに、晴れてお前も不老不死の仲間入りってわけだ』


 先生からの言葉。

 隠す気は特に無かったが、俺の回答にアビは俺が不老不死であることに確信を持ったようだ。


「お前は一人じゃダメになる……一人にしちゃいけない奴だ……」


 アビはそう言うと、自分の頭に手を置き、わしゃわしゃと髪を掻きむしった。


「――クソ! 何で俺がこんなこと言わなきゃなんねぇんだ!」


 そこでお前がキレんなよ……。


「お前が口を滑らせたからだろうが……」

「わーってるよ、んなこたぁ――」

「「…………」」


 アビと互いに視線を交わし、考えを探り合い。

 もう面倒だと思ったのだろう、これが全てだと言いたげに。


「とりあえず、カナミはお前のことが好きで結婚したいらしい。そのことは伝えたからな」


 もうこの話を終えようと、アビはそう言ってきた。


「悪いが――」

「――俺は聞かないぞ! あとはカナミに言ってやれ!」


 俺の返事に言葉を被せてくると、アビは立ち上がり、俺に指を差してくると。


「俺は飯に行って来るから、お前はしばらく寝て頭でも冷やしやがれ!」


 そんな戯言を吐いてきた。


 部屋を出て行こうとするアビを止めるつもりは無い。

 俺に『寝ろ』なんて戯言を吐くのはどうかとも思うが、お互い頭を冷やす必要はありそうだ。

 部屋を出て行こうとアビは部屋の扉の取っ手を掴み、そのまま出ていくかと思えば……アビはその場で立ち止まって俺の方へ振り向き。

 これで最後だと、言うように。


「……でもよ、お前がカナミとくっつくこと、俺は賛成だと思ったし。カナミの気持ちは間違いなく本気のそれだったぜ」


 念を込めてアビはそう言うと、満足気に部屋の外へと出て行った。


 …………。


 出て行ったアビの――その言い切ったぜ! と言わんばかりの後ろ姿に、複雑な、複雑な感情の苛立ちが込み上げてくる。

 自分でもこの感情が苛立ちであるのかは正直なところわからない。

 ただ、心に思ったのは。


 ――ざけんなよ。


 そんな言葉だけだった。

 

 部屋の扉にてをかけた俺は、考えるよりも先に、部屋から出ていったアビの後を追いかけ――

 食堂へ向かうアビに追いついた俺は、大きな声でアビに言う。


「言い逃げしてんなよ!」

「――おま、マジかよ⁈」


 走り追いかけてくる俺の姿に、アビも慌てて走りだした。

 全力で逃げるアビの後を俺も全力で追いかける。


「いいだろ言い逃げしたって、言い逃げって言葉があるんだからよぉ!」

「ざけんな! こっちだってカナミに色々思う事はあんだ!」

「しらねぇよ! 思うことあんなら直接言え!」

「お前が先に言ってきたんだろうが!」


 不思議な気分だ。

 苛立ち追いかけているというのに、今感じる苛立ちは普段感じるものとは違い。清々しいような、少し楽しいような気がして。

 夕食時という事もあって周囲には何人もの生徒達が、全力で走っている俺たちへと引き気味な視線を向けていたが、今そんな他者の視線などはどうでもよく。


 今は俺も、俺がしたいように、言いたいよう言うだけだ! と心に決め。

 モヤモヤした気持ちを残さないために、スキルを使い全力で加速し始めたアビの後を、俺も闘気を纏って全力で追いかけた。


 その後、二メートルを軽く超える図体の大きい、今朝食堂に居た獣化が進み獅子のような見た目をしたレオという名の、キッドさんから何度か聞いた名を名乗る学園の教師に『廊下を走るな!』と注意を受けてしまったのは自業自得の結果だった。


意見大歓迎です、評価も待ってます!

誤字脱字わからない表現があれば教えてください。

読んでいただきありがとうございました。

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