【能力値の役割と吐露】02
「――二人を承認する」
大きな石碑に触れながら、キッドさんはそう口にした。
キッドさんに案内されたのは学園の中庭。
そこに置かれた二メートルを超える大きな石碑の前。
これが天位の石碑か――
龍人の里で意識がない間に更新されていたので初めて見たが、これが能力値を更新するために必要な石碑のようだ。
普通ならば大国にあるセト教の教会に行き、多額の寄付をしなければ能力値の更新はできないと言うのに、龍人の里やこの場所には当たり前のように石碑が置かれていた。
石碑を見れば、上部には十六天位と刻まれ――その下を見ていくと。
『一位・諸悪 二位・法神 三位・戦神……』と、先生の二つ名がその下を見ていけば『十二位・風人……』と、キッドさんの二つ名が刻まれている。
石碑の管理者であるキッドさんの許可のもと、俺の胸の位置にある石碑に刻まれた円の部分に手を触れ、円の中心が赤く光ったと思えば、その光が俺の左手に――認証盤にはめ込まれている記録石へ吸い込まれた。
記録石に触れてみる。
名前:カズ 性別:男 種族:人間 年齢:21
身分:F ギルド:D 商業:―― 称号:――
装備品:龍帝式認証盤 :―― :―― 所持金:38155G
体力:695 生命力:365 筋力:325 技量:0
魔力:5000 知力:0 敏捷:802 精神力:823
運:7 魔術適正:―― スキル・魔術:―― :―― :――
総合評価『S』 『災暦1496年12月1日 10:55』
思ったより上がった……のか?
これが約一年ぶりに更新された能力値を見た俺の率直な感想だ。
相変わらず技量と知力は終わっているが、他の能力値はあらかた倍以上に上がり、特に筋力に関しては七倍以上に上がっている。
宝珠でしか使わない魔力と何に使うかわからない運の値はさておいて、この能力値の上がりようは――
いったいどの程度のものなのだろうか……?
「アビ?」
「なんだよ」
「能力値の平均ってどれぐらいなんだ?」
「…………」
アビが俺のことをジト目で、呆れたように見つめてくる。
……まぁ、呆れて当然と言えば当然か。
能力値について先生やアビから教えてもらう機会ならいくらでもあったし、それこそカナミにでも聞けば、能力値の平均ぐらい知ることはできた。
それでも今まで能力値について聞いてこなかったのは、正直な話、俺自身が自分の能力値にあまり興味がなかったからだ。
スキルがなくても相手の気配に気づけ、魔術がなくても甦る。
闘気や魔装も能力値には表示されない内容なだけに、俺は自分の能力値に対して関心をなくしたのだ。
「人間の平均値なんてしらねぇけど、成人した龍人なら合計値で600前後だったはずだ」
「なる……ほど……」
一つの値じゃなくて合計値で600か……。
教えてくれたアビには申しわけないが、その説明では俺の能力値と比較することはできない。
合計値だけで数値を出すのなら俺の場合は8000なのだが、そのうちの六割以上はほぼ無意味な魔力が占めている。
そもそもこの世界においての能力値はその者の本当の強さを表しているわけではなく、スキルによって能力値を数倍に強化し、技術によって昇華されたものこそが、その人物の本当の強さだと、俺は考え――そう考えているからこそ、俺は自身の能力値で能力の成長具合を確認するのは無駄だと思い……。
――ああ、なるほど。そのための死合だったのか。
と、先生との死合の意味を俺は今更理解した。
普通の人なら能力値を見た上で、自分の能力値に合ったスキルを取得し、戦闘方法を模索していくのだろうが、スキルが無い俺の場合はそんなことをするより、先生やアビと手合わせをした方がより明確に自分に合った戦闘方法を確立できる。
まぁ、こんなやり方ができるのは、先生の元で死と隣り合わせの日々を送り、尚且つ俺の特性があるからこそ出来る芸当で、思うことはいくつもあるが、確かに俺にとってはこの方法が一番簡潔で合理的な方法なのだろう。
「さぁさぁ二人とも能力値の具合はどうだい?」
「「…………」」
どうなのだろうか……?
その質問をされてしまうと、今の構想が全て無駄になってしまう。
「あれ? あんまり良くなかったのかな?」
「いや、その、どうなんでしょう……」
キッドさんの言葉に俺は苦笑しながら返答を返し。
何の返答も返さないアビに違和感を感じてその顔を見れば、アビは苛立ったように自分の能力値を睨んでいた。
「悪くはないですよ」
少し遅れて返事を返したアビの声は、その言葉とは裏腹に不満気だ。
そんなアビの様子に、キッドさんは頷きながら聞いてくる。
「そっか、そっか、ちなみに参考までに二人の能力値を聞いてもいいかな?」
「わかり――」
「――何故ですか?」
俺の言葉を遮ってアビが食い気味にキッドさんを睨む。
何やら先ほどからアビの様子がおかしい。
「今後鍛えるために必要だと思ったからだけど……やっぱり見られたくないかな?」
「キッドさんにならいいですよ、でも――」
アビはそう言うと、視線をフェルトへと移した。
「私には見られたくないってわけかい?」
「ああ、その通りだよ」
「それは当てつけのつもりかい?」
「その感情がねぇわけじゃねぇよ。だが見せたくねぇ理由は単純に見せる必要性を感じないからだ」
「必要性を感じないって、それじゃ私らはあんたを鍛えようが無いじゃ無いかい。それにね――」
あぁ、面倒なことになりそうだ。
フェルトの言葉にアビの苛立ちが増していくのを感じる。
「自分の能力を周りに伝えないで、無駄に怪我したいただのバカならいいけどね、ここで生徒やるなら最低限の規則を――」
はぁ……まったく、そんな言い方したら。
「――生徒生徒うるせぇな!」
アビがキレるに決まってる。
正直よく今まで我慢したと思う。
普段のアビなら食堂での言い合いの時点でキレていた。
「キッドさん。俺はあんたに学べるって聞いたからここへ来たんだ、ババアからもそう言われてるしな。――だが何だこりゃ? 道場だって聞いて来てみりゃ学園で、あんたに鍛えてもらえると思ったらこんなババアがでしゃばってきやがる。話が違い過ぎやしねぇか?」
「――――」
アビの言葉にキッドさんは真剣な表情で頷き。
隣にいるフェルトの様子を見れば、駄々をこねる子供を面倒そうに眺める大人のような表情をしていた。
ここはいい場所だと思う。
行き場がない人達が楽しそうに、普通の生活を謳歌している。
きっと俺の夢の終着点はこんな場所なのだろうと、そう思えるほどここは理想的な場所であり……。
理想的な場所だからこそ――力を求める俺達にとって、この場所は場違いな場所でしかないようだ。
「能力値が知りてぇだ? 勝手にしやがれ――」
アビは自身の認証盤にはめられる記録石を外すとキッドさんへ投げ渡し。
「俺は勝手にやらせてもらう」
アビはそう言い切ると俺の方へと視線を向け、視線だけて聞いてくる。
『お前はどうする?』
と、聞いてくるアビの視線に。
『俺はしばらく付き合うよ』
と、俺も視線で返事を返す。
アビは横目で俺の返事に『――フン』と息を吐くと、もうこの場所には用はないというように、中庭から立ち去った。
「フェルトさん?」
「――何だい、私が悪いって言うのかい?」
アビの姿が見えなくなると、キッドさんは注意をするようにフェルトの名を呼び。名前を呼ばれたフェルトもこの状況に対して少々困っているようだった。
キッドさんが、困ったなと言いたげに聞いてくる。
「カズくん、アビくんのあれって」
「本気でキレてますよ。――ガチギレです」
「だよねぇ……。ちなみにカズくんも同意見?」
今の話の、どの部分について聞かれているのかはわからないが――
「全部が全部ってわけじゃないですけど大部分は同意見ですね。まぁ、俺の場合は基本的にここのやり方に従うつもりですけど。ここで暮らす以上、ここの規則に従うのは仕方がないことだと思いますし――少なくともキッドさんに指導はしてもらえそうですしね」
食堂で言っていたフェルトの言葉を使いながら、俺は自分の意思を二人に伝えた。
少なくともキッドさんは俺とアビを直々に鍛えようとはしてくれている。
アビの言葉を聞いたキッドさんの反応からそれはわかった。
ならば今しばらくの間は俺もここのやり方に従おうじゃないか、何も夜の時間まで拘束されるわけではないだろうし、必要と思えば一人でも、それこそアビに協力して貰えばいくらでも鍛えようならある。
「あの子もあの子だが、この子もこの子で癖が強いね」
「フェルトさん!」
フェルトの言葉に、これ以上問題を増やさないでくれとキッドさんが声を上げた。
やれやれと言いたげにキッドさんは一度息を吐くと、先ほどアビから受け取った記録石を自身の――俺達と同じ、龍帝式認証盤へとはめ込んだ。
アビの能力値を確認するんだろうな――と思い。
「……え?」
すぐその光景の異常性に、俺は自然と声が漏れた。
「記録石の情報開示って本人以外でも出来るんですか?」
ノルアの街の教会で聞いた話では、記録石の情報は死者でない限り本人以外には開示出来ないと聞いたことがある。
事実、各街の関所を通る場合は毎回記録石の情報を自分で開示して、専用の機器にかざすこと身分の提示を行なっていた。
それなのに今のキッドさんは普通にアビの記録石を表示しようとしていて――
「あれ、もしかして先生に聞いてないのかい? 僕らの持ってるこの龍帝式の認証盤は他者の記録石の情報を見ることができるんだよ」
「なる、ほど……そんなことが……」
「うん。ちなみに物を無制限に蔵えたり、多少なら記録石の情報を偽装する事もできるんだけど――その事も聞いてないかい?」
「無制限とは知りませんでしたが物が蔵える事と、宝珠を六つまではめ込める事は知ってます。でも、それ以外は今初めて知りました……」
「先生らしいね」
ちなみに物が蔵える事を教えてくれたのはカイさんなので、俺が先生に直接教えてもらったのは記録石を含めて宝珠を六つまではめ込めると言うことだけだ。
キッドさんの様子を見るにこの認証盤にはまだまだ何か機能がありそうなようだし……さすがは神話級の魔道具だと言ったところだろうか……。
「そんなもんを何の説明もなく弟子に与えるなんて、戦神は一体何を考えているんだい?」
「さぁ、先生が何を考えているかなんて僕はわかりませんよ」
フェルトの言葉にキッドさんはそう答え。
「――でも厄介なことに、あの人の言動が間違ってた事って、今のところ一度も無いんですよね。目的が善悪どちらなのかは置いといてですけど――」
付け加えるようにそう言った。
キッドさんが今度こそアビの記録石に触れて能力値を確認すと、呆れたように苦笑する。
「さすが――フェルトさんもアビくんの能力値見ます? 凄いですよ、基礎能力の全部がレオより上です」
「レオより上だって⁉︎」
「ええ、驚異的ですよね」
キッドさんが自身の認証盤を外してフェルトへと渡そうとすると、フェルトは認証盤を受け取ろうと一度手を伸ばし――
「いや、本人が嫌がっているなら、私は見ないほうがいいだろうね」
そう言って伸ばした手を引っ込めた。
どうやら先ほどのアビの様子に対して、この人なりに思うところもあったようだ。
まぁ、もとよりこの人から悪い人って感じはしないので、そういった対応が出来るのであればアビがキレる前にして欲しかった。
「初めからアビくんにもそう言ってあげればよかったのに」
キッドさんも俺と同様の気持ちのようだ。
「うるさいねぇ――いいだろ別に、これが私なんだからとやかく言わんでくれ」
フェルトのそんな言葉にキッドさんはやれやれと息を吐き。
今度は俺に、アビの記録石がはめ込まれた認証盤を渡そうとしてくる。
「カズくんはどうする? さっきのアビくんとのやりとりからして、他の人の能力値とか見たことないんでしょ?」
「あはは、聞かれてましたか」
キッドさんからアビの記録石が付いた認証盤を受け取った俺は――
認証盤からアビの記録石だけを外し、外した記録石を自身の認証盤に蔵った。
「見ないのかい?」
「ええ、俺は記録石をアビに返すときにでも、本人に聞いてから見させてもらいます」
「そうかい」
キッドさんが俺へと含みがある微笑みを向けてくる。
「ちなみにカズくんの方は能力値を見せてくれるのかな?」
「ええもちろん、キッドさんになら――」
悪意があっての言葉では無かったが、俺の言葉にフェルトが眉を寄せる。
「私にはダメってことかい?」
面倒な婆さんだ。
説明するのが面倒くさい。
別に俺個人としては能力値を見られたところで困ることはない。
だが――
「俺としては能力値を見ても困りはしないんですけど、何も考えずに見せると先生に怒られそうなので、見てもいいかはキッドさんの判断に任せます」
「先生からはなんて?」
「俺の力については他言無用だと」
「それって来る時に言ってたやつかい?」
『はい』と、俺は頷いた。
キッドさんに未だ甦りの詳細について伝えたわけではないが、それでも不死だということはしっかりと伝えているし――修羅道について、もいずれ話すことになるだろう。
「先生からは他に聞いてないんですよね?」
「うん、特に何も聞いてないよ。先生からは直接聞けって言われてる」
先生がそう言っているのであれば、キッドさんに能力値を見せても何の問題もないだろうし、能力値に問題がないのならフェルトに見られても俺個人としては特に困ることもない。
認証盤から記録石を外してキッドさんに渡すと、キッドさんは俺の記録石を自身の認証盤にはめ込み。
「それじゃぁ見せてもらうね」
と、一言そう言ってから俺の能力値を確認し始め――
確認し始めてすぐ、その表情が曇りがかった。
「どうしたんだい?」
キッドさんの様子の変化にフェルトも気づいたようで声をかけるが、キッドさんはフェルトに返事を返さず。
何かを思い悩んだ表情のまま俺の能力値をしばらく眺め……。
「カズくんは能力値の役割を知っているかい?」
「役割ですか?」
キッドさんが聞いてきた。
能力値の役割とは、技量があればスキルを習得しやすいと言ったことや、知力があれば魔術が覚えられやすいと言ったことを聞いているのだろうが――だとするなら、俺はその全てを知っているわけではない。
「知らないみたいだね?」
キッドさんの言葉に俺は頷きを返す。
「技量や知力についてはそれなりに知ってますが、それ以外についてはあまり知りません」
「なら説明がてら話そうか――」
そう言うと、キッドさんはフェルトへと視線を送り。
視線を送られたフェルトはやれやれと目を閉じると息を吐き。
「私はダメってことだね」
そう言うと、面倒そうに、俺とキッドさんから少し離れた場所にあった中庭のベンチへ一人歩いて離れていった。
キッドさんが俺の記録石を返してくれ『そうだな……』と呟いてから、能力値について説明してくれる。
「種族によって能力値の平均が違ったり、能力値の数値に偏りはあるんだけど、基本的に人間の場合はどの能力値も30前後、それなりに強い戦士でも60前後が上限って言われてるんだ」
「結構……低いんですね」
思ったことを正直に言っただけだったが、俺の言葉にキッドさんは苦笑した。
「もちろん例外も存在するよ、それこそ君がそうだし、僕みたいな聖人や勇者なんかも精神力と運は変わらないけど、それ以外の能力値は基礎段階で人間の三倍前後はあるからね」
「精神力と運は変わらないんですか?」
「うん、変わらない――運は生まれ持ったもので成長性は無いし、逆に精神力はその人の経験が数値によって現れるから、他の能力値とは少し扱いが違うんだ……」
そう説明するキッドさんの様子に、何が問題なのか察しがつく。
「……俺の精神力が問題なんですね?」
俺の言葉にキッドさんが頷いた。
「体力から順番に説明するのと、精神力から聞くのどっちがいい?」
「体力からで」
「そこで体力からを選んじゃうのか――」
「ダメでした?」
「別にいいよ、どのみち全部説明する気だからね」
キッドさんはそう言いながら苦笑すると、能力値の役割について説明を再開した。
「まず体力だけど、体力は名称通り肉体的な疲れにくさや、自分の耐久値を表していて、上級生になってから教える内容だけど、ある程度の体力をつけて技術を磨けば、闘気が纏える人もいる。もちろん扱えるようになるかどうかはその人の資質次第だけどね」
「資質ですか?」
「うん――まぁ、資質って言っても、能力値のことを言ってる訳じゃなくて、扱える人は扱える、扱えない人は扱えないって言う、本当に大雑把な物なんだけどね。例えるならカズくんの魔力が桁違いに多いのに魔装を纏えないみたいな、そんな感じだよ」
なるほど――
以前、まだ俺が宝珠を先生から貰う前『魔力があるくせに何で魔装が使えねぇんだよ』なんてアビに言われ、先生によって扱えない理由を聞かされたことがあったが。
結局のところまずは扱える資質があって、その上でどれほど努力したかが鍵になってくるのはどんな力にも言えることのようだ。
「次に生命力だけど、生命力が高いと肉体の治癒力や疲労回復速度が高まって、桁違いの値になれば欠損部の自然治癒能力に目覚めることもある。まぁ……あるってだけで、実際にそんな治癒能力を持ってるのは先生みたいな化物だけだけどね」
そう言ってキッドさんは『はは』と力なく笑った。
「初め僕は君の不死性がこの事を言っているんだと思ってたんだけど、能力値的に違うんだよね?」
頷きを返す。
欠損部の自然治癒とは、腕を失っても新しく生えてくるといった能力のことなのだろうが、キッドさんが言うような力は俺には無い。
確かに以前より、死を経験する前よりも治癒力は上がっている。
能力値を見てもそれは明らかだが、失った腕や目が自然治癒で治るような事象は今まで一度としてなかった。
このタイミングで俺の不死性について聞かれると思ったが、キッドさんは俺の目を見ると、能力値の説明を続けだした。
「次は筋力だけど、筋力も名称通り高ければ高いほど力が強くなって、ある程度高まると肉体の制限を少し外せるようになってくる……」
キッドさんはそこまで言うと言葉を途中で止め、過去の忌まわしい記憶でも思い浮かばせているように表情を暗くし――
なぜだろう……。
そんなキッドさんの様子を見ていると、死ぬまで走れと先生に言われ、馬鹿みたいに走った記憶が急に脳裏に呼び起こされ。
まるで俺の心の声を読んだかのように、キッドさんは俺の肩に手を乗せてきた。
「ちなみにこれは学園では教えてないことだ……何故だかはカズくんなら分かるんじゃないかな?」
それなら理由は一つだけだろう……。
「危険だからですか……?」
俺の言葉にキッドさんは頷いた。
「先生の弟子はね、この技術を先ずはじめに学ばされるんだ」
あぁ……キッドさんも弟子時代は先生から無茶難題を課されていたのだろう。
『わかる。わかるよ……』
そう言いたげな感情が、その虚なキッドさんの様子から伝わってくる。
勘違いしてしまいそうになるが、肉体の制限を外す技術と、修羅道とは別物だ。
肉体の制限を外す技術と違って、修羅道は脳の制限を捨て去る行為。
似ているが全くの別物なのだ――何故俺が別物だと言い切れるのかといえば、先生が修羅道は技術ではないと言っていたからであり――
そんな回想を俺がしている間に、キッドさんは能力値の説明を再開した。
「次は技量だけど、技量は値が高いと高いほどスキルの習得が早く、高位のスキルが習得できるようになる――これは知力も同じで、体感だけど300でAランク、600でSランクのスキルや魔術が覚えられるようになる。それで魔力は魔術を使う時に必要になる物で数値が高いと魔術耐性が上がったり魔装が使えるようになって。次に敏捷性は五感の鋭さを表してて、これも学園では教えてないけど値が高まれば第六感に目覚めることもある……」
そこまで説明を終えると、キッドさんは一度俺の顔を見て真剣な表情になり。
「次に精神力だけど……この数値はその人物の精神力の強さ――根性や意志を曲げない強さを表してるんだけど。……精神力の数値が高いってことは、それだけ精神的負荷がかかる出来事を経験したってことか、今現在精神的な負荷を抱えてるってことなんだよね……」
キッドさんの表情が再び曇る。
「普通はね、人間が耐えられる精神力の上限は100前後で、100を超えてくると精神的に負荷が掛かり過ぎて、精神疾患を発症するんだ……それこそ150を超えてくると廃人化したり暴走したり、それこそ200を超えるまでには…………」
それ以上キッドさんは言葉を続けはしなかったが、その表情からそういった人物がすでにこの世にはいないのだと言う事は容易に察することがでた。
「なるほど……」
だからこそ、俺の823という数値は――
「異常値ですね」
キッドさんが深く頷いた。
「カズくんの精神力は先生の元で上がったものかい?」
「……どうでしょう。多分違うと思います」
フィーの死や過去の出来事が俺に精神的負荷をかけたのだろう。
先生の元で確かに精神力は上がりはしたが、それでも先生へ弟子入りした時から俺の精神力は500近くあった。
今思えばあの頃の先生は俺を事ある毎に狂人だと言っていたが――
道理で、そう言われてもおかしくない理由が俺にはあったと言うわけだ。
…………。
無言で俺の様子を見守るキッドさんの心配そうな、不安げな様子にも納得がいく。
キッドさんは多少なりとも俺の過去の行いを、奴隷商を無差別に殺しまわっていたことを保護した生徒から聞いている。
その上で俺の精神力の異常値を見れば、そりゃ心配するに決まってるし、俺であれば周囲の人に危害を加えないのか心配になる。
だと言うのに――
「キッドさんは優しいですね」
キッドさんから感じるのは周囲への心配ではなく、俺個人への心配だった。
「今は大丈夫なのかい?」
「はい」
フィーの死に思うことがないのかと問われれば、思うことだらけだが、自分の中でこの感情の制御はできている。制御できた結果が修羅道なのだから大丈夫だと言っていいはずだ。
「……そうか、ならこれ以上僕が何かを言うことはないかな」
そう言うとキッドさんは微笑んだ。
「とりあえずこれで能力値の説明は終わりだね」
「……運の値についてはまだ聞いてないですよ?」
「ああ、運の役割については謎なんだよ。それこそ精神力から開花する力が謎なようにね」
何故なのだろう……? 今まで嘘なく話してくれていたキッドさんが、唐突に嘘を口にした……ただ、その嘘に悪意は無く、俺が嘘だと気づいたことにもキッドさんは気づいているようで――
「何故嘘を?」
俺からの言葉にキッドさんは笑った。
「君がその能力を習得してるか気になってね。その力は他者との関わりをややこしくさせるから、知らないのなら知らない方がいいと思ったんだ」
キッドさんはそれだけ言うと、これで話は終わりだと言いたげに立ち上がり、会話が終わるのを首を長くして待つフェルトの元へ向かって歩き出した。
運の値が上がると開花する可能性がある技術についてはキッドさんも本当に何も知らないようだが、精神力から開花する能力は、他者が嘘をついているかどうかを見抜く事ができると言う力であり、キッドさんは俺がその能力に開花しているのかを確認するために嘘をついたのだろう。
…………。
だた、全てを知ったように話すキッドさんも、この能力の全ては知らないらしい。
この技術は磨かれれば磨かれるほど、相手の真偽がわかるだけではなく、相手の善悪の感情がわかるようになり――その後相手の感情が全て理解できるようになると、その感情をまるで自分の感情として感じる取ることができるようになる。
「長かったね。話は終わったのかい?」
「ええ、終わりましたよ」
今キッドさんは俺に背を向けフェルトと会話をしているが、俺はキッドさんの楽観的な感情を感じ取れるし、キッドさんの背で隠れたフェルトの多少の苛立ちを感じ取れる。
精神力が200を超えた者がいないからこそ知られていないことなのだろう……。
――いや、違うな。
少なくとも先生はこの力を知ってるし、間違いなく持っているのだろう。
「やっぱり私には能力値を教える事は出来ないのかい?」
「そうですね、カズくんの能力値については教えられませんが――」
キッドさんはそこまで言うと俺の方へと振り返り、やれやれと少し呆れ気味に。
「アビくん同様、カズくんも能力値だけならレオ以上ですよ」
この能力を知らないキッドさんは、あっけらかんと微笑んでくるのだった。
意見大歓迎です、評価も待ってます!
誤字脱字わからない表現があれば教えてください。
読んでいただきありがとうございました。




