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後の悔い先に立たず  作者: 狸ノ腹
第二章 学園邂逅
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【能力値の役割と吐露】01

『災暦1496年12月1日』


 ――てなことがあって、その時助けたエルフの子がここにいるらしい」


「お前の夢の原点か……」

「ああ」


 助けたエルフのことを、過去の出来事を交えながら、全てではないがアビに話した。


 アビには以前、俺の夢を話したことがあったので、話の理解もそれなりに早く。

 話の最中、何度か質問をしてきたが、アビは俺の話を終始真剣に聞いていた。


「……にしても昔のお前、女に甘え過ぎやしないか? いや、女の方もお前に甘々だし」

「――あ?」


 真剣に話を聞いてくれていたと思ったのは俺の勘違いだったようだ。


「わりぃわりぃ――ふざけたつもりじゃねぇんだが……お前の昔の話なんてあんま聞いてこなかったし、お前も話したく無いと思って聞かないようにしてたからな。こんな形で聞くことになるとは思ってなくてつい思ったことを言っちまった」


 アビは複雑そうに、困ったようにそう言ってきた。

 確かに、過去のことを急に話されても反応に困るのは気持ちもわからない訳ではないが……今の言葉を聞く限り、俺がフィーに甘えまくっていた事については何一つ訂正する気がないように思える。

 まぁ正直、俺もそのこと自体は否定できないので、これ以上突っかかる気もないが。


「それにしても、そのエルフの女よく無事だったな」

「ああ、俺も驚いたよ」


 ノルアの街近隣の森から学園があるこの森まで数珠繋ぎで繋がってはいない。

 それは、ノルアの街から逃げ出し、旅をした俺が一番よく理解している。

 だからこそ俺が言えることがあるとすれば――


「キッドさんの活動範囲がそんだけ広いって事なんだろうな」


 ここへ来る道すがら聞いたキッドさんの移動速度とその体力を考えれば、キッドさんであれば少なくとも一日で二○○○㎞の距離を移動できるだろうし、何らかの探知系スキルを保有していれば、それだけ探査範囲も広くなる。


「それは否定しねぇが、それでも奇跡だろ」

「だな」


 アビの意見に同意を示す。


「そんでお前はどうすんだよ?」

「どうするって?」


 質問の意図が分からず、俺は頭の上に『?』を浮かべた。


「その女と会うんだろ?」

「そりゃな、キッドさんも会って欲しいって言ってたし、会うんじゃないのか?」


 それが一体どうしたと言うんだ?

 俺の疑問にアビは何かを言おうと口を開けたが――


「はぁ……お前がいいなら別にいいよ」


 と、喉元まで出かけた言葉をアビは飲み込んだ。


「ったく。せっかく疲れが取れたってのに、話聞いて疲れちまったじゃねぇーか」


 そう言ってアビは一息つくと、気分を切り替えるため背伸びをして立ち上がり。


「まだ時間あんだからさっさと飯でも食い行くぞ」

 

 そう言ってきたアビの提案に、俺は『ああ』と、返事を返した。





「いるな」

「いるね」


 アビの言葉に返事を返す。


 食堂へ向かえば、朝食の時刻を外しているためか生徒の姿は殆ど無く、食堂では教師らしき大人たちが食事を食べながら談義していた。

 当たり前だが教師陣も亜人だ。

 全員の姿を正面から確認できるわけではないが、後ろ姿からそれはわかり。


「獣化が進んだ獅子と、婆さんエルフはまあまあ強そうだな」

「そうなのか?」

「ああ」


 あれぐらいで強いのか……。

 と、俺はアビの言葉に頷いた。


 俺は他者の気配とその感情を把握することは得意だが、他者の力量を測るのは不得意だ。流石にキッドさんやアビが強いのは気配でわかるが――逆を返せばそれだけ強くなければ俺は相手の力量を推し量ることができない。

 これは圧倒的な強さを持つ先生と過ごしたことによる弊害。

 先生に日々しごかれたせいで、俺は相手の力量を測るための感覚がバカになってしまったのだ。


 教師陣の中にいた高齢の、アビが言うところの婆さんエルフが食堂へ入ってきた俺達の存在に気づいたらしく、目があったので俺が会釈すると。

『――あ』と、俺達が何者か気付いたようで、そんな婆さんエルフの様子に、他の教師達も俺達の存在に次々と気づいていき。

 そして、教師陣が全員俺たちの方へと視線を向けると、その最奥にいた人物が。


「二人ともおはよう! 朝食でも摂りながら今日の予定でも話そうか!」


 キッドさんが、俺達に手を上げ呼びかけてきた。

 厨房で朝食を受け取ってから、キッドさんの元まで向かう。


「アビくんは十分休めたみたいだね」

「ええ、おかげさまで」

「カズくんの方は明け方まで第八道場に籠もってたみたいだね?」

「ありがたく使わせてもらいました」


 キッドさんにお礼を伝えながら。


 睨むな――睨むな――

 と、俺は心の中で呟きながら、隣から睨んでくるアビの視線をシカトする。


 昨日エルフの話を聞いた後、俺が体を動かすのにいい場所はないかとキッドさんに聞いたところ。自由に使っていいと、あまり使われていない道場の使用許可をもらい。

 使用許可を貰った俺は、そのまま明け方まで道場に籠り体を動かしていた。

 その事について小言を言われるのが面倒だったので、自由に使っていい道場を提供された事については頃合いを見てから話そうと思っていたのだが……。


 こうもあっさりバレてしまうとは、流石に思っていなかった。


「それで今日の予定だけど――あ、ご飯食べながら聞いてくれればいいからね」

「そんじゃ遠慮なく――」


 アビが食べ始めるのを見てから。


「いただきます」


 俺も食事を食べながら、今日の予定を聞いていく。


「元々は昼からの予定だったけど、ちょうどいいし食べ終わったら身体測定と、能力値の更新、その後に学力検査って順番でいこうと思ってるんだけど問題ないよね?」

「――は?」


 ――え? 

 って⁈  びっくりした、俺じゃないよな。


 一瞬自分の心の声が漏れてしまったのかと驚いてしまったが、声を出したのは俺ではなく。

 不満そうな声を漏らしたのはアビの方だ。


「何で学力検査なんざ今更受けなきゃいけないんですか?」

「やっぱりそうだよねぇ、カズくんも同意見?」

「えぇ、まぁ……」


 言い方から察するに、学力検査をさせたいのはキッドさんではないらしく。

 キッドさんはその困り顔を婆さんエルフへと向けた。


「って、わけらしいんだけど……」

「ダメだよ。ここで暮らす以上、戦神の弟子なんだろうと最低限の規則には従ってもらう」


 婆さんエルフがキッドさんに、俺達に言ってくる。

 どうやらこの人が、俺達に学力検査を受けさせたいらしい。


「「…………」」


 俺とアビは無言でキッドさんに説明を求めるが、キッドさんは『あはは』と力なく笑うだけで回答が得られそうもなく、視線を婆さんエルフを見れば。


「何だい? 文句あるのかい?」


 悪意は感じられないが、先生と被るような言葉を吐いてきた。


「――あ? 文句大有りに決まってんだろうが!」


 悪意は無いとアビだって気付いているはずだが、手当たり次第に喧嘩を売り買いしていくのは間違いなくアビの欠点だ。

 キッドさんは俺がアビを止めるとでも思っていたのだろうが、俺がアビを止める気がないことを察すると、慌てて二人の仲裁に入る。


「――ま、まぁ、まぁ……」


 キッドさんが仲裁に入ったことでアビはいったん文句を言うのを止めるが、その表情からは不満が無くなった訳ではなく。

 そんなアビの様子にキッドさんは『困ったなぁ』といった表情を作り、婆さんエルフへと再び視線を送った。


「ある程度学があるのなら別にいいさ、でも風人が何と言おうがここは学舎だ。学が足りないのなら補ってもらう」


 婆さんエルフが自分の意思を押し付けてくる。

 風人とは確かキッドさんの二つ名であるのだが、なぜこの婆さんがキッドさんを二つ名で呼ぶのかという疑問は置いておき。

 キッドさんの様子を見れば、俺達に申し訳なさそうな表情を浮かべるだけで、婆さんエルフの言葉自体に反論する気は無いようだ。


「キッドさん、ここはあんたの道場のはずだろ?」


 アビの問いにかけに俺も心の中で頷いた。


 やっぱ、そこ引っかかるよな。

 俺と同じ疑問をアビも抱いていたようだ。


「そうなんだけど……そうだったって、言った方が正しいかな……?」


 だった?


 俺達の疑問にキッドさんが説明してくる。


「数年前まで本当にここはただの道場で、学びたい子は学べるようにしてたんだけど、道場の規模が大きくなるに連れて教師の数も増えていってね。そのうち道場から学園って呼ばれるようになって。実は僕自身、今はもうほとんど運営には関わってないんだよね。直弟子が居なかったら多分ここには残ってないよ。あはは――」


 冗談ぽくキッドさんはそう言ったが、その言葉に一切の嘘は無く。


『形式上は学園かもしれないね』


 そうキッドさんは言っていたが、これでは事実上の学園だ。


 そもそも何故キッドさんはこの婆さんエルフに従っているのか、その理由がわからない。確かにどこか先生に似た雰囲気を纏っていて苦手な相手ではあるが、それでもアビほど相手の力量が測れない俺からしてみれば、この人はキッドさんより明らかに弱そうに見える。

 だというのに、キッドさんの周りにいる他の教師陣の様子を見るに、この婆さんエルフは教師陣の中でかなりの発言力があるようで……どうやらこの婆さんがここを仕切っているらしい。


「なんだよそれ」


 説明を終えてもアビは納得していない。

 もちろん俺だって納得はしていない。

 ――だが。


「悪いね。アビとカズだったかい? あんたら二人にもここにきた目的があったんだろうが、少なくともここで暮らす以上、私はあんたらを生徒として扱うつもりだし、ここの規則には従ってもらう。――いいね?」


 そう力強く笑いかけてきた婆さんエルフの、討論すらする気のないその様子に。


「……わかりました」


 俺は頷きを返してキッドさんに視線を向け。


「――ッチ」


 アビは舌打ちを返してキッドさんへ視線を向け。


『『後で説明頼みますよ』』


 と、俺達は二人でキッドさんを睨みつけた。


 この歳で学生生活を送らなければいけないだなんて、考えていた中で一番最悪な展開だ。

 面倒だと思う気持ちが膨らんでいくと共に、これならば先生の元に残った方がよっぽど良かったと思ってしまう。


「そういや名乗り忘れてたが私はフェルト、これからよろしく頼むよ二人とも」


 そう言って話を終えたと言わんばかりにフェルトは立ち上がると、自身が食べ終わった食器を手に取り。


「さぁ、あんたらも食い終わったんならさっさと身体測定に行くよ」


 そう言ったフェルトが、食器を片付けに行ったのを目で追いながら。


「「「はぁ――――」」」


 ーーと、俺とアビに混じりながらキッドさんも、長いため息を吐いてうなだれるのであった。





「アビくんの身長が一八三㎝、カズくんの身長が一八〇㎝」

「記録したよ。次は体重だ」


 キッドさんとフェルトに連れられアビと共に来たのは、普通の学校にある保健室よりも一回り以上大きな保健室。


 身体測定をしたところで何の意味があるのかはわからないが、指示に従いながら俺とアビは順番に体重計に乗り。


「アビくんが、結構あるね八五㎏で、カズくんが、え……一〇七㎏⁈」

「え……?」


 流石に測り間違いだろうと思いつつも、突飛よしもない数値に思わず声が出てしまう。


「ちょっともう一回計り直したいから一回降りて、胴着も脱いでくれるかな?」

「わかりました」


 キッドさんの指示に従い、体重計から降りて胴着を脱ぐ――と。


「あぁ……。やっぱそうなるのか……」

「おいおい、なんだいこりゃ⁈」


 俺が上着を脱ぐのと同時にキッドさんが呆れ、フェルトが驚愕の声を上げた。


「悪いんだけどアビくんも脱いでもらってもいいかい?」

「はぁ……」


 ため息を吐きつつ、アビも言われるがまま上着を脱ぐ。


「どう言うことだい風人、説明しな」

「説明も何もないですよ。先生の――戦神の弟子になるってことは、こうなるってことなんですよ……。まぁ言いたいことは僕もわかりますけどね」


 フェルトが俺とアビの体をジロジロと舐め回すように見てくる。

 何故こんなに俺達の体をジロジロと見てくるのか、その理由がわからないわけではない。


 普段は大きめの武道袴を着ていて目立たないが、俺達の肉体は常識的な範囲から少々逸脱して筋肉が発達している。

 もちろん怪物的なボディービルダーなどの筋肉と比べればまだ可愛らしい程度だとは思うが、それでも常識的な、それも二十歳そこらの肉体では決してなく。

 俺達の容姿が十六前後に見えるのも相まって、側から見た俺達の肉体は異質なものに見えていた。


「……えっと、計り直したカズくんの体重は一〇六㎏だね」


 だがまぁ、いくら逸脱していたとしても、アビとそう変わらない体型である俺の体重が一〇〇㎏を超えている事に関しては多少疑問を覚えるが――

 何度も死んでいるうちに肉体の構造が変わったのだと考えれば、この体重にも説明がつく。

 それこそ体重に変化が起きたのは最近ってわけでもないようだ。

 アビの『今更そんな話かよ』と言いたげな表情が、俺の体重の変化が急に起きたものではないということを物語っている。

 おそらく日々の特訓に付き合ってもらっていた時から、俺の体重の変化にアビは気づいていたのだろう。


「戦神は一体どんな鍛え方をしているんだい?」

「「「…………」」」


 フェルトの質問にキッドさんは虚ろになりながら目を逸らし、その様子を見て俺とアビに視線を向けてきたフェルトに対して、俺とアビも目線を逸らす。


 どんな鍛え方か……。


 目を閉じれば浮かんでくる先生との鍛錬の日々。

 無茶な課題を出され実践して死んで、死合して殺されて、その他の時間も体を鍛えて……結局死んで――ほら完成。


 こんな話をする気はないし、アビとキッドさんも話す気は無いようだ。


「まったく……戦神の弟子はみんなこんな奴なのかい? 少しはユイやフォンみたいに素直に話してくれないもんかね」


 フォン……。

 昨日のエルフの名前が出てアビが何か反応を返して来るかとも思ったが、特に反応は返さず。


 ……どことなく似てるけど親戚か?


 今更ながらフェルトとフォンの気配が似ていることに気がついた。


「先生の話はさておいて、次は能力値更新に向かおうか!」

「まったく……」


 呆れた様子のフェルトをよそに、キッドさんが次の場所へ向かって歩き出し、俺とアビは先ほど脱いだ胴着を着直しながらその後をついていった。


意見大歓迎です、評価も待ってます!

誤字脱字わからない表現があれば教えてください。

読んでいただきありがとうございました。

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