【決意の日】02
注意深く森の中を駆け走り、少女を探し始めてから三時間ほどがたった。
森の中は梅雨時のようにジメジメとして、汗が出て止まらず気持ちが悪く。
「――ッチ」
そんな中、突然現れた狼の群れに俺は堪らず舌打ちをした。
こんな闇雲に探した所であの女の子が見つかると言うのだろうか……?
と、疲労と苛立ちからそんな事を考えてしまう自分の頭を横に振る。
「馬鹿か俺は――」
腰にかけられたレイピアを強く握りしめ、送り出してくれたフィーの姿に、そして絶望していた少女の姿を思い出しながら。
――まだ動ける。こんな所で立ち止まれるか!
フィーの思いと少女の救いに応えるために、俺はレイピアを鞘から引き抜き狼達に向かって走り出した。
走り出した俺の姿に狼達が臨戦態勢をとり。
正面にいた一頭の狼が俺に向かって――左にいたリーダー格の大柄な狼が左に向かって駆け出した。
視界に映る狼の数は五頭だが、背後から更に二頭の気配を感じる。
奇襲組みなのだろう、息を潜めて俺の隙を狙っているようだ。
いくら獣とはいえ、知性が高い奴らを相手にするのは厄介だ――だからこそ、狙うべきは横に飛び出した一際大きな狼なのだが。
一直線に向かってくる狼が目の前まで迫り――飛びかかってきた狼に対して、俺は体勢を落としながらその前足を斬り落とし。左手で黒曜石のナイフを引き抜き、後ろから奇襲を仕掛けてきた二頭の狼、その片方の首元に短剣を突き刺した。
――が。
「――ック!」
もう一頭の狼に左足を噛みつかれてしまった。
すぐに噛みついてきた狼の頭をレイピアの切れ味に任せて両断し、足を斬り落とし地面で踠いている狼にとどめを刺した俺は、ベルト付けている下級回復薬を噛まれた傷口に流しかけた。
「――ッ」
回復薬をかけた傷口から、熱い鉄板に水をかけた時のような音と蒸気が立ち上り、強烈な痛みと共に傷口が塞がっていく。
一人だとやっぱりキツいな……。
気を引き締めて戦っているつもりだが、どうやら無意識に驕っていたようだ。
この種の狼は何度も討伐したことがあるが、一人で複数頭を相手取るのは初めてだ。
いつもはリオやフィー達が奇襲の警戒や遠距離攻撃をしてくれ、落ち着いて戦闘できるが……一人での戦闘ではその全てを自分で対処しなければならない。
いつも以上に集中しなければやられるのはこっちの方だ。
残った狼の数は四頭――しかし、リーダー格の狼の気配を今ので見失ってしまった。どこかから俺を見ていることはわかるが、その場所までは特定できない。
膠着状態が続く…………。
一体どうしたものか……。
正面にいる三頭の狼が俺を睨みつけたまま動かないが、かと言ってこのまま逃げようとしたところで素直に逃がしてくれる訳がない。
次第に日が暮れ始め……。
――それが狙いなのか!
と、狼達の狙いに気がついた。
森の中であるために元から薄暗く、少女を探すことに夢中で気づかなかったが、日は既に沈み始めている。
急いで腰につけた魔光石に触れて明かりを灯す。
暗い場所での明かりは目立ち、獣の標的にもなってしまうが、俺の察知能力ならば奴らの接近には十分気がつける。問題は視界の方、夜目に慣れる前に襲われ足を取られるようなことがあれば、その隙を獣共は見過ごしてはくれないだろう。
落ち着け、落ち着け、落ち着け――。
この状況の危うさに、久しぶりに感じる命の危機に、自分の息が荒くなっているのに気づき、焦ったところでなんの打開策も浮かびはしないと、自分自身に言い聞かせる。
戦わなくては生き残れない。
殺さなければ生き残れない。
こんな記憶を思い出したい訳ではないが、それでも今はこの偏った思考が必要だ。
――思い出せ。病室での孤独の時間を。
――思い出せ。あの医師の嘲笑を。
沸き立つ感情に思考を委ね。
「――ハハ」
込み上げた感情に俺は笑った。
視線を狼共に向ければ、自分達の仲間を殺された怒りからか、はたまた俺をただ食いたいだけの貪欲な、嘲笑ったような表情なのか、どちらにしろ俺を見据えるように狼どもが睨んでいた。
レイピアの切先を狼共に向け。
「ハハハ」
狼共に満面な、悪意に満ちた笑顔で。
「アハハハハ――」
俺は盛大に笑いかけた。
狼共の視線に変化はない。変化はなかったが――
「ハハハハハ」
俺がなぜ笑っているのか、その理由に一頭が気づいたようだ。
他の狼が動かない中で、一頭だけが俺に向かって飛び出してくる。
「ばぁ〜か」
飛び込んでくる狼の頭をレイピアの切先で受け止め、頭から串刺しになった狼の、崩れ落ちたその体に。
「グサ、グサ、グサ――」
何度も、何度も――俺はレイピアを突き立てた。
「「グルルルル」」
ここで鈍感な狼共も気づいたのだろう。
正面に残る二頭が唸り声を上げ始め、森の中から俺を見る獣の気配まで感じ取れた。
「アハハハハハハ」
自分でもわかる醜悪な笑みで狼共を馬鹿にする。
初めの笑いは多少演技だったかもしれないが、この笑いは心からの嘲りで――
そんな俺を殺すべく、正面にいた二頭が駆け出してくる。
「あぁ……」
不意に自分のものだろう声が聞こえた。
自覚して出た声ではなく、未だ命の危機だということに変わりはないのだが……。
「あぁ〜あ」
今度は自覚して、呆れた感情を狼共に向かって吐き捨てる。
正面にまで接近する狼二頭の間近、俺は狼共の殺気が伝わってくるその視線を目で見つめた状態のまま。
「学習しろよ――」
二頭の狼共から視線を外して後ろを振り向き、その勢いでレイピアを――殺気を消して飛びかかって来たリーダー格の狼をその口元から斬り裂いた。
歯を食いしばり衝撃に備え。
「――ッ‼︎」
襲われた痛みに、二頭の狼に噛みつかれた衝撃に眉をよせる。
わかっていたが相当に痛い。
――すぐさまレイピアを使って左足に噛みついた狼の腹を斬り裂き、右脇腹に噛み付いている狼を串刺しにして引き剥がし、とどめを刺す。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
終わった……よな……?
息を整え、新手の奇襲に備えるが、周囲から獣の気配は感じない。
…………。
ベルトから回復薬を一本取って、俺は崩れるようにその場へと座り込んだ。
服を捲ってフィーのことを考えながら。
いってえぇぇ。
右脇腹の傷口に、左足にも回復薬をかけて傷を治す。
疲れた……。
戦闘を終えたことで、どっと疲れを感じ、同時に気分も悪くなる。
気分が悪いと言っても吐き気を感じているわけではなく、先ほど抱いた自分の感情に対して嫌悪感を感じているだけだ。
あんな侮辱的な戦闘をしたかったわけではない。
だが――
『君はどう言い繕うとこっち側の人間だ』
彼奴の言葉を思い出す。
『君は凡人だよ』
真っ黒な両目を細めた彼奴はそう言い。
『でも見どころがないわけじゃない』
ニタニタと笑っていた。
『君が強くなる方法は一つだけ、醜悪に、残虐に、その快楽に高揚しながら、君の本質を曝け出すしかないんだよ』
最悪の男――ロット・リンクスはそう俺に言った。
ロットの言葉は的を射ているのだろう。
あの危機的な状況から、感情のままに狼達を馬鹿にした結果、こうもあっけなく勝ててしまったのだ。
あのような残虐行為を平然と行うロットの言葉を受け入れたくはないが、それでもロットの力とその洞察力は怪物的で――流石は世界に三十名ほどしかいないSランクの中でも別格と称されているだけはあって……。
ロットとは決別したと言うのに、俺は今でもロッドの強さを慕っていた。
ロットは人間以外を――異種族を嫌悪していた。
そして、その対象を実力行使で排除していた。
まるで虫を殺すように、時には虫を遊び殺す子供のように、血統に少しでも異種族の血が入っていれば例外なく、貴族であろうと関係なく。
ロット・リンクスと言う名の死神は相手を地獄へと叩き落とした。
今でも鮮明に覚えている。
洞窟亭で俺に親切にしてくれた彼女らが、その内の五人が一人を守って全員殺され、その光景を延々と見せられ衰弱し切った女の子……。
気持ちが悪い。
ロットの姿が病室の男と重なって脳裏に写り。
「彼奴は悪だ――」
ロットへ抱いた感情を、俺は自分に言い聞かせるように口にした。
彼奴の行いが正しいかどうかは重要じゃない。
俺は誰かを救いたいのだ。
騎士になる目標の先に、俺はそんな思いを持っている。
『僕は争いのない世界を作りたいんだ』
そう言ったクリスさんの思いを、俺を救ってくれた英雄を――俺は尊敬するし、憧れている。
クリスさんの夢の手助けをしたい、そのために俺も誰かを救いたい。
自分が救われたように、俺も誰かの事を救ってあげたい。
漠然とした夢とはいえない思いだが、だからこそ俺はロットとは相容れない。
相容れる訳がない程に、彼奴は俺の絶対的な敵でしかないのだ。
「――ッ、いってぇ……」
木に生える苔に足を滑らせ倒けてしまった。
周囲に獣の気配は感じられないので、襲われはしないが……。
「はぁ……はぁ……」
狼を殺してから、更に五時間以上経った。
日が沈み涼しくなっても止まらない汗を服の袖でぬぐいながら、水筒に入れた水を少しだけ飲み、息を整えて立ち上がるが……。
立ち上がると同時に足が痙攣し、体力の限界を訴えかけてくる。
「この辺が限界……か」
今の自分の位置を、歩んできた道のりを振り返り帰った俺はそう言葉を漏らした。
首にかけたカード型の認証盤にはめ込まれた記録石に手を触れ。
『災暦1496年7月12日 00:23』
今の時刻を確認する。
これ以上奥に進むのは危険だろう。
既に街に迷わず帰られるか危ういほど森の奥へときてしまった。
ディルさんに教えてもらった知識だが、森の奥へ進めば進むほど獣は強くなり、魔物が現れる可能性も上がっていく。
まだゴブリンなら何とかなるが、スキルを保有した魔物を相手取るほどの力は俺にはない。
「…………」
もう諦めるしかないと息を吐いて下を向き。
「――え?」
そこにあった、どう考えても自分の物では無い足跡に俺は唖然としてしまった。
足跡に駆けよって魔光石の光を当てれば、それは間違いなく人のもので、よく見れば血が滲み。触れてみれば、まだ固まっておらず濡れていた。
――追いつける。
少女の――そうで無かったとしても怪我人の痕跡を見つけ、棒切れのように感じる足を無理やり前に進ませる。
……ここだ。
近くに人の気配を感じ、魔光石の光を頼りに周りを見渡してみれば、地面の一箇所だけ、妙に草が溜まった場所があった。
おそらく獣の巣穴なのだろう、草と枝で上手く塞がれてはいるが明らかに先がある。
草と枝を取り除き、斜めに掘り進められている穴の中に慎重に入り、そして――
「アァ――!」
「――っ」
中に入った瞬間俺は襲われ。
襲われながら俺は――
「よかった……」
と、心の底から安堵した。
「アァーアァ!」
巣穴にいたのは今朝見た、もう日付が変わっているので昨日だが、俺が見た少女で間違いなかった。
少女の肩まで伸びた髪は元は金色なのだろうか、穴の中の暗さもあるがそれ以上に汚れで色がわかりづらく、服はボロボロの布切れ一枚で覆われ。
「アァーアァー!」
岩を両手で持ち上げ、俺へと振り下ろした彼女の手は、体は、足は、痩せ細り……。
「大丈夫……もう大丈夫だよ」
ここまで逃げるのに体力を使い果たしてしまったのもあるだろうが……。
「もう大丈夫」
「アアアァ!」
泣き叫ぶ少女の持つ岩を片手で抑え。
なぜ咄嗟にそんな行動をしたのか自分でもわからなかったが。
「もう大丈夫だから……」
少女に安心して欲しいと、そう思いながら、俺は少女を抱きしめた。
この少女のどこが凶暴なエルフだと言うのだろうか、こんなボロボロの少女の、傷だらけの少女の一体何が危険だと言うのだろうか。
この世界に来る前の、思い出したくもない過去の自分が少女と重なり目に映る。
「大丈夫だからね」
伝わらない言葉で少女を安心させようとしている自分が泣いていることに気づいた。
「ごめんね……」
抵抗する少女の力が弱まったのを感じ、絶望する少女から岩を取り上げて距離を取る。
「……武器か」
少女が、俺が持つ武器を怖がっていることに気づき、レイピアと短剣を腰から外して少女の方へと投げ渡し、カバンを下ろして中級の回復薬を、俺は取り出した。
「アァー!」
カバンから回復薬を取り出している間に、少女は俺が先ほど投げ渡した黒曜石の短剣を握ると、近づくなと言いたげにその刃先をこちらへと向け――
そんな少女に対して俺はお構いなしに一歩近づき。
「アァー!」
近寄るなと言っているのだろう少女の叫びに、再び一歩踏み出した。
「アアァァ!」
悲鳴のような声と共に少女は短剣を振り上げると――振り上げた短剣を振り下ろすことなく、落とすように短剣を足元に手放した。
「アァ……」
全てを諦めたように少女は力なく座り崩れ、小さな声で泣いてしまった。
少女は肉体的にも、精神的にももう限界で、それでも必死に生きようと足掻いているというのに、他者を傷つけられない優しい心を持っていた。
だからこそ確証まではなかったが、こうなるとは思っていた。
少女に飲ませるため回復薬を一口飲んで、安全だと教えて差し出すと、少女は一瞬戸惑った様子を見せたが喉が渇いていたのだろう。
自分でも一口飲んで飲めることに気づくと残りの回復薬を一気に飲み干した。
本当なら俺は残りの荷物を手渡して、ここから去ったほうがいいのだろうが――
カバンから食料を取り出して手渡すと次は躊躇なく食べ始め。
「あぁ――」
少女は声を出して涙を流し始めた。
水筒とタオルに、傷薬と包帯を取り出して、警戒心を緩めてくれた少女の足の治療を、纏っていた布を脱がして体の治療をする。
「――――」
唇を噛んで平静を装いながら。
ふざけるな! ふざけるな! ふざけるな!
少女の体と耳を見て、ドス黒い――へどろのような苛立ちが湧き上がってくる。
いつから奴隷だったのだろうか……少女の全身には夥しいほどの傷跡が残り、耳はもう――何で切られたのか、引き千切られたような歪な形で残っていた。
フィーに用意してもらった服と下着を取り出して少女に渡し、自分で着替えられるのを確認してから、俺は一度巣穴の外へ出た。
俺から見れば彼女は少女だ……だが、実際の年齢はフィーと同じぐらいなのだろう。種族が違うので確信までは持てないが、痩せて、幼く見える少女の胸や身長は、子供のものとは違っていた。
何が貴族だ‼︎
怒りのまま、近くの木の幹に左手の拳を叩き込む。
惨たらしい、とてもじゃないが人間の行える所業ではない。
遊び半分であんなことをしたとでも言うのか? ふざけるのも大概にしろ‼︎
「はぁ……」
幹に叩きつけたせいで流れる拳の血と痛みで少しだけ冷静さを取り戻す。
そろそろ着替え終わっただろうか?
と思い、少女の元へ戻ろうとした瞬間だった。
――ッ‼︎
人が歩く足音が聞こえ。
「誰かいるのか!」
その聞き覚えのある男の声に、俺の血の気は一気に引いた。
「お前……」
声が聞こえてから声の主と出会うまで三秒、俺の頭の中は真っ白で――
「ディルさん……」
目の前に現れた男の名前を、ただ呼ぶことしか出来なかった。
「馬鹿野郎が……」
声を押し殺してそう言ったディルさんは、周囲を警戒しながら俺の前まで近づいてくると、俺を手で押し退け、巣穴の中を見て歯を食いしばり――
「バレなきゃいいとでも思ったのか⁈」
片手で俺の襟を強く掴み睨みながら。
「貴族に目をつけられたら、お前の女もああなるんだぞ!」
怒りに満ちた声で、エルフの少女へ指を差した。
「力も無いくせにでしゃばりやがって」
睨んでくるディルさんの言葉に俺は返事を返すこともできず。
「――ッ」
俺は無抵抗に顔を殴られ、木の幹へと体を押し付けられた。
「自分勝手に死にたきゃ一人で死ね。周りを巻き込んでんじゃねぇ‼︎」
そう怒号を吐いたディルさんの俺を睨む目は冷たく。
「二度と俺の前に顔を出すな!」
最後にそう言って、ディルさんは俺の襟から手を離し振り返る事もなくこの場から――エルフの元から去っていった。
…………。
胸が苦しかった。
自分が間違ったことをしたとは思っていない。
それでも信じていた人に……師だと思っていた――ディルさんの言葉はとても痛く、裏切ってしまった自分が情けなく思え……。
フィーに危険が及ぶ可能性すら考えていなかった自分のバカさと愚かさに、フィーに何かあった時のことを考え。
それ以降はもう朧げだった…………。
俺は少女に持ってきた鞄の中身をカバンごと、残りの食糧と回復薬に、多少の金と衣類を渡し、クリスさんから貰ったレイピアを、レイさんから貰った短剣を――
信じてくれていた人を裏切ってしまったという事実に、自分の情けなさを感じて投げやりになりつつ、それでも少女の今後に必要な物だと思い、持っていた全てを少女へと渡した。
「さよなら……」
そして、最後にそう告げた俺は、その場から、逃げるように立ち去った……。
ディルさんが付近の獣を一掃したのか、武器無しの自殺を疑われるような帰り道に獣と遭遇することはなく。
日が登り、いつもの朝食の時間を少し過ぎた頃、俺は洞窟亭へと無事に帰り着いた。
洞窟亭の裏に周り、倉庫裏の洗い場で汲んだ水で、汗と血で泥だらけの体をタオルを使って洗い流す。
全身に細かな傷があるせいで全身至る所がしみるように痛い。
俺がそんな痛みを感じていると。
「――カズさん!」
俺を見つけてフィーが駆け寄ってきた。
「フィー……おれ……」
「大丈夫、大丈夫ですよ」
事の次第を説明しようとした俺の言葉を遮るように、フィーが優しく抱きしめてくる。
そして、フィーから伝わってくる暖かさと、優しさに。
「俺、俺は間違ってたのかな……」
抱えていた俺の感情は決壊し、決壊すると共に涙が溢れ出てきてしまった。
「俺、ディルさんを失望させちゃった……。それにフィー達に危険が及ぶかもしれないこと考えてなかった……」
思ったことを感情のままに伝えると、フィーはそんな俺を安心させようと強く抱きしめ。
「言ったはずですよ、私はカズさんが正しいと思う道についていくって。だからカズさんはそれが例え間違っていたとしても、自分が正しいと思うことに嘘をついちゃダメなんです」
そう言ったフィーは優しく微笑みながら。
「そんなカズさんが私は大好きなんです」
その言葉だけで俺は救われた。
…………。
「今朝早くディルさんが私にカズさんのことを話しにきました」
「来たんだ……」
「はい」
「なんて言ってたの?」
「さぁ、カズさんを馬鹿にしたような態度をとってきたので、話を聞く前に追い返しちゃいました」
「――⁉︎」
そんなトンデモ発言に俺は落ち込んでいるというのに驚き。
「はは」
フィーの言葉に笑ってしまった。
俺が守りたい人だというのに、フィーにはいつも守られてばっかだ。
「カズさん疲れたでしょう? あとは私が体を拭くので、目を閉じて少し休んでください」
「わかった……」
フィーに言われるがまま目を閉じると、安心からか一気に睡魔に襲われ……。
「――っあ」
「起きちゃいました?」
目を開ければ自室のベットの上で、フィーに手を握られながら眠っていた。
「俺……」
「二十分ぐらいですよ」
丸一日寝ていたように体が軽いが、それほど眠っていた訳ではないようだ。
「運ばせちゃった?」
「運びました」
「ごめん……」
「いいんですよ。それにカズさんは軽いから苦にもなりません。もっとお肉をつけて欲しいぐらいです」
「これでもここに来てから一〇㎏以上体重増えたんだよ?」
「それでもまだ私より軽いですよ?」
「…………」
「そこは否定してくださいよ」
「あはは」
そんなたわいもない話をして、俺とフィーは互いに笑い。
「……女の子は無事でしたか?」
惨たらしい内容なだけに、あまり話したい内容ではなかったが。
「無事ではあった……でも、全身傷跡だらけで……たぶん年単位で貴族に痛めつけられたんだと思う」
「そうですか……」
俺が見たものを正直に伝えた。
「カバンの中身は役立ちましたか?」
「うん」
「剣とかは――上げちゃったんですね」
頷きながら肯定する。
「……あの子は異種族だった――でも、みんなが言うような危険な存在には思えなかった」
この世界に来てから誰に聞いても異種族は魔物と同種だと、人間を襲う怪物だと教わった。それはフィーも同じだし、少なくともこの街の人々は全員そう教わっている。
それでも――
「あの子は普通の……一人の女の子だった……」
絶望した彼女の目は生きることに疲れ。
それでも生きたいと渇望しているような目で。
今も目を閉じれば彼女の目が浮かび。
「助けられてよかったですね」
フィーの言葉に再び涙が溢れ。
「あぁ、よかった。本当によかった――」
助けたと言っても一時凌ぎに過ぎないが、それでも彼女を少しでも助けられたというのなら、それだけで今は十分だった。
「フィー俺は――」
今回のことで確信した。
異種族は決して魔物と同じ生き物ではない。
異種族――いや、彼らは亜人。
人間と同じ人なのだ。
亜人の中には人間に危害を加える者もいるかもしれない……それでも、それは人間も同じことで、人間が亜人に行っている行為は、とてもじゃないが許されるものじゃない。
クリスさんの夢である『争いのない世界』に、亜人達は含まれているのだろうか? もしも含まれてしないのだとしたら俺は――
「俺は平和を求める全て人が、平和に暮らせる世界を作りたい」
子供が考えたような綺麗で幼稚な絵空事、クリスさんの影響を明らかに受けている。
それでも俺は――
「暖かい夢ですね」
フィーは優しく微笑むと、俺の顔に手を触れて――俺の目を見つめながら。
「そんな世界が私も見たいです」
「うん……」
「私にできることがあればなんでも協力します」
「うん……」
「誰に無理だと言われても、挫けそうになってもいつでも私が側にいます」
フィーの顔が近づき口付けをしてくれる。
「一人で勝手に諦めないでくださいよ? 私はカズさんの目標に向かって頑張る姿をかっこいいと思ってるし、そういう所が好きなんですから」
「ああ、絶対に諦めない。約束だ――」
「はい。約束です。――あ、でも無茶は厳禁ですからね」
「うん」
フィーのその笑顔は幸せそうで、そんな笑顔を見ていたらいつの間にか俺も笑っていて、少し恥ずかしくなりながら、そんな感情すらも愛おしく思いながら。
俺はフィーを抱き寄せ。
「もぉ〜結婚前なんですから一緒に寝るのは今日だけですよ?」
「でも一緒に寝てくれるんだ?」
「もう――」
「いてててて」
頬をつねられながら、俺はフィーを抱きしめて。
まだ時刻は朝であったが、そのまま俺は眠りについた。
意見大歓迎です、評価も待ってます!
誤字脱字わからない表現があれば教えてください。
読んでいただきありがとうございました。




