表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
後の悔い先に立たず  作者: 狸ノ腹
第二章 学園邂逅
22/46

【決意の日】01

『災暦1495年7月11日』


 時刻は午前六時過ぎ、ノルアの街では人々が活動を始める時刻。


 半袖の黒シャツに黒い短パンを履いた俺は、日課のランニングを終え。

 疲れ切った汗だくの体を宿屋である洞窟亭の塀に預けながら、自分より周回多く走っている相手が走り終えるのを今か今かと待っていた。


 やっぱりまだ朝は冷えるな。


 夏になったといえど未だ初夏、朝の気温は二十度前後、汗だくの体に当たる風によって体の体温は奪われ。

 洞窟亭の表通りを見れば、数名の冒険者が今から依頼を受けにいくのだろう、ギルドへ向かって歩いていた。


 冒険者を見て――彼らの向かう先を思い浮かべると不安になる。


 やっぱり緊張するな。


 今日、俺はギルドでDランクになるための昇格試験を受ける。

 その事を思うと、秒刻みで不安な気持ちが膨らんでゆき。


「あ――」


 待ち人がこちらに向かって走ってくる姿が見えると同時に、俺の不安は消え去った。


 こちらに向かって走ってくるのは、栗色で内巻きの髪を肩まで伸ばし、髪と同じ栗色のおっとりとした瞳を俺に向けて手を振ってくる女性の姿。

 露出が殆どない彼女の姿は、黒の長袖シャツに黒のタイツを履き、その上から鼠色の半袖の服と、膝までの半ズボンを履いていた。


 やっぱり大きいな……。


 彼女を見てそんなことを思う。

 身長の話ではない。

 彼女の身長は一六〇㎝程度で十六歳としては平均的だが、その体つきは、厳密に言えばその胸元は平均を著しく超えていた。


「カズさんお待たせしました、遅くなっちゃってごめんなさい」

「俺が遅いのが悪いんだからフィーが謝るのは違うよ」


 走り終えたフィーからの謝罪に苦笑しながら首を振る。


 前々から知ってはいるが、フィーの体力や身体能力は並のものではない。

 フィー自身は『そんなことはない』と言ってはいるが、俺からすれば異常だ。

 一周七㎞のランニングコースを、俺は毎日二周を一時間で走るのに対して、フィーは三周を一時間と数分で走り。息を切らす俺と違って、フィーは息すら切らしていない。


 まったく……。

 自分の非力さに、今更ながら呆れてしまう。


「はぁ〜、早く体力つけて一緒に走りたいよ」

「そうですね。私もカズさんと一緒に走りたいです」


 俺の言葉にフィーは微笑みながらそう答え、その笑顔に微笑みを返すと。

 フィーは『でも――』と言いながら。


「絶対に無茶はダメですからね!」


 そう俺は叱られてしまった。


「はい。気をつけます」

「もう、カズさんはそう言って、いっつも無茶をするんですから」

「…………」


 少しだけ頬を膨らませたフィーに、俺はこれ以上言葉を返すことはできなかった。


 できることなら無茶をしないとフィーに誓いを立てたい。

 俺だってその気持ちはある。

 だが、俺の目標である騎士になるためには今のままでは基礎能力と戦闘技能が圧倒的に足りていない。

 だからこそ、足りない能力を補うために、多少の無茶は必要なのだ。


 まぁ、無茶をし過ぎたあまり剣を振って豆が潰れ――それでも振り続けた結果両手の皮が殆ど捲れ、フィーの治療魔術によって直してもらわなければあわや大惨事になるところだったのだが。

 そんな出来事のことを思い出していると、突然フィーに頬を叩かれる。


「――パチン!」

「イッ――た⁉︎」


 突然の出来事に呆然としながら、痛む頬に手を当てフィーに抗議する。


「急にビンタは酷いよ」

「心配かけるカズさんの自業自得ですよ」


 それは、そうなのかもしれないけれど。


「でも暴力はダメでしょ?」

「これは私に心配をかける罰と――」

「罰と?」

「えっちなカズさんへの躾です」


 への字に曲がったフィーの顔を見て『一体何のこと!』と言おうとするが――

 

「ごめんなさい」


 俺の口は素直なようで、反射的に謝罪していた。


「はい。許します」


 俺の即座の謝罪にフィーはすぐに許してくれる。

 そんなに胸を凝視したつもりはなかったのだが、本人には気づかれていたようだ。

 フィーの顔を見れば『しかたがないなぁ〜』と言いたげに、頬を赤らめ微笑みながら、俺のことを見つめていて。

 そんなフィーを見つめ返しながら俺は――


「フィー」

「なんですか?」

「愛してる」

「私も愛してますよ」


 フィーの頬に手を添え、その唇に口付けをした。


 俺はフィーと婚約している。

 婚約したのは二ヶ月前、過去の記憶を取り戻し、絶望の――最低な過去を聞いた上で、俺を好きだと言ってくれたフィーと口付けをした時、同時に婚約した。


 今の俺は幸せだ、心の底からそう思う。

 生きていることに絶望していたあの頃とは違い。

 今の俺には愛する人がいて、愛してくれる人がいる。

 生きていることがこうも楽しいなんて、四ヶ月前の――この世界に来る前の俺では想像すらできなかった。


 俺が物思いに耽っていると、フィーに腕を掴まれ。


「来て!」

「――え⁉︎」


 強引に、洞窟亭の大きな看板裏へと引き込まれた。

 突然の行動に、何事かと思いフィーを見れば『シ――』と、人差し指を口元に当てている。


 急にどうしたというのだろうか……? 


 フィーに従い看板裏で静かにしていると――看板の表で馬車の走る音が聞こえてきた。

 看板裏から恐る恐る正面の様子を伺ってみれば、数台の豪華な馬車が洞窟亭の目の前を横切って行く。


『貴族には極力関わるな』


 俺に剣術と常識を教えてくれる、ディルさんの言葉。


 この街はいくつもの国の境界に面し、本国のギルネル帝国へ向かうためには必ずこの町を通る必要があるため内外の貴族の行き来が多く。そういった経緯から、この街の住人は貴族に極力関わらないよう心がけそれが習慣づいていた。

 あの豪華な馬車にどのような人物が乗っているのかわからないが、御者をしている男の身なりや追走する馬車に乗る屈強な護衛達を見るに、中にいる貴族はそれなりに高い身分か財力を持っていることは間違いなさそうで。

 フィーへ婚約指輪を贈り、結婚指輪を買うためにせっせと稼いでる俺としては、少々その裕福さを羨ましく思い。


 二台目、三台目と過ぎ去っていく馬車を眺めながら、四台目の馬車の形状を見た瞬間。

 俺の脳裏にはあの忌まわしい――ロット・リンクスの姿が思い起こされた。


 その馬車はまるで内側を隠すためだけに、厚手の布で覆われていて、ロットが奴隷を拘束し、運搬するのに使っていた馬車の形状とよく似ていて……。


 ――ッ!


 馬車が通り過ぎるその一瞬、馬車の後部から見えた中の様子に俺は言葉を失った。


 中にいたのは一人の少女。

 人生に絶望した――過去の俺と同じ目をした一人の少女がそこにいた。


 頭に血が上り、怒りが湧き立ち。


「――っいったたたたたた!」


 急に頬をつねられたことで強制的に頭が冷える。


「落ち着きましたか?」

「あぁ……」


 じんとする頬を押さえながらフィーの言葉に頷き。


「話してくれますか?」


 と心配してくれるフィーの言葉に、俺はゆっくり頷きを返した。





「それじゃぁ、俺はディルさんにDランクになれたことを伝えてくるよ」

「僕もレノアに伝えてきますね」


 フィーと同じ栗色の髪を持った、まだ幼さが残るこの男の名はリオ、フィーの三つ子の兄であり、先日できちゃった婚をする事になった俺の親友兼、年末には義理の兄になる男。


「おう、そんじゃ」

「はい、また夕食で」


 俺達は今日、一定の規定に達し冒険者の昇格試験を受けて、晴れてDランク冒険者に昇格した。


 これは実に嬉しいことだ。

 まともに歩くことすらできなかった四ヶ月前と比べ、スキルが覚えられていないと言う点を除けば、俺は相当見違えた。


 まぁ、だからと言って本当に大変なのはこれからだということもわかっている。

 俺の目標は騎士になること、そのためには最低でも冒険者ランクをCランク以上に上げなければならない。

 ゲーム脳で考えればあとワンランク、ちゃちゃと依頼をこなしてランクアップしてしまえばいいのだが……現実の異世界じゃそれがなかなかに難しいのだ。


「コン、コン、コン」


 冒険者ギルドの三階にある執務室の扉を叩くと、扉の中から低い声が返ってくる。


「入れ」

「失礼します」


 部屋の扉を開けて中に入れば、大きな机の上には無造作に資料が並べられ、作業をしている男の姿が一人。

 外見的には三十半ば、服装は茶色いベストを着た紳士で、書類仕事をしているこの人は、ノルアの街の副ギルド長にして、元Bランク冒険者の――ディルさんだ。


 ディルさんは俺が異世界人だと知っている数少ない人物で、今は俺の命の恩人であるクリスさん達に頼まれたことで、俺が騎士になるための教育や指導をしてくれている。


 ディルさんの瞳が俺を捉え。


「試験はどうだった?」


 と低い声で聞いてきた。

 何やら怒っているようにも見えるが。


「無事にDランクになれました」

「そうか、それはよかった」


 ディルさんは目つきの悪さと声の低さから、怒っているような印象をよく持たれるが、実際はかなり優しい人で、今も俺がDランクに昇格したことを喜んでくれ……。


「本当によかった……」


 なぜだかその表情からは喜び以上に……心底安心したような安堵の色が伺えた。


「あれ、俺ってそんなまずい状況でしたっけ……?」

「……いや、お前が気にすると試験に支障をきたすと思って言わなかったが、今回の試験に落ちるとあの姫さん達との、来年の三月までにお前をCランクまで昇格させるって約束が絶望的になるところだったんだ……」


 ディルさんが言う姫さんとは、クリスさんが仕えるクリア王国の第一王女のことなのだが――そんな話は一旦置いておき。


「え……そんな逼迫(ひっぱく)した状況だったんですか⁈」


 四ヶ月でFランクからDランクになり、なかなか順調だと思っていたのだが、実はそうでもなかったようだ。


「一度試験に落ちると三ヶ月間は昇格試験を受けられない決まりがあるんだ。普通の奴ならDランクの試験問題なんて落ちる内容じゃないから心配の必要なんてそもそも無いんだが……お前の場合は読み書きがな」

「あぁ……なるほど……」


 ディルさんの心配の理由を理解する。


 Dランクへの昇格試験の内容は筆記試験。

 元々異世界人の俺は教会に置かれる石碑の魔術的な力によって、この世界の人間が使う言語を喋られるようになりはしたが、字の読み書きについてまでは魔術的な力も適応外だったらしく。

 そのため、俺はこの世界の字の読み書きを学ぶために、毎晩フィー達兄妹に代わる代わる字の読み書きを教わり、やっとこの頃は子供か習う程度の時の読み書きができるようになってきたのだ。


 そんな俺が今回の試験に合格できたのは、リオが事前に過去に出た昇格試験の問題を予習し、出題される可能性が高い問題とその単語の意味を教えてくれ、試験に臨んだからこそであり……。


 正直、事前に再試までの期間を教えて欲しかったと思う気持ちがないわけでも無いが、教えてもらったらもらったで、俺は間違いなく焦っていただろう。


 はぁ……。


 俺が胸の内で息を吐きながら安堵すると――そんな俺を見てディルさんはどこか嬉しそうに笑っていた。


「とりあえず無事に昇格したんだ。昼飯はまだなんだろ? 何か食べにいくか?」

「いいんですか?」

「ああ、肉にするか? いや、肉料理なら洞窟亭が一番だからな、気分転換も兼ねて国外料理の専門店にでも行ってみるか」


 昼食をどこで食べるのかをディルさんが考えていると。


 ――ん?


 執務室の扉の外に人の気配を感じ――俺が気づくとすぐに。


「コン、コン、コン」


 部屋の扉がノックされた。


「入れ――」

「失礼します」


 誰が来たのだろう? と思っていれば――部屋に入ってきたのは少し焦っているように見える、ギルド職員の制服を着る依頼受注担当の受付嬢さん。


「どうかしたのか?」 

「……はい、その……至急の要件で……こちらを――」


 困り顔の受付嬢さんから渡された書類をディルさんはすぐに読み始めると――


「――ドン!」


 ――と突然、怒った表情を浮かべ、渡された書類を卓上に叩きつけた。


「この街を馬鹿にしてるのか! 街の決まりを知らないわけじゃないだろう!」

「その、そうなのですが……相手が相手だけに……」

「……まったく。それで、もう受けたのか?」

「はい……ギルネル発行の国賓証があって断れず……」

「もういい。告知はするな、俺が人選する」

「いいんですか……?」

「受けてしまった以上仕方ない気は進まんがな……お前はこの事を辺境伯に連絡しろ」

「はい……すいませんでした……」


 受付嬢さんは最後に頭を下げると部屋を出て行き。

 ディルさんを見れば感情を表に出さないようにするためか『はぁ〜』と、深いため息を吐いていた。


「何かあったんですか?」

「…………」

「ロットですか?」

「……いや、違う。だが、奴隷関連だ……」


 ディルさんは暗い顔で額を手で押さえると、俺に話すかどうかを考え始め。


「貴族の奴隷が街の外へ逃げ出したそうだ……」


 全てではないだろうが、書類に書かれていた内容を俺に説明してくれる。


「以前話したと思うが、この街は奴隷を全面的に禁止している。だから奴隷がいる場合は貴族だろうと例外なく奴隷契約を破棄させる。まぁ、鎖で捉えられているから破棄させたところで普通逃げられないし、逃げられたところで、この街の知ったことじゃないんだがな……」


 そこまで言うとディルさんは少し言葉を詰まらせ、面倒だと言いたげに。


「だが今回奴隷に逃げられたバカは、本国に招かれていた国賓だ。本国へ向かうため今日は領主の館で宿泊の予定だったんだが、奴隷を自室へ連れ込んで目を離した隙に逃げられたそうだ」


 …………。


 絶望に暮れた今朝見た少女の瞳が頭に浮かび。


「大丈夫か?」

「はい……」


 拳を強く握りしめた俺の様子を見て、ディルさんが心配そうに声をかけてきた。


「今回この件をお前に話したのはこの依頼を受ければお前の功績になると思ったから……だったんだが……。ロットとのこともある、今聞いた話は忘れてくれ」

「…………」

「――わかったか?」

「はい……」


 頭に霧でもかかっているのか、ディルさんの話がぼんやりとしか入ってこない。


「帰ります……」

「ああ、そうしてくれ、食事は次の訓練の時にしよう」

「はい……」


 ディルさんとの話を終え、部屋を出て行こうと扉の方へと振り向き、執務室から出ようとして……。


「ディルさん、一つだけ聞いてもいいですか?」

「なんだ?」

「逃げた奴隷は異種族ですか?」

「そうだ。逃げたのは人に危害を加える可能性が高い凶暴なエルフだそうだ」

「そうですか」


 嘘をつくならもっとマシな嘘をついてほしい……。

 凶暴なエルフを自室に連れ込む奴がどこにいると言うのだろうか。

 俺に余計な重荷を感じさせないためについた嘘だとはいえ、ディルさんに嘘などついてほしくは無かった。


「――カズ、わかっているとは思うが異種族は人間を襲う危険な存在だ、貴族の事もある、だからお前はこの件に一切関わるな。いいな?」

「はい……」


 ディルさんが忠告してくれているのはわかる……だが、今の俺にはそんな事はどうでもよく思え。


「失礼しました――」


 ディルさんの執務室を出て洞窟亭へと帰る俺の頭の中にあったのは、逃げたのは今朝見た少女で間違いないという確信だけだった。





 洞窟亭、リオとの相部屋にある自身のベッドに座り込みながら。


「クソ……」


 俺は自分の偽善心に飽々としていた。


 あの少女を助けたいと思う気持ちが俺にはある――が、それと同時に自分にはどうする事も出来ないと理解もしている。


 相手は異種族――魔物と同じ存在。

 今朝見た少女は異種族には見えなかったが……それでも、ディルさんの言葉から察するに異種族なのは間違いなく。

 そもそも逃げたのがあの少女だというのは俺の勘であって、違うことだって十分にありえ……。


 ……どちらにしろ、今俺が考えていることは全て言い訳にしか過ぎない。

自分が助けに行かなくてもいいと、そう思うための言い訳でしか無いのだ。


 やはりディルさんに言われた通り何もしないのが最善の選択なのだろうか……。

 俺がそんな自問自答を繰り返していると、知らぬ真に部屋の扉が少し開かれ。


「――カズさん?」


 そこから姿を現したのは、宿屋の手伝いで客室の掃除をするため大きめなカッターシャツに茶色のロングスカートを履いた、俺のことを心配そうに見つめるフィーの姿だった。


「その……試験どうでした?」


 そういえば試験結果を伝えるのを忘れていた。

 合格したらすぐに伝えると言って家を出たと言うのに、帰ってすぐに部屋に篭ったとなれば、そりゃ試験に落ちたと思われ心配されるのは当然だ。


「大丈夫。リオと一緒にDランクに昇格したよ」

「――え⁉︎ おめでとうございます!」


 合格したことを伝えるや否や、フィーは目を見開いて喜び。

 その勢いのまま俺のそばまで駆け寄ってくると――

 フィーは俺の隣に座り、手を握りながら口を開いた。


「今朝のことで、何かあったんですね?」

「……本当によくわかるね」

「当たり前です。私カズさんのこと大好きですもん」

「そっか」

「そうですよ」


 先ほどまでは、まるで追い詰められたような気分だったというのに、フィーがそばにいるだけで気分がとても落ち着き。

 ……本当は話してはいけない内容だとわかってはいるが、それでもフィーに隠し事をしたくなかった俺は。


「これから話す事は……」

「――誰にも言いません」


 握られている手から感じるフィーの手の温もりに安心感を感じながら。


「さっきディルさんの所で――」


 先ほど聞いた話を、その話から感じた俺の思いと確信を、包み隠さず話すことにした。





「貴族の……貴族達の道楽で、耳を切られるエルフがいると聞いたことがあります……。もし今朝カズさんが見た子が逃げたエルフなのだとしたら……おそらくそういう事なのかもしれません」

「そんなことが……」

「エルフの文化では大罪を犯した者の耳を切り落として、耳無しエルフは同族からも非難されると言う話を聞いたことがあります。だから……もしかしたらその子は恥辱の意味も兼ねて……」

「もう大丈夫、ありがとう――」


 言いづらそうに、辛そうに話すフィーにこれ以上話さなくてもいいと、教えてくれてありがとうと、握ってくれているフィーの手に力を込めるが。

 どうしてだろうか、フィーはまだ何かを言いたそうにしているようで。


「カズさんの言う通り、逃げたのは今朝見たと言う女の子で間違いないと思います」


 フィーはそう言い口を開くと、自身の確信を――


「昼前にボロボロの布を纏った女の子が、屋根を伝って南門の外へ出ていったと食堂で冒険者達が話してました」


 確証を持って話してくれた。


「そんな……」


 違ったならよかったのに……。

 俺はすぐにそう思い……それ意外に何も言葉が思い浮かばず。


「カズさんはどうしたいですか?」


 そんな俺を見かねたフィーが俺の頬に手を当て聞いてきた。


 どうしたいかと聞かれても、どうすることも出来ない。

 それが俺の中の結論であり……。


「私はカズさんが正しいと思う道についていきます。だからカズさんは、それが例え間違っていたとしても自分が正しいと思う事に嘘をついちゃダメですよ」


「俺は……」


 フィーの言葉が胸に刺さり。


「もう、本当に泣き虫なんですから」


 胸が熱くなって、気づくと涙が溢れていた。


「よしよし」


 俺の頭をフィーは抱き寄せ抱きしめると、まるで子供をあやすように頭をポンポンと撫でてくれ。そんなフィーからの抱擁に俺は恥ずかしさを覚えながらも、そうしてもらえることに嬉しさを、フィーさえ居てくれれば何でもできるとそんな自信を感じながら。


「決めたよ――」


 俺はそう言い。


「俺はあの子を……あの子に助けがいるのかわからないけど、それでも助けに行ってくる」


 そう自分の決意を口にした。


 それからの動きは迅速だった。

 必要かはわからないが一応の用意として、フィーが女性物の服や下着を、怪我などを予想して傷薬や包帯を準備してくれ。

 俺は日持ちしそうな食料を用意しつつ、出発の準備をする。


 カッターシャツに革製のアーマーを着込み、茶色のズボンにブーツを履き。

 左の腰にはクリスさんに貰った秘宝級――Cランクのレイピアを、右の腰にはクリスさんの仲間で魔術師のレイさんに貰った強化された黒曜石の短剣を装備し。

 大きめのカバンをフィーに背負わせてもらう。


「カバンに必要な物は全部入れてあります」

「わかった」

「みんなにはディルさんの所でお祝いも兼ねて一泊してくると伝えておきます。だからカズさんは探索に集中して、絶対に無茶はしないで、無事に帰ってきてくださいね」

「うん。気をつけて行ってくる」

「絶対ですよ」

「絶対だ」


 そう俺はフィーと約束し、約束の抱擁をして、洞窟亭を後にした――


意見大歓迎です、評価も待ってます!

誤字脱字わからない表現があれば教えてください。

読んでいただきありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ