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後の悔い先に立たず  作者: 狸ノ腹
第一章 三度目の始まり
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【弟子入り志願】01

『災暦1496年1月1日』


 洞窟の外へ出ると、そこはいくつもの広大な山が並ぶ広い草原だった。

 空は明るいが未だ日は登ってはおらず、雪は降っていないがいつ降ってもおかしくないほど冷え。

 吐く息はすぐに白息となって消えてゆく。


 気のせいかもしれないが、洞窟内とは違い少し酸素が薄い。

 思い返してみれば洞窟に入る前に高い山に登り、洞窟内で下った覚えもないので、今いるこの場所は標高が高い場所に位置しているのだろう。

 そう考えればこそ、いくつか気づくこともある。

 この洞窟――いや、このダンジョン以外にも一度だけダンジョンに入ったことがあったが、その時も内と外で環境が違い、内部でも上層と下層で環境に変化があった。


『ダンジョンは無限の未知に溢れてる』


 旅の途中、探窟家がその様なことを言っていたが、確かにダンジョンには謎が多いようだ。


 さてと――


 探窟家の回想も程々にして、俺は龍人が住まう里、そこにいるセンという人物の元へ向かい始め――



「なんで人間が俺たちの言葉を話せるんだ!」

「きっとこいつ奴隷商だ!」

「今すぐそんな奴殺して!」


 俺は突如現れた袴姿の男女四人によって拘束されてしまった。


「えっと……」

「「――黙れ人間!」」


 どうすればいいのだろうか……。


『里の奴らに殺されそうになったら迷わず自分が異世界人だって伝えろよ、そうすりゃ殺されるこたぁねぇから』か……。


 おそらく彼らが龍人なのだろう。

 ダンジョンから出て数分しか歩いてないというのに、彼らと出会えたのは僥倖(ぎょうこう)と言いたいところだが、そんなことを言っている状態ではないようだ。


 周りには、袴姿にポンチョを羽織り、刀を帯刀した男三人と女一人が俺を囲み。

 俺はと言うと、両手を麻縄で縛られ、持っていた武器を取り上げられてしまった状態で跪かされている。

 彼らが俺へと向けるその殺意は間違いなく本物で、このままでは冗談抜きで殺されてしまいそうだ。


「おい。お前はなんで龍人語が話せるんだ?」

「カラギ、人間なんかと言葉を交わすな!」


 彼ら全員が俺へと殺意を抱いているのかと思ったが、どうやら違うようだ。

 つり目をさらに引きつらせ、犬歯を剥いて挑発的な態度をとっている――シュウヤと呼ばれる男とは違い。ややつり目気味だが真面目そうな顔をした――カラギと呼ばれた男の方は俺の話を聞こうとしてくれている。


「もう一度聞く、なぜ龍人語を話せるんだ?」


 カラギからの言葉に一度どう返事を返そうかと考える。


 俺は今、別に龍人語を話しているわけではない。

 龍人語と言う言語があることすら知らなかった。

 今俺が、そして彼らが使っている言語は日本語、この世界では使われていなかった日本語なのだ。


「なんで俺が龍人語を話せるのか、その理由はわからない。だけど俺は異世界人だ」

「嘘……」


 龍人の女性がこの世のものではないものを見たかのように、驚愕の声を漏らした。


 今までも数人に自分が異世界人であることを話したことはあるが、このような反応をされたのは初めてだ。

 ――いや、確かにこの世界の人間ではないので、この反応は正しい反応なのかもしれないが……女性の声には驚きと共に、恐怖心が見て取れた。


「何故ここへ?」

「センって人に弟子入りするために来た」

「――お前みたいな奴がセン様の弟子になれるわけがないだろ!」


 カラギの質問に答えていると、突然シュウヤが怒りの声を上げ、帯刀していた刀を引き抜き――


「ふざけたこと言いやがって、殺してやる!」


 逆上したように刀を振り上げたかと思えば――


「シュウヤ!」


 カラギによって、シュウヤは振り下ろそうとしていた腕を止められた。


「なんで止めんだよ、こいつは人間だぞ! こいつらのせいで……」


 そうカラギに訴えかけるようにそう言ったシュウヤの表情は切実で。


「落ち着けシュウヤ、こいつを殺したらお前も人間と同じだぞ」


 なだめるようにカラギは言った。


 あぁ、そうか。彼らはきっと……。


 そんな光景を目の当たりにして理解する。


 彼らは家族や友人を、人間に殺されたか、奴隷にされてしまったのだろう。


 この世界は狂っている。

 人間は人間以外の種族を、異種族と罵り、奴隷にして弄び、家畜のように働かせ、無慈悲に殺す。

 亜人の彼らにとって人間などは憎悪の塊、俺のような人間が目の前にいればそりゃ殺したくもなるのも当然だ。


「お前がなぜ龍人語を話せるのかはわからないが、本当に異世界人ならセン様の元へ連れて行こう。ただし妙な行動はするな、いいな?」


 無言で頷きを返す。


「――クソ!」


 今俺が彼らにしてあげられることは何もない。

 仮に俺が、人間がしたであろう行為を代わりに謝ったところで、彼らの感情を逆撫でしてしまうだけだろう。


「シュウヤ、サキ。お前たちは里へ戻って(おさ)と神主に連絡を、こいつは俺とレンで連れて行く」

「わかったよ。でも、もしもの時は」

「わかってる。もしもの時はお前に任せる」


 シュウヤはカラギのその言葉に頷くと、サキと呼ばれた女性と共に走り出し、二人の姿はすぐに見えなくなってしまった。


「はぁ〜」


 カラギが短いため息を吐き、俺へ視線を向けると謝ってくる。


「悪かったな」


 おそらくは先ほどのやりとりについて謝っているのだろう。


「いや、助かったよ」


『もしもの時はお前に任せる』きっとそれは、俺が奴隷商や盗賊――彼らの敵であった場合には俺を殺させると言う意味。

 シュウヤがいったいどのような人物なのかはわからないが、カラギがあの場でああ言わなければ俺は再度斬りかかられていただろう。


「それじゃあセン様の元へ行くが問題ないな? もし異世界人と言ったのが嘘なら今すぐ言え、セン様にはそう言った嘘は一切通じない。お前が嘘をついているとわかれば、問答無用で死ぬことになる」

「……要するに、逃げるなら今しかないぞ。って、こと?」

「さぁな。俺はそんなことを言ったつもりはないが、どうする?」

「カラギさん⁈」


 今まで黙っていたもう一人の男……と、言うよりも少年が焦ったように騒ぎ出した。


「落ち着けレン、お前も里へ帰らされたいか?」

「うぅぅ……」


 レンはカラギの言葉に弱々しくうめくと再び黙り込んだ。


「それで、どうする?」


 どうするも何も、異世界人であるのは本当のことなので逃げる必要などはないが、それを証明する手段は俺にはないのでとりあえず。


「センって、人のところへ連れてってくれ」

「お前……本当に異世界人なのか?」

「ああ」

「そうか……」


 俺の返答にカラギは少し驚いている様子で返事を返すと――それならばと言うように、いまだ半信半疑ではあるのだろうが、俺を案内しようとカラギは決心したようで。


「あんた本当にいい人だな」

「何がだ?」

「自覚なしかよ」


 無自覚で俺を心配してくれている様子に少し苦笑しながら、少年の方を見ると、少年もやれやれと言いたそうに息を吐き。


「本当にセン様のところへ向かうが、いいんだな?」


 最終確認だと言うように聞いてくる言葉に――


「ああ、頼む」


 俺は頷きを返すのだった。


意見大歓迎です、評価も待ってます!

誤字脱字わからない表現があれば教えてください。

読んでいただきありがとうございました。

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