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後の悔い先に立たず  作者: 狸ノ腹
第二章 学園邂逅
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【プロローグ】

『災暦1496年11月15日』


 日の光が降り注ぐ真昼間の高原で空を見ながら寝ていると。


「――ッチ」


 そんな俺へと投げかけられたのは、怒りが伝わってくるような舌打ちだった。


「悪かったって、許してくれよ……」


 体を起こしあぐらをかいて座りながら、俺は舌打ちをしてきた青年に謝罪する。

 俺と同じ黒髪を後ろへと流し、これまた俺と同じ真っ白な武道袴を汗に濡らした青年を見れば――青年は自身が手に握る生身の刀を見て眉を顰めながら。


「はぁ〜」


 と、疲れたような息を吐いた。


「それにしたってこれで十三本だぞ? これじゃまた鍛冶屋のオッちゃんにどやされる」


 俺にそう言ってくる青年の名は――アビ。

 同じ師の元で修行する俺の兄弟子であり、出会いはじめは置いておいて、今では俺の友人の一人。


 気だるげそうなアビが握る刀を見れば、刀には無数の刃こぼれがあり、反りの部分は今にもくの字に折れてしまいそうな裂け傷がついていた。


 まぁ、アビの刀がこんな有様になっているのは俺のせいではあるのだが、その原因は俺が左腕に着ける真っ黒な認証盤に施された竜胆色の宝珠の力によるものだ。

 もちろん多少は罪悪感もありはする。

 刀の破損の原因は宝珠の力だと言いはしたが、刀の破損自体は打ち稽古中に振り下ろした俺の刀によってついた傷。


 この宝珠――名前をその色と同じ竜胆と言うのだが、竜胆には触れた者の魔力を吸い取ることによって魔力を――擬似的な魔装を纏う力がある。


 魔力に特性が無い俺の魔装は武器や肉体に魔力を纏い、纏った自身と装備品の強度を増すだけの力なのだが……。

 その結果が今のアビの刀なのだから『だけの力』とは口が裂けても言えないだろう。


「今日中にオッちゃんとこ行って、代わりを四、五本用意してもらわねぇと、この調子で壊され続けたら、向こうで宝刀を使う羽目になっちまう」

「――っあ、それなら俺の分も二、三本頼んだ」

「ったくよぉ……」

「わりぃな」


 面倒だと言いたげなアビに謝罪しつつ、先ほどアビと打ち合った自分の刀を鞘から引き抜いて見てみれば――アビの刀ほど酷くはないにしても、無数の刃こぼれがついてすでにボロボロの状態だ。

 あと数度なら問題なく使えそうだが、この調子で使えば十日以内に使い物にならなくなるだろう。


 刀がこんな状態になったのは今回が初めてというわけではない。

 それこそいつもは壊れた時に刀を一本用立ててるだけなのだが、今回はそういうわけにはいかない事情が俺には――俺とアビにはあった。


「刀はなんとかするけど、明後日か、明明後日には出て行くんだ、他にも必要な物があるなら早めに言えよ。流石に今日の今日で、あれこれ欲しいって言われても用意できねぇからな」

「ああ、わかってる」


 俺達は数日後、先生の元を立ち、先生の元弟子である人物の元へ剣術の稽古をつけてもらいに行く。

 当初はアビだけが行く予定だったのだが、一ヶ月前――


『今のお前に教えることはもうないよ』


 と、先生が呆れたように、俺にそんなことを言ってきたのだ。

 勘違いしてほしくないので説明するが、別に先生は俺を見限ったわけではない。

 まぁその逆……と、言うわけでもないが……。


 先生が俺にそう言ってきた理由は、当初数年単位で予定していた特訓を、俺が年内に終わらせてしまい、それと同時にアビの遠征訓練が決まったことで『この際、お前も剣術を齧っとけ』と言う話になり。

 結果として、俺はアビと共に剣術の稽古をつけてもらいに、先生の元を立つことが決まった。


「そんじゃ、俺は一回帰って夕食食いに行ってくるけどお前はどうすんだ?」

「えっと、今日は先生との死合(しあい)が……」

「――ッチ」


 今日の予定を伝えると、ノータイムで再び舌打ちを返される。


 死合とは、定期的に先生と行う修行の一つで要は俺の力試し。

 先生的にはただの組み手だと言ってはいるが、組み手をする度に殺される俺からしたら、死合と言い換えても間違いでは無いはずだ。


「てめぇはまた……」


 俺と先生との死合をアビは多少理解してくれてはいるが納得はしていない。

死合をやるという事は、即ち俺が修羅道を使うということ。


 奴隷商を鏖殺し、アビと修羅道は使わないと約束したあの日から八ヶ月。

 この八ヶ月の間、俺が修羅道を使わなかったのかと聞かれれば答えは否。

 この八ヶ月間、俺は修羅道を数えきれない回数使っていた。


『なぜ?』と問われれば、修行の一環で使う他なかったのだと言い訳させて欲しいが、アビとしてはこの件について、理解はしていても納得していなかった。


「はぁ――ったく、もういいよ」


 俺の申し訳なさそうな様子にアビはそう言って、持っていた刀を認証盤へと蔵い。

 話の終わりを感じた俺は先生の元に帰るために立ち上がる。


「わりぃな」


 最後にもう一度謝罪をしてから、先生が待つ屋敷へ帰ろうとすると。

 そんな俺をアビが呼び止めてくる。

 

「――カズ!」


 アビからの呼びかけに振り返れば、アビは俺に握りしめた拳を突き出し――


「どうせやんならぶちのめせ!」


 そう俺に言ってきた。


 ――まったく、とんだ無茶を言ってくれる。

 アビの言葉に俺は苦笑する。

 あの先生をぶちのめせるのなら俺は自分の弱さに嘆いてなどいないと言うのに……まあ、だからと言って俺も無抵抗にやられるつもりは一切ない。

 突き出すアビの拳に、俺も同じように拳を握り『トンッ』と、拳を当てながら。


「ああ、やってやるーー」


 と、俺は失笑を朗笑へと変え。


「あのクソババアに痛い目見せてやる!」


 俺は自分の決意を口にした。





 まったく……魔王城の入り口に魔王がいるなんてとんだ糞ゲーだ。

 アビと別れ先生が住まう屋敷へ帰ると、中庭には俺の帰りを待つ先生が佇んでいた。

 そして、そんな先生と目が合うと微笑んでくる。

 微笑んでくるとは言っても、まるで微笑んでいるようには見えないが、あれが先生の微笑みなのだから仕方がない。


「それじゃ、始めるとするかい」


 まだ帰ってきて数十秒もたっていないが、


「お願いします!」


 俺の返事で死合が唐突に始まった。

 

「ーーカチッ」


 と、音を鳴らし、すぐさま修羅道を使い。アビに教わった闘気を、左腕の認証盤に施された竜胆に手を触れ魔装を纏う。


「いいねぇ」

「――ッ!」


 そして先生が動き出したかと思えば――思った時には、静止した世界を見るはずの俺の視界から先生は姿を消し――次の瞬間。


「ーーーーッ」


 身の毛もよだつような危機感を感じた俺は、瞬間的に左側から命を刈り取りにくる先生の拳を後ろへ仰け反るように避け。


「――ッゴボ」

 

 左からの攻撃は避けたと言うのに、俺の口からは血が気泡となって、咳き込むように溢れ出た。


 ひたいに脂汗が滲み出る。

 胸元を見てみれば、俺の肺が潰れていた。

 比喩じゃない。

 物理的に俺の右胸が陥没し、肺が潰れていたのだ。


 状況整理をする暇もなく、先生が蹴りを放ってくるので、左手で右腕を支えるように、横凪に迫り来る蹴りを右腕を犠牲にして受け止める。

 攻撃に転ずるため受け止めた先生の足を無事な左手で掴もうとすると『――ぼとり』と、肉塊が――肘から先の俺の左腕が地に落ちる音が聞こえてきた。


 先生を見ればいつの間に出したのだろうか、青白く輝く妖刀とでも言うべき刀が握られている。


 まずいな……。


 左手が認証盤ごと切断されたことによって、竜胆による魔装が解除されてしまう。


「これで終わりかい?」


 なわけないだろ!


 肺が潰れて声が出せないので、先生を睨むことで戦意を見せ、次の行動に移るため一歩後ろに下がり。


 ――クソ!


 そんな自分の悪手に腹が立った。


 時間がない。

 肺が潰れたことで酸素が足りない。

 酸欠には慣れているのでいましばらく意識は持つが、それでも確実に思考速度が遅くなっていくのがわかる。

 左腕の欠損による魔装の解除に、修羅道による理性の乖離も致命的だ。


 ……詰んでんだよな。


 冷静に導かれた結論に、諦めを感じ。


 ――ふざけるな!


 諦めを感じた自分自身に、俺は言葉を投げかけた。


 相手は先生だ、勝てるわけがない。

 そんなことは知っている!

 こんなのはただの修行だ。

 それでもだ!


「――ッヴ!」


 俺の自問自答などお構いなしに、先生の鉄拳が右脇腹に打ち込まれ。

 その衝撃に骨が砕かれ、全身の関節が悲鳴をあげた。


「威勢だけだね」


 地に伏した俺に、先生の言葉は届かない。


 ボロボロの体に力を入れ、使い物にならない右腕を地面について、体を無理やり起き上がらせながら。俺は潰れた肺などお構いなしに、大きく息を吸って肺に酸素を取り込む。


 正面を見据えれば、そこにはニヤリと笑う先生の姿が。

 その手を見れば、もう先ほどの刀は握られていない。

 だがそんなことはどうでもいい。


 全身に力を入れると、骨が軋み、筋肉がぶちぶちと音を鳴らして壊れ始めた。


 目の前の女は敵だ。


 暴走寸前の脳でそう判断するのと同時に、先生に向かって走り出し、勢いを殺さずに右腕を振り上げた俺は、そのまま腕を振り下ろした。

 ――が、そんな攻撃が先生に当たるはずもなく、俺の右腕は虫でも払うかのように砕き防がれ、血と肉片となって失われた。


 ――だがそれを利用しない手はない。


 血肉でできた目隠し活かすため、俺は振り下ろした腕の勢いを殺さないまま、体を左に捻り回しながら、死角になった先生の左脇腹に踵蹴りを入れようとし――俺の蹴りは先生の右手で掴まれるようにして防がれ。


 ――まだだ!


 掴まれ固定された左足を捨て、体を更に捻り右足で蹴りを入れようとした追撃の蹴りも、先ほどと同じように左手によって先生に掴まれ。


 ――その全てを読み切って、両足が握り潰されるその前に。

 最後の力を振り絞った俺は全力で、自分の頭を先生の無防備になったその胸元へと叩きつけた。


 ……全てを出し尽くし、体から力が抜けていく。


 手応えはなかった。


「ハハハ」


 聞こえてきたのは先生の低い笑い声と『グジャ』っと、両足が握り潰される音。


 足が握り潰されたことで支えを無くし、重力に従い体が地面へと落ちる最中。

 俺の体は地に落ちる前に、先生に頭を鷲掴みにされた事で宙ぶらりんとなった。


「それでいいんだよ」


 先生が言葉をかけてくる。

 声のする方を見るが、視界には顔を鷲掴む先生の手のひら以外何も見えない。


「格上の相手に持久戦なんて仕掛けてる時点で勝ち目はないんだ」


 先生の言う通りだと思うのと同時に。


「――ッウ」


 先生の空いた手によって心臓が潰される。


「最後の一連の流れ、あれはよかったよ」


 そりゃ、どうも……。


 意識が遠のいていく。


「おいおい、もう死んじまうのかい?」


 人の心臓を潰しておいて、よくそんなことが言える。

 きっと、魔王や閻魔がいるのなら、それは先生のような人なのだろう……。


 そんなことをいつものように考えながら、俺の意識は暗闇の中へと霧散していくのだった。


意見大歓迎です、評価も待ってます!

誤字脱字わからない表現があれば教えてください。

読んでいただきありがとうございました。

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