八十六話 抗え
こっちも敵の強さは変わらない。
了斎の放った炎でバタバタと敵が倒れているが・・一向に強敵は現れない。
雷煌「こっち側も罠なんてことはないですか?」
俺「伊海軍兵士が全方向を見張っている。それで東しか敵が見つかっていないからそれはないだろう」
雷煌「じゃあ、本当にこいつらを殲滅したら終わりなんでしょうか」
俺「だろうな。さっさと終わらせるぞ」
といっても、濃霧衆の忍が千人も居れば俺たちが戦う必要性も高くない。
雷煌「もう残すはあの塊だけですね。倒しに行きましょう」
馬で残った敵を討伐しに向かった。
敵軍兵士「お前ら! 獅電が来たぞ! かかれ!!!」
知られていたか。
敵軍兵士「うおおおお!!!」
俺「悪いことは言わない。このままお前らは帰れ。二度と大将の顔を見られなくなるぞ」
敵軍兵士「へっ、安い挑発だな!」
やる気か。
ならば仕方ない。
俺「お前らに贈る最後の言葉だ。『引くことを覚えろ』」
苦しみを与えないよう、全員の首だけを刎ねた。
雷煌「あっ・・もう終わったんですか?」
俺「ああ。南西に戻るぞ」
雷煌「はい!」
俺たちは本部に戻った。
俺「大砲の効果は絶大だ。あっという間に敵が消え去った」
宰川「ああ、質の悪い兵士相手であれば大砲と鉄砲のみで守ることも出来そうだ」
華城「兵士を湯水の如く使うからこうなる。お相手の大将は大層頭が悪いんだろうな」
雷煌「清次さんたちは戻っていないですか?」
宰川「ああ、まだ戻ってきていない」
俺「あいつらが来たら再び南西に向かう」
宰川「大砲を数門南西へ運ばせる。今日中に一万人を始末するぞ」
兵士「はっ!!」
数十人の兵士が大砲を運んでいった。
雷煌「あれ、清次さんじゃないですか?」
華城「戻ってきたか」
了斎が誰かを連れてやってきた。
了斎「敵はおそらく全滅した。それで・・処罰対象が一人いる」
宰川「その男か。裏切り者か?」
了斎「いや、コイツは・・その・・うーん」
清次「敵軍兵士を凌辱しようとしていた。戦の最中にも関わらずな。俺は今すぐにでもこいつを殺してぇけど、ちゃんと処罰を与えた方が良いと思って連れてきた」
華城「この男を拘束しろ」
伊海軍兵士「はっ!」
華城「気を失っているようだが」
了斎「すまない、わしが股間を蹴り上げてしまった」
その点に関しては少し男に同情する。
華城「戦が終わったら然るべき対応をする。一旦この男は忘れて南西へ向かってくれ」
清次「了解、獅電さんたちも?」
俺「ああ、向かう」
*
弱い、敵が弱い!!!
オレ「おい将英!! 何なんだコイツら!!」
将英「随分と宰川軍を舐めてかかってきているようだな」
霧島「わからせてやろうぜ」
言い方のせいで印象が一気に悪くなっている。
敵軍兵士「刀を使わず戦う馬鹿者だ、お前らやるぞ!」
オレ「ハハ、オレは馬鹿だけどお前らより強え!!」
向かってくる敵の腹をぶん殴ってやった。
轟音とともに砲弾が敵の集団へ飛んでいった。
霧島「何だ?」
清次「大砲の登場だぁぁぁ!!」
やけに調子のいい清次が走ってきた。
オレ「清次!」
了斎「東の敵は殲滅完了だ。大砲も持ってきたから一気にかたをつけるぞ!」
全「了解!」
*
無策で突っ込んできたわけではないみたいだが、いかんせん敵が弱すぎる。
一人くらいは強いやつ出てこいよ・・
何で片腕の俺がした唯一の負傷が火傷なんだよ?
敵軍兵士「手負いの兵士だ、討て!!」
指示なんか出してないで攻めてきたほうが良いぞ、あんた。
俺「お前らなんて腕一本で十分だ。好きにかかってこい」
敵軍兵士「虚勢を張るな!!」
一人の兵士が向かってきた。
おいおい、一人ずつなんて尚更楽勝じゃねぇか。面白くないな。
俺「虚勢を張ってんのはお前じゃねぇか? 手が震えてるぞ」
敵軍兵士「そんなことはない! 武者震いという言葉を知らないのか?」
俺「俺は武者震いすらしねぇよ。お前みたいな雑魚と戦っても気持ちが高ぶることなんて一切ねぇからな」
敵軍兵士「いい加減にしろ!!」
まず敵の左腕を落とした。
敵軍兵士「がはっ!!」
俺「これで俺と同じ条件だな。さぁ、正々堂々やり合おうぜ」
敵軍兵士「ああ、良いぞ・・やり合おうじゃないか」
意外と骨のあるやつだ。
俺「でも、お前一人にかけてやれる時間はそう長くないんだ。悪いがそろそろ死んでもらう」
数秒の剣戟で決着はついた。
敵軍兵士「源次の仇は俺たちが討つぞ!!」
口だけは一丁前だな。
俺「残念、お前たちが戦うのは俺じゃないんだ」
刀を突き上げ、大砲に向かって振った。
俺「そんじゃあな!」
急いで離れると、ぽかんとしてる兵士たちに砲弾が直撃した。
俺「一人残っちまったか」
敵軍兵士「よくも・・!」
俺「うあっ!」
こいつ、速い!
こりゃ気を抜いたら死ぬな・・本気で戦おう。
敵軍兵士「お前が強者だということは十分わかった! だが片腕では限界があるはずだ!!」
俺「褒めてくれてありがとな!」
クソ、どこを狙っても弾かれる・・
俺「は!?」
敵を見失った。おかしい、足元か!?
敵軍兵士「はっ!!」
気づいたときには、刃が俺の頭上まで来ていた。
俺「くっ・・」
何者かによって刀が弾かれた。
繭「清次、斬れ!!」
状況が理解できなかったが、とにかく俺は敵の首を斬った。
俺「繭、何でここに?」
繭「一対一の補助をして回ってた。丁度良かったね」
俺「ありがとう・・繭が居なかったら俺、ただじゃ済まなかったな」
繭「大丈夫、清次も色んな人を助けてるでしょ?」
俺「俺はそんなにだけど・・」
繭「多分、そろそろ敵が全滅する。危ないから清次はもう大砲の近くの防衛に回った方がいいよ。わたくしも付いていくから」
記憶を失っても判断力は以前と変わらない。頼りになるな。
俺「了解」
*
殆どの敵が死んだ。
豪の兵士「そろそろ前線で戦っていた方々が戻ってくる頃合いですね」
私「そうだね~」
特に主力部隊からの犠牲者もない。
典型的な勝ち戦の流れかな。
獅電「ああ」
美咲「春日、獅電さん! 剛斗の様子がおかしい!」
私「なに!?」
美咲「なんか変な刀を持ってるんだけど・・言葉が通じないの!」
それはいつもじゃないの?と思ったけど、そんな冗談を言ってる余裕もなさそうだった。
獅電「行くぞ」
私「こ、これ・・」
獅電「知ってるのか?」
私「清次に頼まれて、私がこの刀を鋼糸で巻いたんだけど・・」
獅電「それで、この刀は何だ?」
私「絶対に触れてはいけないって清次は言ってた」
美咲「剛斗、完全に持っちゃってるけど・・」
獅電「剛斗がおかしくなる前に清次を呼んでこい。情報が足りない」
私「来てもらうほうが早い! 笛を鳴らす」
他の人も集まってきちゃうかもしれないけど、こっちのほうが大事だから!
剛斗「ぐ、ぐぁぁあ!!」
私「もう少し耐えて剛斗!!」
獅電「このままじゃいつ暴れ出してもおかしくない。春日、足だけは縛っておいてやれ。剛斗のためだ」
私「りょ、了解・・!」
仲間を縛るのはちょっと心が痛むけど・・仕方ない。
雷煌「どうしたんですか!?」
雷煌が血相を変えて走ってきた。
私「剛斗がまずい刀を持っちゃったの!」
雷煌「剛斗さんが!? あの刀はまずいです・・!」
獅電「どうまずい?」
雷煌「この刀を持つと体を乗っ取られるんです! 最終的には人ですらなくなってしまうらしくて・・」
獅電「クソ、刀を放すだけじゃ駄目なのか?」
雷煌「出来るんだったらそれが一番ですけど・・相手は剛斗さんですよ? 力ずくで奪える人じゃありません」
私「じゃあどうするの?」
雷煌「一応、手首を斬れば止まります。ただ、そうすると剛斗さんの息の根も止まる可能性が高いです」
獅電「論外だ。そんな手は使わない」
美咲「何とかして刀だけを取れない?」
私「刀に鋼糸を巻き付けて引っ張ってみる!」
刀の柄に鋼糸を巻き付け、思い切り引いた。
私「あーもう! 全然駄目!」
刀はびくともしない。
獅電「お前ら、複数人で引っ張るぞ」
雷煌・美咲「はい!」
四人で引いても、刀を放させることはできなかった。
もしこのまま刀を放さなかったら・・剛斗を拘束するか、殺すしか無いの・・?
絶対に駄目!頭を使え私・・・・!!
雷煌「でも、おかしいですね・・」
美咲「何がおかしいの?」
雷煌「僕がさっき見た人は、人間性もおかしくなって、人を殺すことしか考えられなくなっていました。ただ、今の剛斗さんにその様子はありません」
私「つまり?」
雷煌「剛斗さんは・・必死に抵抗しているのかもしれません。持ち前の力で、体を操られないように抵抗しているから、苦しんでいるのかもしれないです」
獅電「なるほど。受け入れてしまえば苦しみはなくなるが、操られてしまう・・剛斗はそれを拒んでいるのか」
美咲「となると、まだギリギリ理性は保ってそうだね」
私「こっちの声が届けばいいけど・・」
雷煌「剛斗さん! 乗っ取られちゃ駄目です! 戻ってきてください!!」
私「負けるな剛斗!!!」
獅電「意味あるのか・・?」
剛斗「くっ・・ぐぁあ!」
私「反応はしてる・・!」
獅電「意味が通じていると良いが」
剛斗が抵抗を辞めたら多分、終わってしまう。
清次「どうなってんだ!」
馬に乗ってやってきた。
雷煌「例の刀を剛斗さんが拾ってしまった模様です!」
清次「誰も見張ってなかったのか!」
豪の兵士「申し訳ございません!」
清次「クソ・・でも、まだ人を襲ってないのか?」
獅電「ああ。悶え苦しんでいるが、暴れてはいない」
清次「おかしいな。先刻の野郎とは様子が違う」
春日「やっぱり違うんだ・・」
清次「さっきは手首を切って失敗した。なら次に狙うのは刀本体。雷煌、刀を切れるか試してみろ。雷刀ならおそらく出来る」
美咲「大胆すぎない? 大丈夫なの?」
清次「そんくらいしねぇと、一生状況は変わらないぞ」
雷煌「分かりました・・刀だけ狙います」
雷刀で剛斗の持つ刀を切ると。刀が血を流した。
私「え・・?」
切られた刀が再生した。
獅電「刀が再生だと?」
清次「まぁ・・そんな気はしてた。この刀は血を吸って強くなるらしい。何かしらの生命活動が行われてるのかもな」
刀が生きてるなんてこと、あり得るの?
剛斗「ク・・ソ!」
美咲「ん?」
雷煌「喋った・・?」
私「刀が血流してたし・・刀が弱ってるんじゃない?」
獅電「もう一度斬ればもっと刀の支配力が弱くなるかもしれない」
清次「雷煌、もう一回切れ! それでも駄目ならもう二回だ!」
雷煌「はい!」
もう一度切ると、刀が再び血を流した。
剛斗「やめろ!!」
私「話した! いいよ、もう一回!」
雷煌「剛斗さんを返せ!!」
刀から血が吹き出た。
すると、ついに剛斗の手から刀が離れた。
獅電「よし、今のうちだ!」
獅電さんが刀をズタボロに切った。
刀は徐々に消えていき、最終的に柄だけが残った。
清次「春日、柄も危なそうだから縛っといてくれ」
私「わかった!」
剛斗「オレ何してたんだ!! 何で足縛られてんだ!!」
美咲「あ、ごめん。今切る」
清次「良かった・・刀は血を使ってたのか・・?」
獅電「その辺の仕組みはわからんが、次にこのような状況になったときの対処法はわかった」
清次「ですね」
気づくと私たちの影は伸び切っていた。
獅電「もう敵はほとんど残っていないだろう。城に戻り、明日から戦の後始末をする」
清次「はーい」
美咲「撤退命令は狼煙だったよね?」
私「そういえばそんなのあったね・・」
枝と落ち葉をかき集めて火を付けた。
清次「結局意味わかんねぇまま終わったな・・何の軍だったんですかね」
獅電「きっと、華城が教えてくれる」
剛斗「オレ結局何で縛られてたんだ!?」
雷煌「知らなくて良いこともあります。とりあえず、剛斗さんが無事で良かったですよ」




