八十五話 煩悩
我「やはり別方向から攻めてきたか。濃霧衆は揃っているか?」
忍「はい、確かに」
右京「大体千人連れてきた。足りるか?」
我「おそらく足りると思うが・・状況によってはまた増援を頼むかもしれない」
右京「わかった。濃霧衆の忍のための住宅街を用意してくれるとはな、贅沢なお方だ」
宰川「褒めるのは戦が終わってからでいい。そろそろ獅電らが来るはずだ」
見張りの情報によると、東から攻めてきたのは約二千の兵士。
まぁ、普通に考えて東の方に戦力を多く割いているだろう。
我「一万以上の兵士をもつ軍・・そして、こんな無謀な強襲をかけてくる軍。心当たりはないか?」
伊海「東に本拠地を置く軍ならば、尾田軍でしょうか・・南西であれば、栗斗軍ですね」
栗斗軍はかなり新しい軍だ。大将が武闘派で恐れ知らずということは聞いている。
確かに、今回の侵攻をしてきそうな奴だ。
獅電「宰川! 皆無事か?」
馬に乗って獅電殿ら四人が来た。
宰川「ああ。濃霧衆の二千人とともに迎え討つぞ」
清次「よーし」
清次馬を降り、肩を回した。
我「あちらの状況はどうだった?」
清次「この調子だと守りきれそうだ。敵が弱い。一人ひとりの技量もだが、全くも統制が取れていない。ひでぇ有様だ」
我「そうか」
清次「ただ・・一つ懸念材料があるんだ」
宰川「なんだ?」
清次「不気味な刀を見つけた。術で生み出されたものかは分からないけど、どうやらその刀を持つと体を刀に乗っ取られちまうらしい」
我「それで、その刀は今どこに?」
清次「とりあえず、春日に鋼糸でぐるぐる巻きにしてもらった。それでも危ないけどな・・豪の兵士には一応『触れるな』と伝えてある」
兵士「前方より敵襲! 大砲で迎え撃ちます!」
宰川「始まったか。総員、戦闘準備!」
全「はっ!」
清次「強敵は獅電さんと雷煌に任せる。殲滅は俺と了斎に任せろ!!」
二人が走っていった。
獅電「雷煌、行くぞ」
雷煌「はい!」
宰川軍が大砲を使うのは今回が初だ。
濱田軍領地からの戴き物だが、これがあれば城を守りやすい。
*
俺「了斎、ここに亀裂を生んでもいいと思うか?」
了斎「それ・・宰川軍にも迷惑がかからないか?」
俺「ちっ、じゃあ辞めとくか」
通常通り地割れを起こした。
了斎「火球飛ばすの効率悪いな。このあたりを焼き尽くすぞ!」
俺「濃霧衆の奴ら! ここから離れろ!!」
了斎「清次も逃げろ!」
俺「俺は良いんだよ、考えがあるんだ」
了斎が放った炎は想像以上の被害を与えている。
俺「よし、了斎! 俺をおぶってくれ!!」
了斎「はぁ!?」
俺「これが俺の『考え』だ! 天才的だろ?」
了斎「馬鹿野郎、せめて甲冑を・・」
俺は後ろから片腕を回した。
俺「俺が焼け死ぬ前に頼む!!」
了斎「重っ!!!」
俺「俺はそこら中で地割れを起こす! 火がない場所まで来たら俺を下ろしてくれ!」
了斎「わかったよ!!」
了斎の体力は信頼を置ける。バテて倒れるなんてことはあり得ない。
針と地割れを連発し、五十人くらいは殺した。
敵軍兵士「おりゃああ!!」
背後か!
俺「邪魔じゃあ!!!」
顔を蹴り飛ばした。おそらくあいつは焼け死ぬ・・!
了斎「清次、正面!!」
騎馬隊が数十人、こちらへ向かってくる。
俺「了斎、一回下ろしていいぞ」
俺「くっ・・」
熱いなんてもんじゃねぇ・・!!馬も苦しいだろうなぁ!!
俺「はぁぁぁ!!!」
真っ先に一人を殺し、馬を奪い取った。
俺「ほら走れ!!!!」
苦しそうに鳴く馬のことなど考えてられるか!
敵軍兵士「貴様よくも!!」
俺「了斎、乗れ!」
了斎が俺の後ろに乗った。
俺「逃げるぞ!」
了斎「戦わないのか!」
俺「逃げるが勝ちな局面もあるんだよ! 火がないところに出たら全員ぶっ殺すぞ!!」
了斎「了解!」
暴れる馬を何とか制御し、火の外へ出てきた。
俺「よーし・・カモがネギ背負って来たぞ・・」
了斎「何をする気だ?」
俺「まだだ・・まだ・・よし、今だ!!」
横一線に亀裂を生んだ。
敵軍兵士「あぁぁぁぁ!!」
止まりきれずに全員底へ落ちていった。
この溝は馬に乗ったやつに効くと思ったんだよな。
了斎「逃げるが勝ちって・・そういうことだったのか」
俺「完璧な作戦だろ?」
了斎「卑劣極まりない」
俺「お褒めに預かり光栄だよ。そんで、俺は足を火傷してもう走れねぇ。ここからは馬に乗って戦う」
了斎「了解。わしもそうする」
未だに強敵は現れない。獅電さんたちの方に居るのか?
それとも、このまま終わるのか・・?
忍「清次さんと了斎さん! 助けてください!!」
俺「どうした?」
忍「あそこで敵が味方に襲われていて・・」
俺「それの何が問題なんだ?」
忍「見たら分かっていただけると思います」
俺「わかった、とりあえず行くよ」
忍の言う方向へ向かうと、人目につかない林の中だった。
何これ、俺たち罠にかけられてんのか?
敵軍兵士「助け・・て!!」
俺たちを見て言った。
忍「何だよ・・呼んだって助けは来ねぇぞ」
忍が敵軍の女兵士に馬乗りになっている。
最悪の気分だ。
そういう気持ちになるやつも居るってことか・・
敵軍兵士は必死に抵抗しているが、おそらく最終的には・・これ以上は伏せるが。
了斎「くっ・・・・」
忍「あれを見て、僕はすぐに逃げてしまったんです」
俺「気持ちは分かる。だが、ここは俺たちの出る幕じゃない」
忍「どういう意味ですか?」
俺「了斎、任せたぞ」
*
絶対に許せない。
戦の最中に自分の欲望を優先し、女性を傷つけるだと?話にならん。
わし「おい、そこのお前。何をしている?」
忍「チッ・・良いところだったのによ」
わし「一体、これのどこが良いところなのか教えてもらっていいか?」
忍「何だよ、コイツらは敵だ。何をしようと俺の自由だろ」
わし「味方に申し訳ないとは思わないのか? 濃霧衆の一員としての自覚はないのか?」
忍「は?」
わし「お前がこうして自分の欲望のままに行動している間に、味方は命をかけて戦っている。おそらく命を落としているものも居るだろう。なのにも関わらずお前は・・」
忍「何だ? 俺とやり合うか?」
わしが幹部であることを知らんのか・・?どう考えてもお前は負ける。
わし「構わない」
拳に炎をまとわせ、忍の顔を殴った。
忍「ぐぁあ!!」
わし「ここでお前を殺すことはしない。ただ、この戦が終わった後お楽しみが待っているだろう」
忍「まだ終わってねぇ・・」
起き上がろうとしていたが、思い切り股間を蹴り飛ばしたら動かなくなった。
敵軍兵士「どうして助けてくれたのですか・・?」
わし「こんな野郎を見逃していては、宰川軍の格も落ちてしまうであろう?」
敵軍兵士「宰川軍の方は誇り高いのですね・・」
わし「この世は弱肉強食。弱き者が淘汰されていくのは至極当然だと思っているが・・わしは、弱き者を助ける存在でありたい。おごり高ぶる強者にだけはなりたくないんだ。コイツのように」
敵軍兵士「私もまだまだ未熟だったということです」
わし「わしは、あなたが弱いとも思わんがな」
敵軍兵士「何故ですか?」
わし「逃げなかったであろう? この男が現れたときも、わしが出てきたときも」
敵軍兵士「それは、ただ逃げられなかっただけで・・」
わし「うーん・・一度はこの男に立ち向かったのではないか? でなければ、この男の首から血は流れていないはず」
敵軍兵士「・・・・」
何も言わなくなってしまった。
どうしよう。
気まずい・・
清次「終わったかー?」
わし「ああ」
清次「困った野郎も居たもんだな・・そこの嬢さん、とにかく安全な場所へ仲間と一緒に戻った方がいい。心の傷も癒やすべきだ」
清次は時々真っ当なことを言う。
敵軍兵士「私を見逃すのですか・・?」
清次「見逃すわけじゃない。戻ったら伝えるんだ。今回の一部始終をな」
敵軍兵士「はい・・」
清次「宰川軍には優しい良いやつが居るって分かれば、多少はおたくの軍の大将の考えも変わるかもしれねぇからな。じゃあ頼んだぞ、気をつけて帰りな」
敵軍兵士「本当にありがとうございます!!」
林の中を進んでいった。
清次「信じられないくらい足が痛ぇけど、格好つけたいから我慢してた」
わし「だから顔がピクピクしてたのか・・」
清次「んで、どうするんだ? こいつは」
わし「華城にたっぷりお仕置きしてもらおう」
清次「よし、それで決まりだ。こいつを連れて戻ろう」
わし「了解だ」
敵を殲滅しつつ、宰川殿のもとへ向かった。




