八十三話 面倒
俺「とっておき?」
久遠「ああ。良い蕎麦屋を知ってるんだ」
霧島「蕎麦屋・・?]
いや、流石に被ってるなんてことはないだろう。
久遠「どうした霧島?」
霧島「いや、何でも」
朝も通った気がする道を進み、蕎麦屋へ到着した。
久遠「ここだ」
今朝食べに来た蕎麦屋だった。
華城「・・なるほど」
久遠「皆どうした? 蕎麦嫌いか?」
了斎「蕎麦は大好きだ」
久遠「じゃあ、入ろう。ちょっと変わった店で、日替わりのそばしかないんだ」
店主「いらっしゃい! おや、君たちまた来てくれたのかい? 朝とは違う蕎麦にするから楽しみにしときな」
久遠「朝とは違う蕎麦って?」
俺たちは気まずい空気の中無言で蕎麦をすすり、無言で家まで戻った。
俺「久遠さん、ばいばーい」
久遠「お、おう!」
広間に入るや否やすぐに霧島が口を開いた。
霧島「何で誰も言わねぇんだよ!」
俺「言えるわけねぇだろ! 久遠さんがあんなに嬉しそうに紹介してきたんだぞ!」
将英「美味かったし良いだろう」
でもな・・変わり映えしねぇなぁ。
華城「我は一度城に行ってくる。皆はここでゆっくりしてて良い」
本当に多忙だなー。
*
爲田城で行われた会議から一週間。僕と副団長は団員を連れて宮殿へ帰ってきた。
レオナード「よく戻ってきた、無事だったか?」
僕「イサベル以外は無事です」
レオナード「まったく・・最後の最後まで困ったやつだったな」
苦笑いして言った。
ストーンハート「ミーティングをするぞ。上層部をここへ集めろ」
共闘して得た情報を伝えるミーティングが始まった。
ストーンハート「このままじゃまずい。実際に目の前で戦っているところを見たが、かなり武士は強くなっている」
レオナード「それは具体的にどういった強さだ? 術なのか剣術なのか」
ストーンハート「どちらでもない。俺たち術師と明確に違ったのは『覚悟』と『士気』だった」
僕「そうですね・・一人ひとりが本気で命を賭して戦っていました」
特に清次・・あいつは化け物だ。狂ってる。
普通、幹部にまで上り詰めたら人を動かす側に回るはずだ。
ただ、清次は野心を忘れていなかった。
安定なんてクソ喰らえと言わんばかりのハングリー精神とメンタルの強さ。
しかも・・それを幹部のほとんどが持ち合わせている。
レオナード「要注意人物はいるか?」
僕「間違いなく獅電です。最強の武士という名に相応しい実力でした。おそらく、並の術師では千人でかかっても勝てないかと」
レオナード「そんなに・・わかった。ストーンハートと対峙したらどうなる?」
僕「おそらく・・副団長の攻撃が命中することはないでしょう」
ストーンハート「認めたくねぇが・・俺もそう思う」
レオナード「なるほど。他には?」
僕「清次、華城、雷煌の三人でしょうか。清次の戦闘スタイルはかなり荒々しいですが、持ち前のポテンシャルでかなりの脅威となっています」
レオナード「清次か。確か交渉の場にも居たな」
ストーンハート「あいつは術の破壊力も規格外だ。地割れを起こしやがるんだぞ? とんでもねぇ」
僕「そして華城はとにかく頭が切れる。正直、一番敵に居てほしくないタイプですね・・奇妙なほどに状況を正確に捉えて有効な作戦を立てます」
レオナード「参謀の者か。確かに知的な雰囲気だった」
僕「雷煌は神童です。実力では清次に劣りますが、単体戦の適性は獅電並と言えるでしょう」
レオナード「特徴は?」
僕「小柄で眼帯をつけた少年です。声は高く可愛らしいですが・・攻撃力は全く可愛くないです」
レオナード「なるほど。他に情報は?」
僕「あと、これは本当に理由が不明なんですけど・・」
レオナード「何だ?」
僕「武士は術を使う時、杖が必要ないようです」
ストーンハート「そうだな・・全員、刀を持った状態か手ぶらの状態で使っていた」
レオナード「なるほど・・他に何か気づいたことは?」
僕「副団長は特殊なので杖は必要ありませんが、武士で杖を使っている人は一人も居ませんでした」
レオナード「そうか・・他に気づいた点は?」
僕「武士には術のクールタイムという概念が存在しないようです」
レオナード「では、ずっと使い続けることが出来るのか?」
僕「いえ、体力を消費して術を使っているようです。僕たちが術を使う際は体力を使わないですよね」
ストーンハート「まぁ、術の使用に必要なものが違うってことだ。俺たちは杖、武士は体力」
ウィリアム「体力がある限りは術を連発できるということか・・」
僕「その上、武士は基礎的な体力が桁違いです。僕たちに比べて鍛錬も過酷なものですし・・刀を長時間振り続けることで必然的にスタミナは向上しています」
ディーゼル「何か、術の使い方が根本的に異なるのかもしれぬ。わたくしが詳しく調べるとしよう」
研究室に一人で戻っていった。
ウィリアム「相変わらずマイペースな男だ」
僕「有益な情報はこれくらいです」
レオナード「わかった。では、各自情報を持ち帰って自分なりの意見をまとめてくれ。次のミーティングで話し合おう」
ストーンハート「了解だ」
*
会議から二週間。
この二週間で、華城塾と道場の建設が始まった。
今日は久しぶりに会議室に我・宰川殿・久遠殿・獅電殿・伊海殿が集まっている。
宰川「街の様子はどうだった?」
久遠「大きな問題もなく、いつも通りと言った感じだ」
我「小さな問題はあるのか」
久遠「まぁ、喧嘩やら殺傷事件は後を絶たないな。その度領地内の兵士が適切な対処をしているが」
獅電「首を斬っているだけだろう」
宰川「それは言わないお約束だ」
我「それで、今日我らをここへ集めた理由は?」
宰川殿が咳払いした。
宰川「簡潔に言うと、豪の兵士から幹部へ二人昇格させようと思っていてな」
獅電「美月と俊平の埋め合わせか?」
宰川「それもあるが・・今残っている豪の兵士は優秀な者が多い。その中でも異彩を放つ者を幹部に入れたい」
久遠「この前のような面接は行うか?」
宰川「ああ。この五人で行おうと思っている」
我「紹介は幹部入りしてからか。わかった」
会議室の戸が開いた。
兵士「宰川殿、幹部候補の二人を連れて参りました」
宰川「ご苦労」
我「こっち」
二人が顔を強張らせながら席に座った。
宰川「軽く自己紹介を頼む」
?「俺は彰です! 今回は俺にこのような機会を与えてくださり、本当にありがとうございます!」
しっかりと考えてきたことが伝わる。
?「茜です。なんか嫌いだわこういう空気」
彰の方を睨みながら言った。
こりゃあまたとんでもないやつが出てきた。
久遠「二人の使用術は?」
彰「氷槍術です! 俺は基本的に槍を使って戦うんですけど、その槍の温度を急激に下げることで氷槍に出来ます!」
我「その術の体力消費は?」
彰「一度冷やせばしばらく使えるので、ほとんど消費しません!」
茜「私は弓破ってやつ」
久遠「きゅうは?」
茜「うん」
久遠「それは具体的にどんな・・
茜「めんどくさ、説明しなきゃいけないの?」
正気か?
獅電「説明しろ」
かなり強い口調だった。
茜「わ、わかったよ・・私は弓を使うんだけど、矢を私好みに変えられるの。こんな風に」
茜が矢を取り出し、矢じりを赤くした。
茜「彰、触ってみて」
彰「はい・・あつ!!」
だろうな。
我「術の強力さは十分伝わった。もういい」
茜「はいよー」
その後も十分程度の質問を行い、二人のことを詳しく聞いた。
宰川「ふむ・・彰は幹部に入れても問題ないだろう。実力も人間性も非の打ち所がない。しかし・・こいつは難儀だな」
茜が今までにない性格をしている。
茜「私は別に幹部にならなくていいって・・」
獅電「彰は豪の兵士として茜と一緒に仕事や戦闘をしたことがあるはずだ。その時茜はどうだった?」
彰「確かに文句と愚痴は多いですが、輪を乱したり、命令に背くことは決してありませんでした」
獅電「そうか」
伊海「真面目なのですか?」
どんな質問なんだ。
彰「真面目では無いんですが・・悪い人ではないです! 俺が失敗した時も助けてくれたので・・」
茜「お前のミスが豪の兵士全体の責任にされるのが面倒くさいんだよ。命令に背くのも面倒くさい」
段々と茜の人間性が見えてきた。
我「面白い。宰川殿、我は茜も幹部に入れたい」
宰川「まあ、命令に背かないのであれば問題ないだろう」
久遠「彰、茜が何か問題を起こしそうであれば止めてくれ」
彰「分かりました!」
茜「お前に付き纏われるの嫌なんだけど・・」
彰「しかし、久遠殿の命ですから・・」
茜「うっざ」
宰川「では、今晩に皆を城に集め、二人を紹介する」
久遠殿が会議室から頭を出し、凜花を呼んだ。
凜花「どういたしましたか?」
久遠「今晩、大広間に集まるよう連絡してくれ。もちろん主力部隊だけ」
凜花「了解! はい、虎影出てきて!」
虎影「話は聞いていた。順次連絡に向かう」
有能だ。
兵士「連絡です! 南西より敵襲、敵数・・約一万!! 既に南西の町の住民は一部被害を受けている模様です!」




