八十話 ただいま
右京「よし。揃ったぞ」
ちょうど十人連れて右京が戻ってきた。
もちろん遙華もいる。
宰川「里に残った者はどうする?」
右京「俺が数日間居なくなっても、この里の皆であれば大丈夫だ。食糧もたんまりあるしな」
俺「もらっていい?」
右京「もちろん駄目だ」
俺「けちんぼ」
宰川「では、城へ帰還する! 皆準備はいいか!」
全「はっ!!」
右京「移動を始める前にだな・・」
久遠「どうした?」
右京「皆、『いい温泉』に興味はないか?」
隣に居る了斎が唾を飲んだ。
俺「ふろ・・」
右京「やはり、皆疲れを取りたいだろ? 近くに名所があるんだが・・」
獅電「答えるまでもない。お前ら、温泉に行くぞ」
全「うおおおおおおお!!!」
風呂なんていつぶりだ・・川で体を洗うことはあったが、風呂入りてぇ!!!
久遠「ちなみに、ここからの距離は?」
右京「馬で三十分だ」
全「おおおおおお!!!」
右京「皆、ついてこい!!!」
人を手懐けるのが上手いな・・
だが、欲望には逆らえない。
風呂のことを妄想しているうちに、三十分経過していた。
右京「これが秘境・そして絶景の温泉だ!」
宰川「こんな場所があったとは」
右京「ここを人に教えることはないんだが・・特別にな」
華城「最高のハゲ」
右京「褒めても何も出ないぞ」
宰川「総員! 止まれ!」
早く入りたい早く入りたい早く入りたい早く入りたい早く入りたい。
宰川「今すぐにでも湯に浸かりたい気持ちは分かるが、一気に全員入ることは出来ない。複数人で分けて入るぞ」
俺「順番は?!?!」
宰川「男性の宰川軍幹部。女性の宰川軍幹部。男性の伊海軍幹部・豪の兵士・忠勝・直政。女性の伊海軍幹部・豪の兵士。濃霧衆。星界術師団の二人と俺と右京の順番だ」
俺「よっしゃ最初!!!」
雷煌「火蓮さんはどうしますか?」
火蓮「まぁ・・体は女じゃからな。次に入ろう」
華城「了解」
火蓮「何だ、一緒に入りたいか? 華城! 二人で入りたいのじゃな!?」
華城「ばーか」
俺たちは温泉に向かった。
待ち時間の間、皆は焚き火を囲んで雑談していた。
あっち側も結構楽しそうだな。
俺「脱いだ服の場所、覚えとけよー」
霧島「忘れねぇよー」
温泉に入った瞬間、全身の力が抜けていくような感覚だった。
剛斗「最高だぜ!!!!」
風呂ってこんなに素晴らしいものだったんだな・・・・・・
雷煌「清次さん、断面見せてください」
俺「あぁ、腕? はいっ」
雷煌「綺麗~」
俺「ここは治してもらったからな」
霧島「脱がないと気づかなかったけどよ・・清次だけやたら傷跡多くねぇか?」
了斎「華城の十倍はありそうだな」
華城「我は戦わないからな」
久遠「危ない行動ばかりしてるからそうなるんだぞ」
俺「わかったわかった、気をつけるって」
十分疲れを取り、俺たちは風呂を上がった。
神楽「次の人どうぞ~」
春日「きたー!」
女子組が風呂に向かっていった。
右京「どうだった?」
宰川軍幹部「神」
ストーンハート「頭悪くなったか? お前ら」
俺「入ったら分かるさ」
了斎「清次、あっちの風呂は気になるか?」
女子組が向かった方を指さして言った。
俺「ガキじゃねぇんだから・・」
霧島「俺の霧で身を隠して行ってもいいぞ」
アストリア「最低です」
俺と霧島の頭を叩かれた。
俺「今のは霧島が悪いだろ」
順繰りに温泉に入っていき、最後の一人が風呂から上がってきた。
ストーンハート「待たせたかー?」
アストリア「待たせすぎです。僕が出てからもう十分以上経ってますよ」
ストーンハート「悪いな」
微塵も悪いと思ってなさそうだな。
久遠「疲れも取れたし・・城に向かおうか」
春日「はーい」
体力が完全に回復し、体も軽く感じる。
走って城まで行けそうなくらいだ。
馬には乗るが。
宰川「総員、移動開始!!」
今回の八日間の移動は何事もなかった。
言うことがないくらいに順調だった。良いことなんだが・・あっさりとしすぎていたな。
強いて言えば・・忠勝と将英が意気投合したくらいか。
忠勝「将英って僕と同い年なの!? 年上だと思ってたよ~!」
将英「やっぱりオレたちからすると十六歳は若いよな」
忠勝「三つ下だもんね~・・ちょっと年の差を感じる事あるよね」
うん、本当にそれくらいだ。
そして・・・・
俺「うわぁー、帰ってきたー!!」
一ヶ月ぶりか・・安心感のあるこの場所、最高だ。
民衆からの歓声も久しぶりだ。気持ちいいな。
住民「宰川殿ー!!!」
住民「獅電さん、かっこいいー!!!」
人気だなー。そろそろ久遠さんの声が上がっても良いと思うんだが。
華城「現在時刻、夕方六時か」
久遠「微妙だな。会談は明日にするか?」
宰川「ああ、元々そのつもりだ。一晩はゆっくり休もう」
右京「俺たちの居場所は?」
獅電「先代幹部の家がクソほど余っている。一人一軒、自由に使え」
右京「感謝する」
宰川「忠勝と直政の分の家もおそらく余っている」
直政「感謝いたします」
アストリア「僕たちもですか?」
宰川「二人は城に泊まっていけ。伊海軍も」
俺「えーいいなー俺も泊まりたい」
宰川「駄目だ。せっかく広い家があるだろ」
城に泊まるの楽しいんだよなー。
宰川「では、明日の朝九時に爲田城大広間へ集合! それまではゆっくりと休め!」
全「はっ!」
獅電「ちなみに、間に合わなかった場合は指を一本失うことになる」
よし、絶対に早く起きよう。
華城「我はしばらく城で宰川殿たちと話すから、皆は先に家に帰っていいぞ」
将英「了解」
風刃術で俺たちの家に帰ってきた。
俺「中は悲惨だろうな・・一ヶ月放置してたんだろ?」
戸を開けると、出発する前よりも綺麗な部屋が目に飛び込んできた。
翔斗「綺麗じゃないか?」
了斎「誰かが掃除してくれたのかもしれんな」
俺「助かる~」
広間に八人で駆け込んだ。
霧島「落ち着くなー」
俺「やっぱりここだな」
了斎「刀、部屋にしまってくるよ」
了斎が皆の刀を回収した。
雷煌「ありがとうございます!」
しばらく沈黙が続いた。
霧島「美月が居なくなって・・同期組から女子が消えちまったな」
俺「なんか・・女子が居ないってのも寂しいもんだな」
火蓮「妾がおるじゃろ」
一気に近づいてきた。
俺「えっ・・えーっと・・」
雷煌「困らせないでくださいよ」
火蓮「からかっただけじゃ」
俺「お前が一番言ってて困るだろ」
火蓮「そうじゃな・・別にどちらでも良いんじゃが」
了斎「美月の部屋が空室になっちゃったよな・・あそこはどうする?」
将英「うーん・・」
俺「華城が帰ってきてから、その話をしよう」
了斎「そうだな」
特に何もせずだらけていると、戸が開く音がした。
華城「ただいま」
霧島「お、来た」
華城「疲れたー・・・・」
広間に入って早々床に寝転んだ。
俺「華城、参謀になってから本当に忙しそうだな・・大丈夫か?」
華城「馬鹿言え。大丈夫かはこっちの台詞だ」
将英「清次以外は大丈夫だ」
俺「腕が生えてくる薬とかねぇの?」
華城「残念ながら無い」
分かってたけども。
華城が上体を起こした。
華城「とりあえず皆本当にお疲れ様」
華城が小さく頭を下げた。
華城「ただ、清次には悪いな・・我らの不注意のせいで腕を失ったようなものだし」
俺「気にするな。誰のせいでもないだろ」
翔斗「腕を失ってもその姿勢でいられるの、ある意味凄いよな・・」
俺「俺は四肢を失ったとしても俺のままだぞ」
翔斗「まぁ・・そうだな」
俺「んで、華城に相談したいことがあるんだ」
華城「何だ?」
俺「美月の部屋が空室になっちまっただろ? これからあの部屋をどうするかなんだが・・」
華城「どうもしない」
全「は?」
華城「死んだから、というだけの理由であそこを物置部屋になど出来るものか」
了斎「華城・・」
華城「それに、あそこは美月の部屋でないと美月の帰ってくる場所がなくなってしまう」
将英「たまには、帰ってきてもらいたいな」
華城「ああ」
そうか。悲しみを紛らわす必要なんてなかった。
きっと、華城は美月の死に何も思っていない訳では無い。
ただ、悲しみを噛み締めているのだ。
悲しいからこそそのままで、その人を忘れないようにする。
俺「やっぱり、華城に相談してよかったよ」
華城「?」
不思議そうな顔をして頭をかいた。
火蓮「一応、美月の形見を預かっておるんじゃ」
俺「これは・・」
火蓮「美月の使っておった刀じゃ」
美月の刀は刃こぼれもなく、綺麗だった。
火蓮「血は美咲が洗い流しておいたらしい」
剛斗「美月の部屋に飾っておこうぜ」
俺「刀掛けってあるか?」
華城「明日、城にあるか探してみよう」
俺「そうだな」
夕飯を食べ、各々自室に入った。
久しぶりだな・・一人で寝るの。
若干の寂しさがある。
俺「眠いし寝るか・・明日は早起きしようっと」
時刻は夜十時。うむ、健康的だ。




