七十六話 陥落
治療の術は使うたびに治療を受けたものの寿命が縮む・・・・
実際、どれだけの寿命を使って治しているのかは分からないし、そもそもそれは確定事項でもない。
杞憂で終わってくれること願おう。
獅電「清次はここで待機していろ。先程の戦闘を見て思ったが、やはり今の清次を四天王と戦わせるのは危険だ」
俺「そっ・・・・」
豊さんの言葉を思い出した。
獅電さんは俺よりも経験豊富で合理的な判断を下せる。
ただ、合理的な判断が必ずしも正しいものとは限らない。やはりケースバイケース。
今は獅電さんの判断を信じるのが正解なはずだ。
俺「・・分かりました。ただ、獅電さんも無理はしないでくださいよ。前評判だと、直政が一番強いらしいですから」
宰川「清次が・・食い下がっただと? 何があった?」
失礼な。
俺「アストリア、教えてくれただろ? 『ケースバイケース』ってな」
アストリアは俺のことを見て微笑んでいた。
翔斗「成長したな」
うっさ。
霧島「獅電さんが居るとしても、二人で四天王のところに突っ込むのは無茶じゃねぇか?」
宰川「誰かを同行させようと思うが、誰が良い? 華城」
華城「今のところある情報だと、直政は名実ともに梶田軍一の武士であり、梶田軍兵士にとても尊敬されている。戦い方の特徴としては無尽蔵の体力で敵の攻撃を避け続け、敵の体力が尽きた所で軽々と殺すというところだ」
伊海「消耗戦ということでしょうか?」
華城「ああ。獅電殿の体力であれば問題はないと思うが」
俺「忠勝はどう思う?」
忠勝「僕からは何も言えない、けど・・」
俺「は? 何も言えない? いろいろ知ってるはずだろ」
情報を吐かせるために連れてきたのに・・
忠勝「僕、何も知らないんだよ・・・・」
俺「そんなわけがあるか」
アストリア「清次さん、悪いところ出てますよー」
俺「えっ・・そう?・・ごめん」
霧島「とにかく、体力があるやつを連れていけば良いんだろ? 剛斗たちで良いんじゃねぇか?」
華城「我も同意見だ。繭たちが榊原と戦闘しているし、美咲の班以外の選択肢はない」
俺「繭たちが榊原と戦ってる?」
華城「先程向かわせた」
俺「何で真っ先にその班を向かわせたんだ? 剛斗たちの手は空いてたんだろ?」
アストリア「それが『合理的な判断』ってやつですよ」
俺「そうなのか・・」
あまり納得はできなかったが、また後で理由を聞いてみるとしよう。
アストリア「美咲さんに連絡します」
アストリアが美咲と繋いだ。
美咲「美咲です、要件は?」
アストリア「至急、本部に戻ってきてください。新しい任務があります」
美咲「本部?」
アストリア「はい。そちらの状況は?」
美咲「問題ないよ。順調に敵は減ってる」
アストリア「では、早急に本部へお願いします」
美咲「えーっと、豪の武士はどうするの?」
アストリア「宰川さん、どういたしますか」
宰川「ストーンハートをそちらに向かわせろ」
アストリア「副団長を向かわせますのでご心配なさらず」
美咲「了解」
接続が切れた。
*
オレ「あれが榊原か・・・・」
現在は、晃牙と春日で応戦しているようだ。
将英「何なんだあの鎧は・・」
わし「おそらくわしの炎は通用しない。風刃も効かないな・・」
オレ「繭の幻影、羽音の亡霊、オレの落雷が数少ない攻撃手段か」
羽音「亡霊の貧弱な攻撃が効きますかね・・?」
オレ「まぁ、ものは試しだ。繭も心の準備は出来たか?」
繭「大丈夫」
風刃術で一気に接近した。
オレ「遅れてすまない! 美月、犠牲者は出ていないな?」
美月「久遠さんたち、来てたのね・・」
知らなかったのかよ。
雷煌「さっき、僕が勝手に呼びました」
美月「今のところはみんな大丈夫。ただ、このまま戦闘がずるずる続いていくと危ないかもしれないわ」
オレ「雷刀、光刀は効かないのか?」
雷煌「あれはかなり高性能の鎧で・・雷刀は効きませんでした。覆われていない関節部分を斬ろうとしても、軽く振り払われてしまいます」
オレ「分かった。二人が関節を狙えるよう隙を作れば良いんだな?」
美月「ええ。斬ることさえできれば倒せると思うわ」
数を増やして隙を生む。
これは間違いなく繭と羽音が適正だ。
オレ「オレがまず雷を落とす。その後すぐに了斎が火球を放て。繭と羽音は幻影と亡霊を生み出し、榊原の手を煩わせるんだ。将英は二人とともにここで待機し、決定機を作るのを待て」
全「了解!」
的は大きい。雷は命中するだろう。
問題は、通用するか・・あの鎧がもし金属でできているのであれば、そして、アイツの靴も金属製であれば・・地面に電気が逃げて終わりだ。
オレ「はっ!!」
榊原に雷が直撃した。
春日「うわぁ!? なにこれ!?」
オレ「春日! 下がれ!!」
春日と晃牙が離れたところで、了斎が火球を放った。
了斎「効いておらんか」
オレ「近くで見ると、アイツの靴はただの草鞋。電気が逃げてはいないだろう」
羽音「つまり、雷をしっかりと食らった上であれですか・・?」
榊原はびくともしていない。
オレ「要塞という名は伊達じゃないってことか」
繭「行くぞ、羽音」
羽音「よし・・!」
二人が亡霊と幻影を生み出し、榊原は約十人?十体?に囲まれた。
榊原「雑魚がまた増えたか」
了斎「わしは可能な限り火球を打ち続ける!」
オレは榊原と真っ向勝負を始めた。
この大太刀はいくら榊原といえども容易く振るうことのできる代物ではない。
速さで攻めれば倒せるはずだ!
榊原「近寄るな、虫けらが」
晃牙「久遠、こいつ、弱点、脇」
オレ「そうなのか?」
晃牙「刀、大きい、振る、時間・・かかる、脇、空く」
オレ「なるほど。春日、手を貸してもらえないか?」
春日「もちろん!」
オレ「春日とオレは正面から戦って脇を無防備にさせる。晃牙は術も駆使して脇を斬ってくれ。脇には鎧もない」
晃牙「わかった」
オレ「行くぞ!!」
これなら勝機がある。
鎧が強いのであれば、鎧のない部分を狙うまで!
オレ「なっ・・」
榊原の鎧に無数の針がついているのが見えた。
これでは少し触れただけでも負傷する・・
晃牙「ふっ!」
榊原「くっ・・クソ!」
榊原の動きが急激に鈍くなった。
まさか、時空操作か!?
オレ「よくやった晃牙、雷煌! 今だ!!」
雷煌「はい!」
目にも止まらぬ速さで雷煌は榊原を斬った。
榊原「ぐはっ・・!」
一撃入った!!!!
オレ「いいぞ雷煌!!」
了斎「はぁぁぁぁあああ!!!」
剣先を榊原に向けながら、了斎が突進してきた。
榊原「クソ、この野郎!!」
了斎「くらえぇぇぇぇ!!!」
榊原の脇に思い切り刀をぶっ刺した。
榊原「がああああ!!」
ようやくまともな攻撃が入った・・・・
榊原「よくもやってくれたな・・・・」
榊原が徐々に晃牙へ近づいていく。
了斎「普通に歩いてるのか・・・・?」
美月「アイツの痛みへの耐性は常軌を逸しているわ。そもそも、あんな甲冑を纏ってまともに動けている時点で・・純粋な体の強さはとんでもないでしょうね」
気づいたら横に美月がいた。
春日「ただ・・絶望的に動きが遅いなぁ。晃牙、歩いてるだけなのに全然追いつかれてないよ」
オレ「そうだな・・・・」
了斎「わしの刀がなくなってしまった」
春日「私の貸すよ! どうせ私、術しか使わないし」
了斎「ありがとう。大事に使うよ」
春日「なまくらにしたら許さないんだから」
晃牙と榊原の追いかけっこはまだ続いていた。
オレ「今の榊原は怒りでかなり視野が狭くなっている。美月と雷煌で両膝裏を同時に斬ってくれ」
美月・雷煌「了解」
オレ「鎧の針がとにかく厄介だな・・何か対処法はないのだろうか」
俊平「久遠さん、オレのこと忘れてたでしょ・・」
オレ「俊平!?」
春日「そういえば、一回地中に潜ってから出てきてなかったね・・」
俊平「うん、寂しかったんだけど・・」
春日「ご、ごめん」
俊平「そんなことはいいや。地中でずっと探っててわかったことある。これを使えば、榊原の攻撃にいち早く気づけるかもしれない」
オレ「何だ?」
俊平「榊原の大太刀は絶対に触れてはいけない破壊力がある。だから、なんとしてでも攻撃は避けないと。そこで有力情報がある! それは、榊原は大太刀を振るう時、絶対に右足を素早く踏み出すというものなんだ」
了斎「右足を素早く踏み出す?」
俊平「何か一定の流れに沿った攻撃をしてるんじゃないかとずっと思ってたんだ。癖なのか分からないけど、絶対に右足を踏み出してから大太刀を振るっている」
春日「それがわかったならもうアイツの攻撃ビビんなくて良くない?」
将英「そうだな・・」
オレ「じゃあ、それを踏まえて。雷煌と美月、頼んだぞ」」
雷煌「はい!」
二人が勢いよく駆けていき、榊原の膝裏に向かって斬りかかった。
オレ「いいぞ!!」
・・その瞬間、榊原が右足を一歩踏み出した。
春日「あっ・・」
雷煌「危な!!!」
将英「避けたか」
オレ「良かった・・しっかりと見えていたか」
了斎「わしらも向かおう」
榊原のもとへ向かう前に、繭と羽音のいるところへ寄っていった。
オレ「繭、羽音、新たな指示がある」
繭「どうした?」
オレ「幻影と亡霊を、榊原の右半身の方に集中させてくれ」
羽音「了解ですが・・何故ですか?」
オレ「アイツの攻撃の傾向が掴めたんだ。アイツの右半身を封じればかなり有利に進められる」
繭「了解」
美月「はーあっ!!!」
榊原「ぐっ・・」
美月「ようやく一発入ったわ!」
問題はどう殺すかだ。
美月と雷煌にズタズタにしてもらう以外思いつかない。
こんな時に華城が居ればな・・・・
榊原「そろそろ終わりにしてやる」
榊原が大太刀を構え、思い切り回転し始めた。
オレ「そんな原始的なやり方で・・」
美月「ちょっ・・・・!!」
美月の首と胴が泣き別れになっていた。
オレ「美月!!!!!」
美月だけ避けられなかったか・・!
俊平「止まれ!」
岩を出したがすぐに砕かれ、たちまち俊平の頭も大太刀によって砕け散った。
オレ「俊平!!!!!」
雷煌「お前・・・・・・よくもぉぉぉぉぉ!!!!!」
泣き叫びながら榊原に向かっていった。
春日「危ない!」
春日が榊原の足を鋼糸で縛った。
榊原「何、クソ・・・・」
雷煌「死ねぇぇぇええ! 死ね! 死ね!!!」
ひたすら雷煌が斬り続けた。
了斎「らい・・こう・・」
足がすくんで動けなかった。
目の前の光景が信じられなかった。
首だけになった美月と、榊原を圧倒する雷煌。
俊平はもう・・胴体と血しか残っていない。
将英「・・死んだか」
榊原が動かなくなっていた。
了斎「待て、雷煌も動いてない!!!」
すぐに雷煌のもとへ駆け寄った。
将英「息はしている。おそらく一気に力を使い果たして気絶しているのだろう」
オレ「美月・・俊平・・・・」
春日「これ、どうするの・・・・・・?」
将英「まだ、榊原が死んだという確証が持てない、了斎、一応榊原に火をつけておいてくれないか?」
了斎「わかった」
榊原に火をつけると、激しく燃え上がった。
オレ「本部に戻るか?」
春日「一応、榊原が灰になるのを待ったほうが良いんじゃないかな」
オレ「そうだな」
信じられない。美月と俊平は死んだのか・・?
本当に・・死んでしまったのか・・・・?
晃牙「美月、首・・」
呟きながら、晃牙が美月の首を持ってきた。
了斎「美月・・・・!」
了斎は崩れ落ちて泣いた。
将英「美月・・」
晃牙「俊平、首、無かった」
オレ「そうか・・」
繭「勝ったんだよね・・?」
将英「勝敗で言うなら、オレたちの勝利だ。ただ・・」
オレ「二人の仲間を失った」
羽音「美月さん・・俊平さん・・・・」
春日「繭の時みたいにさ、生き返らせられないの?」
将英「不可能だ。二人とも欠損している部位が多すぎる。繭はまだ体が残っていたから良かったものの・・」
春日「そう・・」
燃えていく榊原の死体をただ眺めていた。
オレ「灰になったか・・」
春日「戻ろっか・・」
オレ「雷煌は・・将英が抱えてあげられるか?」
将英「ああ。大丈夫だ」
美月の首は了斎が持ち、風刃術で本部へ向かった。




