七十一話 約束
俺「宰川殿! 心配かけてすみませんでした!!」
戻ってきてすぐに頭を下げた。
宰川「清次!! よく戻ってきた」
宰川殿が俺の肩に手を乗せた。
俺「片腕は失っちまったけど・・なんとか無事だよ」
久遠「待て、片腕を失っただと?」
俺「ほら」
袖を上げて左腕を見せた。
全「えぇっ!?」
伊海「大丈夫なのですか!?」
俺「大丈夫か大丈夫じゃないかで言ったらもちろん・・大丈夫じゃねぇよ」
偶然で生えてきたりしねぇかな~。
久遠「風雅、治せるか試してくれ」
風雅「はいっす!」
おそらく断面が治るだけで、腕が生えることはないだろう。
了斎「どうだ?」
俺「予想通りだ。見てみろ」
包帯を解いた。
俺「治ったのは断面だけだな。まぁ、痛みはなくなってよかったよ」
火蓮「何故そこまで冷静で居られるんじゃ?」
俺「まだ死んでねぇからな」
翔斗「とはいえ、かなりの痛手だ」
俺「そもそも俺って、刀の腕で幹部になったわけじゃねぇしな・・術が使えればなんとでもなるさ」
春日「前向きだね~・・私だったらしばらく立ち直れないかも」
宰川「その女性は何者だ?」
俺「俺を連れ去った張本人らしいが、俺の手当もしてくれた人だ。後々役に立つんじゃねぇかと思ってな」
遙華「役に立つ、と言いますと・・?」
俺「濃霧衆と宰川軍、手を組むんだろ?」
華城「何故それを知っている?」
俺「お前と宰川殿ならそうすると思ったんだ。そもそも忍者と武士は全くの別物で、敵対しても良いことはないだろ?」
それに、千人規模の衆をこんなところでくすぶっておくのは勿体ない。
俺たちの領地をこいつらに守らせるべきだと思った。
華城「だが、手を組むことはまだ確定事項ではない。この後、長と宰川殿が話し合った上で決定される」
俺「そうか」
三分ほど待つと、将英たちが戻ってきた。
霧島「こいつが長か?」
獅電「そうだ」
アストリア「僕、場違いじゃないですか?」
俺「ああ」
アストリア「まぁ、この辺でじっとしておきますね」
宰川軍・伊海軍兵士と濃霧衆の忍者が見守る中、宰川殿と濃霧衆の長である右京の対談が始まった。
宰川「まず質問だ。俺たちとここで決着をつける気はあるか?」
右京「はぁ・・無いさ。そもそも、宰川軍と真っ向勝負で勝てると思えなかったから漁夫の利を狙ったんだ」
宰川「ここで何もせず濃霧衆を見逃す訳にはいかない。実際、こちらにも被害が出ている」
俺のことか。
右京「ああ、わかっている」
俺も何人か殺しちゃったけどな・・
宰川「しかし、こちらも濃霧衆の人間を数名殺している。こちらとしては忍者との争いに時間も力も使いたくないんだ」
右京「それで、俺たちは軍門に降るってことか?」
宰川「そうだ。降参してもらいたい。ただ、全員に役職を与え、宰川軍が管理すると約束する」
伊海「伊海軍も協力致します」
勝って領地を奪うのではなく、宰川軍が吸収する。
負けて被害を出すくらいならこの提案を受けてほしいんだが・・
右京「忍者というのはずる賢く生きる集団だ。強力な軍の懐刀として安定した活動ができるのなら、その申し出を受けよう」
国を作るとなると、武士以外の勢力も味方に付ける必要がある。
そして、宰川軍の存在は濃霧衆にとっても有力な後ろ盾となることだろう。
華城「かなり無理な提案だったが受諾してくれて感謝する」
獅電「お前の衆の奴らも良いのか?」
周りにいる忍者は何も言わず頷くだけだった。
久遠「しかし、オレたちはまだ梶田軍との戦が残ってるんだ。戦が終わるまでは変わらずここに居てもらっていいか?」
右京「わかった。それで・・その戦は勝てそうなのか?」
華城「術師団の者が現在対応しているが、まだ決着はついていないだろう。正直、我々でも勝てると断言はできない」
俺「いいや、断言する。俺たちは勝つぞ」
右京「片腕しかない者に言われてもな・・」
俺「は? お前たちのせいで失ったんだろ。殺すぞ」
雑魚千人程度なら全員殺せる。
獅電「落ち着け。感情的になるな」
手首をひねられた。
俺「痛っ・・・・・・」
強くひねり過ぎだ。
俺「それで・・遙華はどうするんだ?」
華城「清次の手当をしたと言ったな」
遙華「はい」
華城「なるほど。医学に関する知識はあるか?」
華城の求める知識が果たしてどれほどのものなのか・・
遙華「母から教わりましたので大して知識は・・」
華城「人を助ける職に付きたいと思うか?」
遙華「はい、もちろんです」
華城「今、宰川軍領地の町には医者がほとんど居ない。そこでお前に、医学を教える教育者となってもらいたい」
医者じゃなくて、か。
伊海「医者ではないのですか・・?」
華城「ああ。医学の専門知識であればいくらでも我が教える。そして、職を持たないが志の高い者たちに遙華が教えるんだ」
遙華「なるほど・・」
宰川「医者にするよりも教育者にする方が長い目で見ると利が大きいということだな」
また大胆なことを・・
俺「梶田軍の戦が終わったら、一回俺たちの領地に帰ろうぜ。状況の観察も兼ねてな」
信雄「確かに、しばらく帰ってないですもんね・・」
華城「定期的に連絡を取っているが、特に問題は起こっていないと聞いている。戻る必要はないと思うが」
宰川「いや、実際に俺たちの目で見ることで分かることもあるだろう。それに、皆も疲労が溜まっていることだろう。たまには休息も必要だ」
きた!!!!
久遠「華城も、そろそろ頭を休ませなくちゃな」
華城「我は休まない。その期間で遙華に医学知識を叩き込む」
働きすぎだ、華城。
俺「俺、そろそろお前の体が心配だよ」
華城「片腕無い奴が何言ってんだか・・」
獅電「お前ら、気が早いぞ。とにかく梶田軍とけりを付ける」
宰川「そうだな。右京、ではまた今度。協力感謝するぞ」
右京「ああ。俺たちも良い知らせを待っておくよ」
アストリア「戻りますか?」
俺「ああ」
再び俺たちは戦場に戻る。
ただ、既に時は夕方となっていた。おそらく戦場にたどり着く頃には夜となっているだろう。
美月「戦闘の再開は明日になりそうね」
華城「ああ」
宰川「総員整列!!」
隊列を組み、全員が馬に乗った。
宰川「只今より、梶田軍領地への移動を開始する! 指示がない限り決して隊列を崩すな!」
全「はっ!」
宰川「移動開始!!」
アストリア「まぁ、先導するの僕なんですけどね・・」
そういう事は言わんでよろしい!
何も起こらないまま戦場へ舞い戻ってきた。
俺「夜だな」
雷煌「夜ですね」
蒼月「夜でござるな・・」
華城「ストーンハートは?」
アストリア「まだ戦っているみたいです」
宰川「笛を鳴らそう」
俺たちは笛を鳴らし、ストーンハートの帰還を待った。
剛斗「おい! 暗くて何も見えねぇ!!!!」
火蓮「うるさい。妾が今からつけるから・・」
火蓮が彩色炎で数本の松明を作り、辺りを照らした。
俺「彩色炎って、普通の炎よりも明るいんだな」
火蓮「そうじゃ。それに、綺麗じゃろ?」
俺「まぁ・・結構な」
霧島「いまこっちに来てんのは誰だ? やけに図体がでけぇけど」
アストリア「副団長で間違いないですね」
実は、ストーンハートは将英よりも大きい。
ストーンハート「よう、無事に戻ってこれたみたいだな」
俺「ああ、お陰様で」
久遠「そっちで死者は居るか?」
ストーンハート「ゼロだ」
翔斗「ぜろって何だ」
アストリア「一人も死者は居なかったということです」
霧島「便利な言葉もあるもんだな」
宰川「どれくらい敵を倒した?」
ストーンハート「まぁ・・概算だが、少なくとも五百人は超えているだろう」
一日で五百・・・・?
春日「すご!」
ストーンハート「ただ、四天王とは戦っていない。お前ら、四天王は直接落とし前を付けたいだろ」
俺「ああ」
霧島「清次、まさかお前・・一人で忠勝とやり合うつもりじゃねぇだろうな? しかもその状態で」
俺「いや、俺は一人で」
獅電「駄目だ」
俺「一人で・・」
獅電「駄目だと言ったら駄目だ。俺がやる」
華城「清次、おそらく梶田軍で最も強いのは忠勝だ。最も厄介なのは榊原だと思うが・・不完全な状態で忠勝と戦うのは得策とは言えない」
久遠「清次の気持ちもよく分かる。決着の寸前で阻止されたのはかなり悔しいだろう、でも・・」
獅電「お前、真栄田みたいになっちまうぞ」
俺「はっ・・」
獅電「アイツほど報われないやつを俺は知らない。結局、生きてさえいれば勝ちなんだ。納得のいかない形で戦いが終わろうとな」
豊「ワシが忠勝と戦う」
俺「豊さんが?」
豊「そろそろ、ワシも限界が来ておるんじゃ。最前線で戦えなくなってしもうたら、ワシはただの老いぼれじゃ。それじゃ皆に迷惑をかけてしまうからのう、最期に一花咲かせたいんじゃよ」
春日「駄目だよ! 皆豊さんを頼りに・・」
豊「それは嬉しいことなんじゃが・・そろそろ、お主らも自分で道を切り開いていく頃合いじゃ。ワシのような古い考えに毒されてはいかん」
豊さん・・
華城「現役を引退するということか?」
豊「もしワシが忠勝に負けた場合は、獅電、頼むぞ。そして、もしワシが忠勝に勝ったら前線から退く」
獅電「・・了解した」
伊海「現役最後の戦、後悔の残らないようにしてくださいね」
豊「もちろんじゃ」
俺「その戦い、俺にも見させてくれ」
宰川「絶対に戦いに参加しないのなら許可しよう」
霧島「今の清次を一人で放っておくのは危ねぇし、俺もついてくよ」
獅電「勿論、俺も同行する」
豊さんを勝たせてやりたいが、今の俺には何も出来ない。
忠勝に俺の術は通用しないとわかってるしな・・
美咲「とりあえず、ご飯にしない?」
蒼月「そうでござるな」
翔斗「かなり暗いが、大丈夫なのか?」
火蓮「妾が松明を持って立っておこう」
簡素な夕飯を済ませ、俺たちは寝床についた。
了斎「清次、本当に一人で忠勝と戦うつもりだったのか?」
俺「ああ」
了斎「命知らずなのは昔から変わらないか・・」




