六十五話 信じる
俺「ふぁ~・・・・・・」
朝だ。
ていうか、天気悪っ!!
土砂降りだ。久遠さんに天気を変えてもらおうと思ったが、まだ寝ていたのでやめておいた。
祭典からしばらく経ち、時は既に二月だ。一番寒い時期じゃないか・・・・
イサベル「あれ、起きてたんだ。ウチいつも起きるの早いから朝一人ぼっちなんだよね~」
俺「へぇー。俺も結構早起きっすよ」
イサベル「なんで?」
なんでって何?
俺「家がなかった頃は早く起きないと危なかったから」
イサベル「へぇ~。武士って皆苦労してんだね」
俺「術師は苦労してないのか?」
イサベル「してないとは言わないけど・・平均的な生活のレベルは高いと思うし、汚れることも少ないからね」
術師はたまによく分からない言葉を使うな・・
俺「へぇー。ていうか、服濡れすぎてるけど大丈夫か?」
イサベル「あんたこそ大丈夫?」
俺「俺は男だから良いんだよ」
イサベル「ウチもおばさんだから良いよ」
俺「いくつなんだ?」
イサベル「失礼だなぁ・・三十六歳だよ」
俺「宰川殿より一つ歳下か。まあ・・おばさんか」
イサベル「そうだよ」
怒らないのか。
イサベル「あんたもそうだけど、最近の強い武士って術を使うんでしょ? そしたらもう術師とあまり変わらないはずなのに、どうして武士にこだわるの?」
俺「知らん。俺は武士に拾ってもらったから武士をやってるだけで元々武士をやりたかった訳ではない」
イサベル「でも、今は武士に誇りを持ってるわけでしょ?」
俺「自覚とか誇りって、後から生まれてくるもんなんじゃねぇか? 武士になる前から武士として誇りを持ってるやつなんてそうそう居ないだろ」
イサベル「そうかー。若いのに案外しっかりしてんだね」
俺「初めて言われたよ」
イサベル「そう?」
俺「俺いつもふざけてばっかだからさ。変なやつだと思われてんだ」
イサベル「良いじゃん。そういうひょうきん者も大切だよ」
俺「ひょうきん者はアイツだけで十分だよ・・・・」
すると、剛斗が起き上がって俺の方を向いた。
剛斗「今、オレの話してたか!?」
俺「ほら。ひょうきん者だろ」
イサベル「そうだね・・・・剛斗はしっかりしてるの?」
俺「してる訳無いだろ」
剛斗「何だその言い方!!!」
俺「でも、悪いやつじゃねぇんだ。仲間思いだしな」
イサベル「いい仲間に囲まれてるじゃん」
俺「そうかもな」
その後も二人での雑談は続き、やがて皆が起き始めた。
久遠「おはよう、清次」
俺「早く晴れにしてくれよ」
久遠「そうだな・・」
久遠さんが辺りを晴れにしてくれた。
そのうち服も乾くはずだ。
霧島「イサベルと二人で喋ってたのか? いやらしいなお前」
俺「はぁ? こんなおばさんに欲情するほど俺も馬鹿じゃねぇぞ」
信雄「最低です」
頭を思い切り引っ叩かれた。
今のは俺が悪いな。
俺「本当にごめん」
イサベル「やっぱりあんたは仲間に恵まれてるねー」
怒らないのか・・・・・・
蒼月「豪の皆が朝ご飯を作ってくれたでござる。食べるでござるよ」
俺「おう! ありがとう!」
皆が朝飯を食べ終わり、術師団の動き方についての作戦を立てることになった。
久遠「梶田軍はとにかく術に対しての耐性が強い。術師の攻撃が通用するか怪しいが・・」
華城「では、万が一術が効かなかった場合のために武士をつける。一人の武士に対して三人の術師でまとまって行動しろ」
俺「それだと一人余らないか?」
華城「イサベルは一人で大丈夫だろ」
俺「なるほど」
了斎「清次、本当に一人で忠勝と戦うのか?」
俺「当たり前だ。逃がしたまま終わることは出来ねぇ」
了斎「わしも同行する」
俺「はぁ? 何でわざわざ危ない道を選ぶんだよ」
了斎「その言葉、そのままお前に返す。危ない道ばかり選ぶ清次を守るためにわしは生まれてきた」
俺「そんな大袈裟な・・」
了斎「お前の母にも言われたことがある。『清次は馬鹿だけど決して引き下がらないからすぐに危険な状況に身を置くけど、了斎が居たら大丈夫ね』と」
母さん、何余計なこと言ってくれてんだ・・
俺「はぁ・・わかったよ。絶対に死ぬなよ」
了斎「清次も死ぬんじゃないぞ」
宰川「清次たちは二人でいいな?」
俺・了斎「ああ」
華城「それ以外は昨日と同じでいいか? 火蓮はまた豪の武士の補助となってしまうが」
火蓮「構わん。大丈夫じゃ」
獅電「お前ら、支度は済ませたな? 行くぞ」
馬で再び梶田軍の根城へ向かった。
*
戦場まで戻ってきた。
術師が入る分昨日よりも楽だろうけど・・四天王が三人も残っている。
そして、忠次の死もきっと梶田軍全体に伝わっているはず。
今日はより一層敵の殺意が高まっているかもしれないね・・
伊海軍幹部「今日も俺たちは護衛につかなくて宜しいのですか?」
私「大丈夫。今日は晃牙様が私の護衛に付いてくれるから心配しないで」
伊海軍幹部「承知致しました。晃牙様が付いてくれるなら私たちも安心です。殿も晃牙様もお気をつけて!」
皆が敵陣へ走っていった。
イサベル「伊海さんだっけ? ちょっとこっちに来てもらえない?」
私「いかがなさいましたか?」
イサベル「ちょっと話したいことがあって」
私「承知致しました」
イサベル「周りに誰も居ない所で話したかったんだ」
私「晃牙様は良いのですか?」
イサベル「一人くらいなら大丈夫。で、さっそく本題に入るんだけど・・」
私に個人的な話・・?何かしたっけな・・
イサベル「伊海軍はまだ宰川軍と同盟を結んで長くないでしょ? だったら、術師団と手を組んでほしいんだ」
どういうこと・・?
確かに数ヶ月しか経っていないけれど、術師団と組む理由にはならない。
そもそも、不可侵条約を結んでいるのに手を組んで何をするつもりなの?
私「手を組むとは具体的にどういったことでしょうか?」
晃牙「聞かなくて、いい」
私「私も手を組むつもりはありませんが、気になるのです」
晃牙「裏切り者」
晃牙様の言っていることは正しいと思う。でも、私はギリギリまで人のことを信じたい。
イサベル「だから、星武の乱なんて面倒なことせずに終わらせちゃおうよってこと」
つまり・・ここで、宰川軍を倒すってこと?
いやいや、無理じゃないかな・・
私「そんなことは出来ないですし、私はする気ありません」
イサベル「そう言わずに・・ね?」
晃牙「もういい」
晃牙が刀を抜いた。
イサベル「ちょっと、気が早いよ」
私「私が宰川軍を裏切ることも、術師団に加担することもありません」
イサベル「でも・・宰川軍に勝機なんて無いでしょ? だったら勝ちそうな術師団に早いこと入っておいた方が得策だと思わない?」
私「思いません。簡単に裏切りの提案をする人が所属する団体になど入る気はありません」
イサベル「へぇ、やっぱり武士って馬鹿なんだね」
私「馬鹿でも構いませんよ。私は勝利よりも信じることを大切にします」
イサベル「勝ててるうちはそう言えるかもしれないけど・・負けた後、やっぱり提案を受けるとか掌返ししても入れないからね?」
私「大いに結構です」
晃牙「裏切り者。殺す」
私「待ってください! ここで殺すと、不可侵条約を破ってしまうことになります」
華城「伊海殿も中々頭の切れるお方だな」
華城様・・ずっと会話を聞いていたのかしら?
私「居たのですか!?」
華城「伊海殿とイサベルの会話であれば重要なものに違いないと思い、盗み聞きさせてもらっていた」
本当に隙がないね・・・・
イサベル「酷いやつだね」
華城「きっと、イサベルは裏切りの提案を拒否されるとわかっていた。だが、そこで怒って誰かが攻撃をしてきたら不可侵条約を破棄したとして宰川軍を潰すことが出来るだろ? だから無理とわかっている提案をしてきたんだ」
私「なるほど・・ここで攻撃をしてしまうと相手の思うつぼということですね」
晃牙「危ない、俺、止める・・くれて、ありがと」
私「大丈夫ですよ」
イサベル「はぁ・・そこまで分かってたとはね。もう良いよ、ここで私が全部終わらせるから!!」
イサベルが杖を取り出した。
まずい、自ら条約を破って攻撃する気だ・・・・!!
アストリア「ストップ!!!」




