六十四話 味方か。
俺「わかった。蒼月! 繭から話だ。今日の調理は豪に任せてこっちに来い」
蒼月「わかったでござる!」
豪の武士に指示をしてから、蒼月がこちらへ戻ってきた。
羽音「私が教えられることはすべて繭に教えた。その上での繭の判断を皆に聞いて欲しい・・かな」
羽音が遠慮する必要はないのだが・・
俺たちは元々繭の判断を尊重するつもりだ。
俺「わかった。繭、もう分かってるかもしれんが改めて自己紹介させてもらう。俺は宰川軍大将、宰川上午だ」
繭「ああ、聞いてるよ」
清次「そんで・・これから繭はどうするんだ?」
繭「・・正直、わたくしもまだ迷ってるんだが、とりあえず今は宰川軍を信じることにするよ。ここを離れてもわたくしの居場所は無いだろうし」
まだ一人称は定まっていないか。
俺「そうか! まず、決断をしてくれた繭に心から感謝する。何も分かっていない状況で困惑しているかもしれんが、俺たちを信じてくれてありがとう」
清次「宰川軍に残るのは良いんだけどさ、今の繭って術使えんのか?」
確かに、記憶を失っているのなら術の使い方を忘れている可能性もある。
華城「繭、全身に力を入れて、自分の体から何かを出そうとしてみてくれないか?」
信雄「華城さん、その言い方だと・・」
清次「排便みたいな言い方じゃねぇかよ」
信雄がせっかく濁して伝えてくれたのにな・・
華城「だが、これ以外の伝え方が分からない」
繭「こうか・・?」
すると、繭の周りに幻影が生まれた。
清次「使えてるじゃねぇか!!」
華城「なるほど。術の扱いは体が覚えているようだな」
それほど体に染み付いているのか。
俺「術以外の戦闘技術はどうだ?」
久遠「雷煌、この刀で繭と模擬戦をしてみろ」
雷煌「木刀ですか? 術なしだと僕、弱いですけど・・」
久遠「今の繭には丁度いい。さぁ繭、この木刀を使え」
繭「わかった。俺が死ぬ前に止めてくれよ」
久遠「もちろんだ」
華城が笛を鳴らすと、二人の模擬戦が始まった。
羽音「繭ー! 頑張ってー!!」
火蓮「雷煌、負けるなよ・・!」
二人の戦いはしばらく続いた。
すると、雷煌の首に繭の刀が当たった。
久遠「やめ!!!」
清次「最後、力抜いちまったなー繭」
繭「本気で当てるのは怖くて」
雷煌「負けちゃった・・!」
了斎「いい勝負だったぞ。見た感じ、繭の強さは健在だな」
繭「そうか・・?」
記憶喪失前と遜色ない戦いぶりだった。
やはり心配なのは経験からくる判断力だ。
今の状態で繭を戦場に出すのはかなり危険だ。
俺「明日、繭は戦闘に参加するか?」
春日「それはやめたほうが良いんじゃない? 危ないよ」
繭「いや、参加する。ここで戦わなければいつまでもわたくしは戦場に立てない気がするんだ」
華城「わかった。だが単騎行動は厳禁だ。的確な指示を出せる者と行動しろ」
羽音「了斎さん・・よろしいですか?」
了斎「わし!?」
意外な人選だが・・
美月「確かに、了斎が間違った指示を出してるのは見たこと無いわね」
了斎「わしは指示をほとんど出さないからな・・」
清次「まぁ、お前でいいだろ。お前優しいし良いと思うぞ」
了斎「何だよ急に優しいとか・・」
霧島「何照れてんだお前」
とりあえず、繭には少しずつ記憶を取り戻してもらおう。
今焦って思い出させようとしても良いことがない。
蒼月「拙者はご飯を作ってくるでござるよ~」
本当にいつものんびりしてるな。
戦場との差が激しくていつも驚かされる。
*
俺「繭が『全員殺す』とか言い出さなくてよかったよ・・」
翔斗「お前は繭を何だと思っているんだ」
俺「友達」
翔斗「おう・・」
何でお前が引いてんだ。
火蓮「雷煌、いつまで凹んでおるんじゃ」
雷煌「いや、術がないと本当に僕って弱いんだなと思って・・」
華城「我は別にお前を励ましたい訳では無いが、雷煌が繭に勝てないのは普通に考えて当たり前だ」
俺「そうだぞ。雷煌は片目しかないし、年齢もすげぇ離れてるし・・」
雷煌「気を使わなくていいですよ」
華城「言っただろ。我は別にお前を励ましたくはない」
俺「言い方!」
華城「間違ってないだろ」
俺「間違ってるかどうかだけが大事じゃないの!」
華城「・・・・ごめん」
謝られると俺が申し訳なくなっちゃうな。
雷煌「気にしないでください!」
将英「仲直りしたか?」
俺「別に喧嘩をしてた訳じゃないけど・・」
イサベル「宰川軍、結構苦戦してるみたいじゃん?」
全「イサベル!?!?」
何でここにイサベルがいるんだ?
ていうか・・なんで誰も気づかなかった・・!?
獅電「おい、星武の乱を始めるには早いんじゃないか? 天下統一までは待つという約束のはずだ」
その通りだ!
イサベル「えー、助けに来たのに心外だなー。『戦が長引いてる上に、不審な者が戦場に存在してる』ってアストリアが言ってたから来たんだよ?」
ここにきて共闘の申し出か?
華城「ここで星界術師団が我らに手を貸す意味は何だ?」
イサベル「ウチら、梶田軍が大嫌いなんだよねー」
そういえば、星武の乱で主に戦ったのは梶田軍だったっけ。
獅電「そんな幼稚な理由でここまで来たのか」
イサベル「別に私怨だけで来たわけじゃないよ。ここで宰川軍が全滅しちゃったら面白くないじゃん。ドラマを生むために助けに来たんだよ」
久遠「何を言ってるのか分からんが・・宰川殿、どうする?」
宰川「一緒に飯を食って決める」
確かに、もう少し軽い空気で話をしてみたい。
イサベル「食べさせてくれるの? ラッキー!」
口にはしてなかったけど、イサベルって結構年上だよな・・
明るさ的には俺たちと変わらないんだけど、実際は宰川殿に近い歳な気がする。
って・・失礼だな。こんなこと考えるの。
イサベル「今日は調査隊の皆で来たんだけど、ご飯足りる?」
調理中の蒼月の顔を覗き込んでいった。
蒼月「誰でござる!?」
そりゃあそうなるよ。
霧島「星界術師団が助けに来たってよー」
蒼月「そうでござるか・・何人で来たでござるか?」
イサベル「ウチ含めて十人!」
蒼月「足りないでござるな・・」
イサベル「じゃあ、今日は調査隊員飯抜きで!」
調査隊員「え~?」
皆から不満の声が上がる。
イサベル「あ? 何が不満だ? 言ってみろよ」
猛獣のような顔でイサベルが調査隊員に近づいていく。
調査隊員「いえ、何も・・」
イサベル「普段からタダ飯食わせてもらってんだからさ・・こんなとこで文句言ってんじゃねぇぞ?」
獅電「その辺にしておけ」
蒼月「ご飯、出来たでござるよ!」
その一言で張り詰めていた空気が一気に和らいだ。
俺「よーし! 早く食べようぜ!」
今日は疲れたな~・・明日はもう少し楽だと良いんだけど。
だめだ、忠勝に勝たないといけねぇんだ・・一人でな。
イサベル「美味しそう!」
なんか馴染んでるな・・・・
豪の武士が配膳し、調査隊員以外の全員のもとに食事が届いた。
全「いただきまーす!」
雷煌「あの・・これ、食べていいですよ」
雷煌が調査隊員に少し飯を分けた。
調査隊員「良いのか!? ありがたく頂くぞ!!」
イサベル「ちょっと! 甘やかさないでよ!」
俺「これ、食っていいぞ」
別の隊員に具をいくつかあげた。
調査隊員「ありがとうございます!」
霧島「これ食えよ。どうせ俺食わねぇし」
結局、調査隊員も全員ご飯を食べることが出来た。
イサベル「何勝手なことしてんの・・」
伊海「食事は人数が多ければ多いほど楽しいのですよ」
風雅「良いこと言うっすね」
飯を咀嚼しながら言った。
絶対に思ってないだろうな。
俺「それで、星界術師団の調査隊は強いのか? こないだの望全って奴は強くなかったらしいけど」
イサベル「アイツは下っ端だったから。ウチらは強いよ! なんてったって術師団上層部のウチが率いてるんだから」
俺「へぇ~。頼もしい限りだな」
イサベル「思ってないでしょ」
俺「うん」
戦ってないから何とも言えないが、俺たちの方が強い気がしている。
繭「武士って、こんなに緩い空気でやってるのか?」
宰川「俺たちが特殊なだけだ。普通はもっと緊張感を持っているだろうな」
繭「どうして宰川軍は緩いんだ?」
あまり考えてこなかったが、確かに不思議だ。
宰川殿が過度に慕われることを嫌うことは知っているが、もう少し上下関係を作ったほうが良い気もする。
宰川「俺は自分を信じている。それ以上に、自分の家臣を信じている。俺が選んだ家臣であり、俺が決めた幹部だ。俺が選んでいるのなら信用できる、そう思っている」
俺「つまり?」
宰川「できれば対等にやっていきたい。気を使いすぎると不満が募る上に俺もやりづらい。良いことがないだろ? だからお前らが何を言おうと俺は怒らない」
獅電「臭いことを言うな。お前の性格上こうなってるだけだろ」
獅電さんは宰川殿にも厳しいな。
宰川「ま、まぁ・・それが真実だ」
獅電「良くも悪くも宰川は普通の人間だ。突飛な発想をする訳でも、華城のような脳みそがあるわけでもない。でもコイツは優しいんだ」
イサベル「よくわかんないけど、優しければそれで良いんじゃない? ウチの団長は副団長より弱いけど、別に何とも思わないよ」
伊海「私も我が軍の幹部より数倍弱いですが、皆様、私を信頼してくれています。大将に必要なのはきっと実力ではありません。宰川殿の真の強みは、その人を引き寄せる人間性なのではないでしょうか」
豊「そうじゃな。真栄田然り人に好かれる奴は器の大きい奴じゃった」
宰川「あんたに言われると何だか照れくさいな」
雰囲気が明るくなった所で、俺たちは飯を食い終わった。
久遠「眠いからもう寝よう」
俺「だな~」
美咲「じゃあ、火消すよ」
イサベル「おやすみー」




