二十話 会議
会議室にきた。
久遠「では、幹部の者は幹部の席に。真栄田は来賓の席に座ってくれ」
全員座ったとしてもかなり空席があるのを見ると、幹部が減ったのを実感する。
久遠「では、真栄田軍と宰川軍の持っているすべての情報を交換する」
真栄田「ハハ、良いだろう。まず何について知りたいんだ?」
真栄田は全てを開示するつもりのようだった。
華城「我から聞きたいことがある。まず、真栄田軍に入る条件は何だ? 宰川軍はしばらくの間候補生として鍛練を積み、試験に合格することで初めて武士として軍に入ることが出来るんだが」
俺たちは特例として試験を飛ばして軍に入ることが認められたがな。
真栄田「吾輩の軍は『軍に入りたい』と思うやつを全員そのまま入れてるぜ! 兵士は質よりも量だ」
質より量、か・・
華城「なるほど。宰川殿と真栄田は根本的に考え方が異なっているということか。真栄田に比べて宰川殿は堅実な考えをする方だ」
俺「そういえば、山河軍と戦った時、幹部以外は雑魚ばっかだったよな」
術を使うまでもないような敵が多かった気がする。
獅電「きっと、山河軍も候補生という制度を設けていないんだろ」
久遠「だから兵士の質が低いってことか。正直、術があれば質の低い兵士なんて相手にならない。鍛練を積ませたほうが良いのではないか?」
真栄田「吾輩は自分の決めたことは曲げない。弱い兵士には幹部を守る肉壁となってもらえたら十分だ」
極端な考え方だな・・まあ、真栄田のやり方も理解できなくはないが。
華城「そうか」
とりあえず、根本的な部分が違うということがわかった。
真栄田「吾輩は与根川軍についての情報がない。戦うとなると、ある程度の情報は欲しいんだ。宰川軍は何か与根川軍について知っているか?」
名前しか聞いたことのない軍だ。俺もできれば知っておきたいな・・
華城「ああ。知っていることを話そう」
ほとんど、華城と真栄田の対談になっている。円滑に話が進むから良いのだが。
華城「与根川軍総大将。その名を『与根川太一』という。二十六という若さにして北東の一帯を支配している実力者だ。そして、奴らの最大の特徴は『美しさ』を追求しているところだろう」
美しさだって?
武士に美しさを求めるなんて、ただの間抜けとしか思えない。
霧島「どういうことだ?」
久遠「軍を一言で表すと、宰川軍は『柔』、真栄田軍は『剛』。山河軍は『武』、与根川軍は『技』といったところだろうか。あいつらは『武士道』といった泥臭いものを重んじておらず、いかに鮮やかに敵を葬るかを大切にしている」
汗水流さずに敵を殺すということか。
本当にそんなやり方で勝てるのか?そいつらは。
真栄田「なるほど・・正面衝突は辞めた方がいいってことだな?」
確かに、正面衝突をするならば与根川軍が対策をしてくるはずだ。
華城「話がわかるやつだな。あいつは常に敵を欺くことを考えているから、罠をかなり仕掛けてくるだろう」
真栄田「では、奇襲をかけるのはどうだ?」
久遠「待て、今は戦の作戦について話す時間じゃない。とりあえずこの話は後回しだ」
久遠さんが止めに入った。
華城「すまん、では情報交換はここで終わりにしよう。次は幹部候補の面接だ。真栄田は一度広間に戻っていろ」
「わかったよ」といいながら真栄田が会議室を出ていった。
少し休憩時間となった。
了斎「華城、お前はなんでそんなに情報を持ってるんだ?」
華城「皆がぼけっとしている時間に我はずっと調査員の報告書を読み漁っている。ただそれだけだ」
俺「確かに、華城ってずっと何かを読んでるよな・・あんなの読んで何が面白いんだ?」
縁側に座って植物を眺めている方がよっぽど楽しいんだが。
華城「別に面白くなどない。ただ、しっかり情報を頭に入れておかないとお前らみたいな世間知らずはすぐに死ぬ。我が代わりにお前らの分の情報を集めているんだ」
今日はやたらとツンツンしてるな・・
翔斗「優しいんだか優しくないんだか・・」
霧島「照れ屋なだけだよ。華城は」
霧島がぼそっと言った。
霧島「照れ屋は霧島も同じだろ」
火蓮「今、華城が照れ屋だって認めたのか!?」
火蓮が追い打ちをかけた。
久遠「さあ、そろそろ始めるぞ」
話を遮って言った。
霧島「一人ずつ面接をするのか?」
久遠「その方が良い。一気にやると一人にかける時間が減ってしまう」
確かに、四人だけならちゃんと時間をかけても良さそうだ。
凄く怯えながら一人目の少年が入ってきた。無理もないだろう。この会議室には候補者を除いて十二人も幹部がいる。それどころか、大将の宰川殿もいる。緊張するのは当然か・・
少年「よ、よろしくお願いします」
ガチガチになって言った。
久遠「ああ、よろしく。座っていいぞ」
柔らかい口調で言うが、逆に圧を感じてしまいそうだ。
少年「はい」
このままではこの子が幹部になったとしてもあまり親密になれない。なんとか緊張をほぐすことは出来ないか・・・・?
宰川「誰かが隣に座った方が話しやすいんじゃないか? 一人だと心細いだろ」
久遠「では、清次に座ってもらおう」
俺「なんで俺!?」
久遠「お前が言い始めたんだぞ。そういうならお前が座ってやれ」
久遠さん、知ってるはずだろ・・?
歳下に優しくするのが苦手なんだよ俺は!!!!
少年「フッ・・・・」
候補者の子が吹き出した。
俺「お前まで笑って・・・・・・」
思っていた形と違ったが、候補者の緊張がほぐれたのなら良いだろう。
華城「じゃあ、気持ちを切り替えて始めるぞ。清次もあまりふざけないように」
俺「だから俺はふざけてないんだって・・・・」
宰川「まず、自己紹介を頼む」
少年「僕は信雄と言います。小さな農村で育ちました。直近の山河軍との戦では八十人ほどの手柄です」
雷煌と同じく年少者だが、雰囲気が少し違う。
信雄のほうが若干落ち着いているか。
華城「信雄か、わかった。使用術の前に聞きたいんだが、頭についてる花は何だ?」
真っ先に言ったか。
信雄の頭には一輪の花があった。生えているのか、付けているのかは不明だ。
信雄「僕は『植物操作』の術を使うのですが、その術を使えるようになったときから生えてるんです」
使用術が身体的特徴に直接現れるのはかなり珍しい。
というか、今までに見たことがない。
了斎「それは抜いたらどうなるんだ?」
さらっととんでもない質問をしたな。
信雄「何度か抜いたことがあるんですが・・すぐにまた生えるんです」
信雄が花を抜くと、別の色の花が頭から生えてきた。
というか、躊躇なく抜くんだな・・
雷煌「色が変わった!」
無邪気に雷煌がはしゃいでいる。
信雄「そうなんです。なのでもう諦めて生やしたままにしてます」
まあ、綺麗だし似合っているので良い気もする。
宰川「そうか。そして、使用術は植物操作といったな?」
信雄「はい。植物を操ったり、樹木を生やすことが出来ます」
樹木を生やす・・!?
了斎「植物操作って霧島も持っていたよな」
霧島「ああ。でも俺の植物操作は既存のものを多少操ることが出来る程度だ。樹木を生やすなんて出来ない」
霧島にとって植物操作はおまけのようなものだしな・・霧だけで役割としては十分と言えるほど、霧の汎用性が高い。
獅電「敵の足元に樹木を生やすということも出来るか?」
信雄「はい。主な攻撃手段です」
樹木の大きさにもよるが、無から物体を生み出すことが出来る術は例外なく強い。
自分で言うのもなんだが、土で針を生み出すなんてのはその最たる例だ。
宰川「大体の人間はそれで殺せるって訳だな。樹木を生やすというのも唯一性が高い」
既に宰川殿からの評価は高そうだ。
信雄「ありがとうございます」
了斎は「ちなみに、地割れは起こせたりしないか?」
にやにやしながら聞いた。
俺「おい、それを聞いて何の意味があるんだ!」
信雄「使えないです」
きょとんとした顔で言った。
俺「そりゃあそうだろ。俺の立場をなくそうとするなよ!」
意地悪な質問をしやがって・・
信雄「地割れを起こせるんですか?」
信雄は興味津々だった。
俺「そうだよ。でもまだ使いこなせているとは言えないんだ。派生した使い方も少ししか知らないからね」
適当に答えておいた。別に使いこなせてるけどな!
信雄「そうなんですね」
信雄は媚びている感じがなくて好感が持てる。
宰川「合格!!!!」
話を遮って言った。
俺・了斎・久遠「早!」
宰川「今回は実力よりも人間性を重視する。信雄は受け答えも丁寧だから問題ない。幹部に入ってもらおう」
久遠「おいおい・・そんな緩くて良いのか?」
流石に久遠さんも疑問を持ったようだ。
華城「山河軍との戦で八十人殺してるんだ。実力も申し分ない」
久遠「まあ、そうだが・・」
久遠さんが劣勢なのは珍しくて面白いな。
俺「とりあえず君は合格だよ。今日の夜に幹部の会議があるから君も参加してね」
小さな声で信雄に言っておいた。
信雄「は、はい」
宰川「では、広間に戻って良いぞ」
笑顔で信雄は戻っていった。可愛らしいやつだ。霧島と違って生意気じゃない。
獅電「次の者を呼んでこよう」
そう言って獅電さんが離席した。
久遠「清次、お前はずっと候補者の隣だ」
立ち上がろうとしたら言われた。
俺「なんでだよ!」
もう良いだろ・・せめて人を変えるとか、無いのか?
剛斗「当たり前だ!! 一人だけなんて不公平だろ!!!」
剛斗が爆笑した。なんなんだコイツ・・
美月「でも、結構いい感じだったわよ? いいお兄さんって感じ」と
適当なこと言いやがって・・
獅電「次の者が来た。清次、あまりふざけないように」
戸を開けながら言った。
俺「獅電さんまで言い出したらおしまいだろ!」
多勢に無勢とはまさにこのことである。
霧島「清次。獅電さんも言ってるということは、そういうことだ。わかったな」
悪い顔で言ってきた。
なんで俺がそんなに言われなきゃいけないんだ・・
青年「失礼するでござる」
身長の高い青年が入ってきた。俺よりも歳上かな?
久遠「これまた変わった雰囲気のやつだな・・」
あまり初っ端からそういう事は言わない方がいい。
青年「はは、拙者はしばらく流浪していたから普通の武士とは違うかもしれないでござるな」
話しているだけで優しさが滲み出ている。
霧島「流浪って・・・・何をして暮らしてたんだ?」
青年「色々な町や村を渡り歩き、面倒事を解決して・・もらったお礼で暮らしていたでござるよ」
華城「そうなのか・・面倒事ってどんなのだ?」
青年「それは・・ご想像にお任せするでござるよ」
良くないこともしてたんだろうな。
俺と同じだ。
宰川「そうか。名前は?」
青年「蒼月でござる。小さな村で育ち、村長に武芸を教えていただいたでござるよ」
村育ちなのも、この優しい雰囲気に関係している気がする。
宰川「なるほど・・術は使えるか?」
使えないはずがないが、聞いたか。
蒼月「風雷術というものを使えるでござるよ」
久遠「風雷術・・将英と雷煌の中間か?」
久遠さんはいつも安直過ぎる。何でもかんでも名前で・・
将英「風の刃を飛ばすことが出来るか?」
前のめりすぎる。
雷煌「刀に雷を纏わせることは出来ますか?」
前のめりすぎる。
二人とも落ち着けよ・・・・立場がなくなる恐れは別にないだろ。
蒼月「どちらも出来ないでござる。小さな落雷と、風の流れを感じることで人の動きを感じ取ることはできるでござるよ」
人の動きを感じ取る?
敵の行動が分かるのか?
宰川「なるほど・・落雷の威力は具体的にどのくらいだ?」
蒼月「円の直径でいうと四尺ほどでござるな。そして、視野に入っている場所にしか落とすことが出来ないでござるよ」
まあ、範囲は小さいか。
久遠「なるほど。やはり山河の天雷に比べると小さいか」
比較対象がおかしい。
蒼月「そうでござるな・・山河殿には一度会ったことがあるでござるが、軽く見ただけでも別格だったでござるよ」
何で会ったことあるんだよ。
華城「山河の天雷による落雷の範囲は直径で三丈ほど。数十人を一度に葬ることも不可能ではない」
俺「そんで、山河は目に見えないところにも落とせんだろ? 一体この差は何なんだ・・・・」
山河の術は理不尽だ。
宰川「才能としか言えんな。清次の地割れも本気であれば直径六丈、これが才能だ。仕方ない」
急に褒められちゃったな、俺。
蒼月「清次殿は凄いでござるな・・拙者ごときが幹部になってはいけない気がするでござるよ」
謙虚な人だ。
俺「俺のことは呼び捨てで良いよ。蒼月さん歳上の方が歳上でしょ」
蒼月「そ、そうでござるか・・・・」
宰川「話が脱線しているが、大体はわかった。蒼月も幹部に入ってもらう」
獅電「賛成だ」
蒼月「良いのでござるか?」
久遠「ああ。では広間に戻れ。夜に幹部による会議がある。蒼月も参加してもらうぞ」
蒼月さんは笑顔で頷き、会議室を出ていった。
霧島「まだ半分か。話を聞き疲れたぞ・・・・」
霧島がため息をついた。
宰川「一度休憩するか? 皆も疲れてきただろう」
了斎「おう! やっぱり宰川殿は話がわかるな~」
ごまをするな。
久遠「では十五時までを休憩時間とする。それまでは間食をとるなり寝るなり自由にしてくれ」
やっと休めるな・・
雷煌「はい!」
俺「よし」
将英「了解」
皆が別の部屋に散っていった。
俺は特にすることがないので床に寝転んだ。
翔斗「清次、だらけすぎだ」
部屋に残っている翔斗が言った。
俺「畳のほうが布団よりも落ち着くんだ」
何でなんだろうな。
翔斗「それはわかるが・・ここはお前の家じゃないんだぞ」
まったく、正論ばかり言って・・
俺「お、家ができたら寝転び放題ってわけか!」
火蓮「そうじゃが、踏まれても文句は言えぬぞ?」
最近、火蓮も意地悪なことを言ってくる。
俺「火蓮は軽いからまだ良い。剛斗・将英・翔斗に踏まれたら俺は死んじまうぞ・・・・」
内蔵が潰れる気すらしてくる。
駄目だ、考えただけでヒヤッとする。
火蓮「似た名前の三人じゃな・・」
と笑った。
俺「だよな。俺も宿舎に入りたての時何度も間違えたよ」
紛らわしいんだよな・・
翔斗「おいらのことを将英って何度も言ってたな」
俺「そうなんだよ・・困ったもんだ」
二人が笑った。
久遠「なぁ、正直十人もいたら仲の悪い人もいるんじゃないか? それが不安なんだが」
三人で話していると、久遠さんが心配そうに聞いてきた。
仲の悪い組み合わせ・・考えたこともなかった。
翔斗「仲の悪い人か・・・・居ないんじゃないか?」
火蓮「そうじゃな・・・・将英は口数こそ少ないが、妾たちの会話を聞いてずっと微笑んでおる」
久遠「凄いな・・大切にしろよ、その関係性」
同期の皆がいる生活が当たり前になって忘れていた。
俺は生まれてからずっと了斎以外の友達がいなかったな・・
というか、自分から引き離していた。馴れ合いは嫌いだったし、この戦国の世に純粋な友情なんて存在しないと思っていた。いや、存在してはいけないと思っていた。
人に気を許すと、そこに漬け込まれる可能性がある。気が緩んで鈍感になる可能性がある。
そうやって俺は悪いことばかりに目を向けて、了斎以外には排他的な態度をとっていた。宿舎に入る直前までその考えは変わらなかった。
『そうやって人を敬遠していては、いつまでたっても成長できない』という了斎の言葉が無ければ、俺はこの同期との出会いも蔑ろにしてしまっていたのだろうか。
まあ、そうしてたんだろうな。
同期の仲間との仲がどれだけ深まろうが、やっぱり了斎は特別だ。
他の皆と違って、了斎は俺を本気で否定してくれる。友達だからと気を使うのではなく、本当に驚くほど率直に俺を叱ってくれる。
きっと、了斎を本気で叱ることが出来るのも俺だけなのだろう。
『真に大切にするべきなのは、お前に優しくしてくれる人間よりも、お前のことを本気で叱ってくれる人間だ。お前が成長した時、この意味がわかるようになるはずだ』
昔、父にそう言われた。
ああ、わかったよ。父さん。
成長した俺の姿、天国から見てくれてるか?
俺はもう、普通の人生は歩めないし、普通の幸せを掴み取ることも出来ないみたいだけど・・
俺が『普通じゃない幸せ』を掴むまで、ずっと見守っておいてくれよ。
悪いけど、まだそっちに行くことは出来ないんだ。
久遠「急に静かになったな、清次」
火蓮「たまにこうなるんじゃよ」
久遠「まあ、そってしておくか」




