十九話 つとめて
朝起きると、大広間でとんでもない人数が寝転んでいた。
なるべく音を立てないように了斎を起こした。
俺「見ろよ、人が敷き詰められてるぞ」
了斎「ほんとだ」
目を擦りながら言った。
了斎「真栄田もここで寝てるのか」
俺「何で敵軍の城で寝るんだよ・・・・警戒心なさすぎだろ」
俺らを信用してることの現れなのか?
真栄田「吾輩は起きておるぞ」
真栄田が急に起き上がった。『うわっ!』と声が出そうになったが、周りで人が寝ているので抑えた。
真栄田「吾輩はそういうところは徹底しているからな」
真栄田軍が強い理由が少しわかった気がした。
真栄田「お前ら、ここで話すのは迷惑だから会議室で話そうぜ」
意外と気が使えるんだな・・
会議室まで三人できた。
真栄田「お、ここに菓子があるな・・・・」
真栄田が手を伸ばしたところを了斎が阻止した。
了斎「これは『宰川軍幹部』のものだ」
真栄田「一つくらい良いだろ、けちくさい・・・・」
口をとがらせて言った。
了斎「仕方ないな。ほら、一個食え」
了斎が菓子を真栄田の方に投げた。
真栄田「美味いなこれ!」
なんか子供みたいだな。
了斎はかなり冷たい目線を真栄田に送っていた。
真栄田、もっとしっかりしてくれ。
将英「ここに居たのか。何してたんだ?」
将英が入ってきた。
真栄田「早く起きちまったからちょっと雑談をな」
将英「そうか。じゃあオレも」
隣に将英が座った。
真栄田「名前を聞いておきたかったんだ。お前らの名は?」
そういえば、真栄田に会ってから一回も名前を言ってなかったか・・?」
了斎「左から順に了斎、清次、将英だ」
真栄田「そうか。それにしても将英は大きいな・・もう少しで吾輩を越すんじゃないか?」
確かに将英と剛斗は常人離れした体格だよな・・
美月「おはよー」
火蓮と美月が入ってきた。
火蓮と美月が了斎の隣に座る。
美月「真栄田、あんたのいびきがうるさすぎてアタシ全然寝られなかったのよ」
美月は朝から怒っていた。
真栄田「すまんすまん」
真栄田が雑に言った。
美月「そういえば、真栄田の使用術ってなんなの?」
そうだ、真栄田は腐っても軍の大将なんだった・・
真栄田「吾輩の術は『影忍術』だ」
俺「影忍術? 真栄田ってもともと忍者だったのか?」
忍術を使う人は殆ど見かけないけど。
真栄田「そういう訳では無い。背景が使用術に影響することはあんまりないからな」
了斎「そうなのか。そんで、影忍術ってのはどんな術なんだ? てか、敵なのにこんな聞いちまって良いのかな」
確かに。情報提供をしているようなものだが、真栄田はそれでいいのか?
真栄田「構わん。影忍術の主な力は影を操る力、姿を消す力、遠くを見る力、人の心を読む力だな」
人の心を読むって・・そんなことしちゃ駄目だろ。
華城「興味深いな」
戸を開けながら言った。
了斎「華城、お前盗み聞きしてたのかよ・・」
華城「たまたま通りかかったら聞こえたんだ」
華城の後ろには霧島も居た。
将英「久遠さんと獅電さんはまだ寝てるか?」
霧島「ああ。きっと飲みすぎたんだ」
呆れ顔で言った。
獅電さんも酒好きなのか?
了斎「あの時に獅電さんの思考を読んでたのは、影忍術の力だったってわけか」
そういえばそんなこと言ってたな。
真栄田「そうだ。今将英が考えてることも当てられるぞ」
自慢げに言った。
将英「何だ? 言ってみろ」
将英は臨戦態勢だった。
真栄田「お前は今、『何も考えない』と考えている。吾輩が『当てる』といった瞬間、頑張って無心になろうとしていたな」
将英「そ、そこまでわかるのか・・・・大したもんだ」
了斎「合ってるのか? 将英」
了斎が首を傾げる。
将英「全部正解だ」
単純に凄いと思った。
戦いで役に立つかは分からないが、心理戦では無敵だろうな。
俺「俺が失礼なこと考えてるのもバレてるって事か」
まずいな・・・・怒られるかな。
真栄田「いや、読もうとしない限りわからないからそこは大丈夫だ」
火蓮「じゃあ、清次が失礼なことを思ってるのは今バレたってことじゃな」
ふざけんなよ。
俺「いや、今のは違くって・・・・」
駄目だ、言い逃れできない。
真栄田「気にするな、実際敵なのだし仕方ないと思っている」
意外と寛容だな。
霧島「ずっと気になってたんだが、今宰川軍と真栄田軍は味方なのか? 敵なのか?」
ズバリと聞いた!
真栄田「まあ、客観的に見たら敵だろうな。ただ、吾輩は出来たら友好的な関係を築きたいんだ」
有効的な関係を築きたいだと・・?何度も戦っておいてよく言うもんだ。
華城「本当か?」
真栄田「ああ。いつまで経っても決着がつかないから、時間と兵の無駄遣いだ。勝ったとしても失ったもののほうが多い段階になってるんだよ」
俺が入る前から合戦の噂はしょっちゅう聞いていたしな・・
犠牲者はどれほどの人数になるのだろうか。
いや、止めるなら今なのか?手を組んだほうが良いのか?
俺「確かに、俺が生まれる前から対立してたらしいしな・・」
真栄田「ああ。お互いの父の時代から宰川と真栄田の対立は続いてる」
お互いの父の時代・・二十年以上は対立してるのか。
将英「そうなのか」
霧島「真栄田と宰川殿が手を組み、他の軍を倒していった方が得られるものは大きいってことか。なるほど、だから昨晩あの提案をしたんだな? 与根川・山河の連合軍と戦うってやつ」
真栄田「そういうことだ」
正直、真栄田と手を組んだほうが良いのは分かっている。ただ、俺は孤児の時ずっと真栄田軍兵士に苦しめられてきた。それどころか、親を殺した見知らぬ武士が真栄田軍兵士の可能性すらある。
親の仇かもしれない奴と手を組むのか・・・・?
真栄田「清次、その気持ちはわかる。もし清次の親の仇が我軍の兵士だとしたら、そいつを処分する。ただし、清次を苦しめたのはあくまで我軍のろくでもない兵であって、吾輩の判断ではないんだ。許してくれとは言わんが、そこだけは理解しておいてもらいたい」
ん?俺、今声に出してなかったよな・・・・
了斎「真栄田、急に何を言ってるんだ?」
不審そうに聞いた。
真栄田「清次がうつむいてたから思考を読ませてもらった。それに対しての返答だ」
何で勝手に思考を読んでるんだよ・・・・
了斎「そうか。わしらの親を殺したのが真栄田軍の可能性もある・・・・その事を考えていなかった」
しばらく考えて言った。
真栄田「吾輩の軍の兵士の仕業だとしたら、吾輩が腹を切って詫びよう」
そこまでする覚悟があるのか!?やはり異常だなこの男は・・・・
了斎「切腹などするな」
了斎が意外な一言を放った。
真栄田「何故だ?」
了斎「真栄田。お前が腹を切って死んで何が変わるんだ? わしらの両親は返ってくるのか? いや、帰ってこない。さらに、お前が死んだら真栄田軍を誰が統率するんだ。お前が死ぬことで困る人間が数え切れないほど居ることを忘れるな。わしらがお前を許すか許さないかは大した問題ではない。手を組むか否かの判断は宰川殿が下すのだからな」
正直、俺も納得してしまった。
何でも俺は自分を基準で考えてしまっていた。ただ、俺は宰川殿に従うのみだ。宰川殿が真栄田と手を組むというのであれば、全力でお助けするのみ。
誰かにとっての正義は誰かにとっての悪。
正義の味方は多数のために少数を犠牲にし、悪者は少数のために多数を犠牲にする。
どっちが正しいかなんてわかんねぇよな・・・・
俺「了斎の言うとおりだ。真栄田、もう俺たちの親のことは気にするな。これから何をしようが両親は戻ってこない。ただ、今すぐそばにある『守りたいもの』を守るためなら、お前と手を組むことも厭わないよ」
覚悟を決めよう。
というか、親の仇を取ったところでただの自己満足だ。
真栄田「若者だからといって、侮れん奴らだな・・・・・・」
少し笑って言った。
絶対にこれからは同期を誰も死なせない。死んでも守らなければいけない。
結局、義和の時も昨日も同期を一度死なせてしまった。
そんな甘かったら駄目だ。もっと強く、もっと賢くならなければ。
結城「あら、皆さんここに居たのですね。もうすぐ朝ごはんの準備ができますので、広間にお戻りください」
全「はーい」
皆で広間へと歩いた。
広間に行くと、既に皆起きていた。
久遠「おはよう清次!」
霧島「飲みすぎたんだろ? 久遠さん」
肘をついて言った。
久遠「そうだな・・まだ酔いが覚めきってないよ」
久遠さんが自分の頭を何度か叩いた。
雷煌「獅電さんは大丈夫そうですね」
獅電さんは平気な顔をして水を飲んでいた。
宰川「さあ、今日はとても大切な会議をするぞ。真栄田軍を帰らせたあと、今後の宰川軍について細かく話さなければ」
久遠「華城、幹部候補は何人いる?」
華城「四人だ」
思ったよりも少ない。
宰川「・・・・まあ、多すぎてもまた争いの種になるからな。四人で十分だろう」
久遠「ちなみに、どれくらい優秀だ?」
華城「皆、ここにいる同期には一歩劣ると言った感じだ。まだ若いものもいるから伸びしろはあるがな」
比較対象にされるくらい俺らも強くなったんだな・・
霧島「大人は居るか?」
華城「ああ、一人。二十六歳だそうだ」
久遠さんよりも歳上か。
祖父英「久遠さんよりも上か。関わり方が難しそうだな」
久遠「我らの方が先に幹部になっているのだから、敬語は必要ないだろう」
初対面の歳上にも敬語を使わなくていい・・・・やはり幹部の権力は最高だな。
皆で朝食を済ませ、真栄田軍を帰らせた。
久遠「では、今日の予定を話す。まず、真栄田との情報交換、そして幹部候補との面接、最後に新生宰川軍の布陣についての会議だ」
前に立って言った。
俺「盛りだくさんだな」
真栄田「お前、自分で『新生宰川軍』なんて言うの、恥ずかしくないのか?」
小馬鹿にした口調で言った。
剛斗「間違っていないだから良いだろ!!!」
真栄田「わかったわかった、新生宰川軍だな」
霧島「馬鹿にするなよ」
宰川「では、会議室で情報交換をしよう。そこで真栄田軍と我軍の違いについても話したい」
宰川殿が立ち上がった。
真栄田「わかったぜ、宰川」
俺たちは会議室まで移動した。豪の武士には広間で待機してもらう。




