それから
星武の乱から三年。それは、同時に星武の乱で命を落とした仲間の三回忌を意味していた。
俺「今となってはもう、あいつらの居ない生活にも慣れちまったけど・・やっぱり時々、さみしく思う時はある」
了斎「うむ」
やはり、全員揃ったときの『無敵感』とも言うべきだろうか。あの感覚はもう味わえない。
すごく幸せだけど、どこか欠けているような気がする。
伊海「しかし、星武の乱以降、幹部から死者は出ておりません。こうして皆揃ってお墓参りが出来ているのは、ひとつ幸せなのかもしれませんね」
華城「そして、政治経済ともに今は極めて良好な状態だ。治安も改善されてきている」
政治経済の部分に関しては、完全に華城のおかげだ。
正直、華城が居なきゃこの国は立ち行かないだろうな・・
美咲「あの時剛斗を町奉行に指名したのは正解だったね。想像以上の活躍だよ」
町で巻き起こる揉め事のほとんどは剛斗が解決してくれる。
まぁ、剛斗を前に反抗ができるやつなんて居ないだろうしな・・本当に彼は恵まれた体だ。
剛斗「ハハッ!!ありがとな!!!」
宰川「最初は不安要素も多かった采配だが、今となっては清次や霧島、火蓮などにも安心して仕事を任せられる。見違えるほどの成長だ」
俺「火蓮とか霧島と俺を一緒にすんなよ!」
京香「ふふ、そういったところは本当に変わらないですね」
俺「俺もそろそろ大人の仲間入りと思ったんだけどな」
久遠「清次にはまだ早いさ」
くっそ。俺もう十九だぞ・・?
右京「仕事中の真剣な眼差しを見るとやはり成長を感じるがな」
まぁ、昔に比べて責任感が半端じゃないからな・・立場が人を育てるってのは的を射ていると思う。
坂本「ただ、一番変わったのはやっぱり霧島じゃねぇか?」
霧島「俺?」
それは俺も実感していた。
何でもかんでも噛みつく、狂犬だった霧島が今は牙を抜かれたように大人しくなってしまった。
ああ言えばこう言う・・は霧島の代名詞だったはずなのに。
俺「やっぱり茜のおかげなんじゃないのか?」
茜「やめてよ」
霧島「そもそも俺は変わってねぇ。あの時のまんまの俺だ」
坂本「よく言えるなそんなこと」
宰川「まぁ、人は時間をかけて変わっていくのは当然のことだ。霧島はいい方向に変わっていると思う」
霧島「まぁ、そんなことは置いとこうぜ。今日は今年の夏祭りの計画をするんだろ?」
今の霧島は、あの頃の将英を想起させる。
常に状況を俯瞰で見ているような、集団の利益を考える人間。年下の方が兄貴分っぽいなんて、俺もまだまだだな。
京香「はい。現在七月中旬。夏祭りは八月下旬を予定しています」
定期的な催し物も行っているので、市民も人生に飽きることは少ない。
きっと、この社会も時間をかけて変わっていくだろう。
俺たちが死んだら、次の世代がまた政治をする。
今の俺達が目指すのは、とにかく社会の安定だ。
この三年間で地盤は固まった。今後も良い世の中になるだろう。
*
星武の乱、終戦直後。
惜しくもこの世を去ってしまった兵士たちは、とある場所にやってきていた。
・・・・ここが天国なのかはわからない。
しかし、戦場で命を落とした吾輩らがこうして一堂に会している。もはやここが何処なのかは大した問題ではなかろう。
美月「随分と人が増えたわね」
雷煌「仕方ないじゃないですか、星武の乱、過酷だったんですよ・・?」
豊「言われんでもわかっておるわい。本当によく頑張った。お主らの仇は、生き延びた仲間が討ってくれた」
吾輩「星武の乱、吾輩も共に戦いたかったんだがな・・」
美月「アンタ、自分から死ににいったようなものでしょ?別に生き延びようと思えば出来たと思うんだけど」
吾輩「人には言えない理由もあるものだ。自分の選択に後悔はないが、やはり別の道もあったのではないかと思ってしまうな」
困難の連続だった人生をやり終えても、もう一度人生をやり直したいと思う。
飽きが来ないな・・人生というものは。
しばらく談笑していると、遠くから聞き覚えのある声が聞こえてきた。
ストーンハート「お~~~~い!!」
美月「おぉ! 久々じゃない?」
アストリア「生前ぶりですね。・・・・負けちゃいましたよ、僕たち」
吾輩「当然だな! 吾輩の仲間が負けるはずないさ」
結城「そうやってまたすぐに調子に乗る・・」
ストーンハート「まぁ・・苦しい展開になるだろうとは思っていた。だが、ここまで圧倒されるとはな」
雷煌「でも、一度は獅電さんを倒しそうだったじゃないですか」
ストーンハート「それを阻止してきたのが君じゃないか・・仲間を助けるために命を擲ってでも間に入る、それが武士道の真髄なのだろう。正直、術師との差を実感してしまったよ」
雷煌「ま、武士である以前に仲間ですからね。仲間に死んでほしくないですもん」
まっすぐな瞳で言う。生前もこの瞳に何度も勇気をもらっていた。
アストリア「驚いたのは清次の体力と霧島の覚醒っぷりですね・・まず清次の体力ですけど、あれだけ人数がいれば少し休んでも大した問題ではないと思うはずなのに、常に戦い続けていました。幕府一のハードワーカーだと思います。霧島の覚醒は言わずもがなですね。終盤は霧島のおかげで武士陣営は乗り切れたと言っても過言ではないと思います。・・・・まぁ、死んでから分析しても意味はありませんがね」
そう呟いて、アストリアはため息を付いた。
晃牙「俺も・・戦いたかった」
吾輩「悪いな、晃牙・・・・吾輩が勝手に死んでからの真栄田軍兵士はお前に任せっきりだった。正直、相当な重圧だったと思うが・・若くしてその位置を勤め上げてくれたこと、本当に尊敬する」
晃牙「俺、武士に・・なったの、大将の・・おかげ。恩返し・・しただけ」
聞いた瞬間涙が溢れた。
吾輩「ありがとな・・最期まで、こんなどうしようもない大将に着いてきてくれて」
豊「まったく・・大将と言っても名ばかりじゃったな、お主は。・・・・楽しかったぞ」
晃牙「最高の、大将」
雪村「初陣で散った私は感動の場面にも出番なし、ですか? 悲しいなぁ。みんなの活躍、ずっと見てたんだからね」
英太「正直、僕は初陣を生き延びたとしてもすぐに死んでたと思いますが・・」
将英「卑下するんじゃない。二人とも運が悪かっただけだ」
椿「ウチの活躍、もっとみんなに見せたかったのに・・」
吾輩「見飽きたよ。宰川軍と対立していた頃、何度も椿に苦しめられた」
豊「そうじゃったな・・異常に強いクノイチがいると何度も言われておったわい」
椿「死んだあとに褒められても仕方ないってば・・嬉しいけどさ」
雷煌「これからの世界は、一体どうなっていくんですかね・・おそらく他の術師団も制圧され、大陸は幕府によって支配されることになります。まぁ、幕府のみなさんならきっと良い世界にしてくれると思いますけど」
吾輩も完全に同意見だ。
何度も刀を交えてきた敵であり、何度も共に戦った仲間だから分かる。酸いも甘いも噛み分ける蒼天幕府は、この大陸に新しい時代をもたらすだろう。
見せてくれ。吾輩らに新たな時代を。
そして、皆が務めを果たしたとき、この場所で飲み交わそう。その頃には皆、酒を飲める歳になっているだろうな。
ありがとう、宰川軍。ありがとう、蒼天幕府。
*
そして更に十年後。
これまでの間に俺たち同期組はそれぞれ一人暮らしを始め、各々の生活をするようになっていた。
だからといって距離が遠ざかったわけではなく、今まで通りの仲良しだ。
もちろん一人暮らしを始めた頃は寂しかったが、大人になるってのはこういうことなんだろう。
それに、今の俺は一人じゃねぇしな。
火蓮「清次、華城の話は聞いたか?」
俺「華城がどうしたって?」
火蓮「結婚、じゃ」
俺はひっくり返った。
俺「華城が!? 結婚!?」
火蓮「聞いたときは妾も驚いたんじゃが・・確かに春日と華城はお似合いじゃ。幸せな夫婦になるじゃろう」
俺「そうだな、そうか・・俺らも結婚して、霧島も茜と結婚して・・久遠さんも美咲と結婚だろ?」
火蓮「獅電さんを忘れるな」
俺「あーそうだな」
しばらく本気で戦っていないのと、歳を食ってきたおかげで俺の体力はガタ落ちだ。全盛期とは程遠いな・・腕も一本しかねぇし。
まぁ、この衰えも受け入れていかなきゃならん。しっかりしろ、俺。
戸が叩かれる音がした。
了斎「おーーい」
俺「なんだー?」
了斎「今日は城で宴だとよ。星武の乱終戦から十年だから祝うらしい」
俺「わかった、すぐ行く」
火蓮「一体何年引っ張るつもりじゃ・・? 毎年やっておるぞ」
俺「多分、宴がしたいだけだ」
ただ、ちゃんとした宴は半年ぶりくらいなので楽しみだった。
仕事で毎日会ってる皆だが、一同に会することは少ない。
幕府にあの頃の若々しさは残っていないが、雰囲気は変わっていない。
俺は、この『宰川軍』の頃のままの皆が大好きなんだ。
霧島「もう十年って信じられるか? 俺は信じられねぇ」
了斎「あの頃は十六歳だったわしらも二十六・・時の流れは残酷だな」
獅電「俺も四十代中盤だ。老けたものだな」
全「あなたは変わってません」
結局、未だに最強は獅電さんだ。
いつになったら超えられるのやら・・いや、もう超えられないか。
宰川「俺の死もそう遠くないな・・息子の教育が間に合うかどうか」
俺「それは俺達に任せてくれ。将軍として完璧な男に育て上げてみせよう」
宰川「ああ、頼りにしている」
現在、宰川殿の御子息は七歳。きっと、類稀なる才能を持っているはずだ。
久遠「そういえば、獅電の息子は元気か?」
獅電さんも五年前に結婚し、二人の息子がいる。
獅電「すくすく育っている。極めて健康な男児だ」
久遠「よかった。獅電の血は切らしちゃいけないからな」
間違いない。最強の武士の遺伝子は今後代々継がれていく必要のある、幕府の財産だからな。
・・ちょっと下世話かもしれない。
霧島「そんなことより、華城と春日の結婚は本当なのか?」
春日「本当だよ!」
おめでとうの言葉が飛び交い、拍手も巻き起こった。
華城「まぁ、二年ほど前から共に暮らしているし・・あまり変化はない。肩書が変わっただけだ」
照れ隠しだな。
あんなに小さくて可愛かった華城も二十四歳・・すっかり成人男性だ。
ここまで来ると、一個や二個の歳の差なんて些細なものだな。
俺「十年前の俺ら、本当によくやったと思わないか?」
京香「ですね。おそらく、あの頃の私たちよりも強い軍は今後現れないかと」
久遠「同意見だ。精神も肉体も洗練されすぎてた」
俺「その弊害がこのだらしない体か?」
伊海「久遠さんの体は間違いなくお酒のせいでしょう・・」
あいも変わらずだな。
右京「同期組の肉体は変わらずだな」
了斎「一応、鍛錬は欠かさず行っているからな」
単なる暇つぶしだ。
宰川「あの頃のギラギラした幕府も魅力的だったが、今の落ち着いた幕府も嫌いじゃない。というか好きだ」
俺「だな。こっちの方がずっと楽だし」
その後も、今後の展望について皆、楽しく話し合っていた。
伊海「宴もたけなわではございますが、ここで一度、全体としての宴はお開きとさせていただきます。ですが、この後もここに残って楽しんでいただいて大丈夫です」
俺「まぁ、締めは宰川殿以外ないよな」
右京「うむ」
だろうな・・と呟き、宰川殿が皆の前に立った。
宰川「星武の乱から十年。この十年間で我々は大きく成長できたと思っている。当然、他国と競争していける程の力があるかと言われればまだまだだが、着実に進歩し続けているのは確かだ。
今後の蒼天幕府の発展を祈り、本日の宴は終了とする!」
やがて俺たちは死に、この蒼天幕府を今の子どもたちに託すことになる。
ずっとこのままでいたいと思うが、時計の針は変わらず進み続ける。
俺はあと何回、春を迎えられるだろう。
あと何回、夏風に吹かれることができるだろう。
あと何回、落ち葉を踏みしめ歩むことができるだろう。
あと何回・・明日を迎えることができるだろうか。
無事「その時」を迎えて、あの世に行けたら・・また皆に会えるかな。
かつては敵だった奴らとも、居なくなっちまった仲間とも。
武士になって十数年だが、確実に実感していることがある。断言できる。
人と人との縁ってのは、他の何にも代えられないほど大事ってこと。
確かに、嫌いな奴を拒絶したり無視するってのは聡明な判断かもしれない。
でも・・諦めずに関わり続けると、また違った未来が見えるかもな。
ま、それも簡単なことじゃねぇよな。わかってる。
何か思い悩んだりすることがあったら、爲田城を訪ねてみるといい。
俺たちはここでずっと待ってるからな。




