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戦国の術師  作者: 葉泪 秋
幕府編

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百一話 深淵

 獅電さんの言葉を信じると、真っ先に狙うべきは仁華だ。しかし、剛斗並の力を持つ豪己がそれを許してくれるわけもない。


少し遅れて、四人目の敵が地下街から出てきた。


獅電「要注意人物だ。あいつは俺が仕留める」


俺「誰だ!?」


了斎「待て・・・・」

了斎が崩れ落ちた。


俺「あ? どうしたんだよ!!」


影狼「お前らは相変わらず仲がいいみてぇだな。それを見れて安心したよ」


俺「は・・?」


霧島「おめぇまさか・・!!!」


了斎「わしの・・・・」


影狼「おい、俺はもうお前の兄ちゃんじゃねぇからな。香座と呼ぶのはもうやめろ。俺は『影狼』だ」

待て待て待て待て!!!了斎の兄ちゃんは小さい村に暮らしてるとか言ってたじゃねぇかよ・・・・


俺「おい、村を制圧しに来た武士を追い払ったとか言う話は・・」


影狼「お、その話は知ってくれてんのか。まぁそれも事実だけど、三年くらい前の話だぜ? 夜叉衆が結成されたのは一年半くらい前だ」

だいぶ新しい組織だったんだな・・それでここまでの力を持つとは。


俺「それで、了斎の兄貴・・じゃなくて、影狼はどうしたいんだ? もう俺たちを殺すつもりなのか?」


影狼「俺が生きていく道はこっちって決めたからな」


了斎「兄さん! 待ってくれ!!!」


春日「ねぇ、それって無くない? 弟の気持ちとかは考えないわけ?」

その通りだ。了斎がどう思うかは置いといて、俺たちが許さない。


影狼「十年も離れ離れになってたらもう他人だろ。いちいち願いなんて聞いてられねぇよ」


蒼月「じゃあ・・拙者がお主を斬るでござるよ」

刀を握る蒼月の手は、怒りで震えていた。


蒼月「拙者が流浪していた頃・・お主の暮らしていた村にも泊まらせてもらったことがある。村人はみんな優しく、暖かかった。その理由も、村で力を持つお主の人柄だと思っていたが・・お主の本性はそれだったでござるか。失望したでござる」


影狼「勝手に失望してんじゃねぇよ。今もあの村は平和にやってる。俺は別のやつに任せて村を出たってだけだ」


俺「なんで村を出たのに平和ってわかるんだよ?」


影狼「あいつらなら大丈夫ってわかるんだよ」


伊海「梶田軍の根城の南東に位置する村はすべて坂本軍に蹂躙されたとの情報がありますが」


俺「おい、お前何してんだよ」


坂本「てへっ」

ぶん殴りてぇ・・・・・・


俺「ほらな、平和じゃなかっただろうがよ。適当なこと言いやがって」


了斎「兄さん・・帰ってきてくれ・・」

袖で涙を拭きながら言った。


俺「今ここで決めろよ。死ぬか、弟と生きるか」


影狼「だからもう兄貴じゃねぇんだよ俺は。いつまでもガキみてぇに喚くな」

はいカッチーーーーーーーーーーーーン。


俺「俺がお前の首元に刃を通してからじゃ遅い。今のうちに謝っておくべきだと思うんだけどな!!!」

俺の狙いは影狼ただ一人。ここで殺す。

了斎はきっとこいつを斬れないだろうからな・・・・


獅電「俺も影狼の相手をする。お前ら、誰一人死なず仁華を殺せ!!!」


全「了解!!!」


華城「待て!!!」


久遠「はっ!?」


凜花「ごめん、城まで連れて行こうとしたんだけど・・華城が『言わなきゃいけないことがある』ってずっと言ってて・・」


雷煌「本当に大事なことらしいんです」


久遠「言わなきゃいけないことは?」


華城「囚われている時に聞いた!!! その影狼という男の攻撃は絶対に喰らうな!!!!」


俺「何だって!?」


夜叉衆影武者『影狼』、使用術『必殺剣』。

彼が刀を抜いた姿を語る者は居ない。

なぜなら、影狼の刀を見たものは既に全員土に還っているからである。

首領に対する圧倒的な忠誠心と圧倒的な才覚により、夜叉衆の二番手にまで上り詰めた。

了斎の実の兄であるが、影狼本人は『もう兄ではない』と突き放している。


華城「そいつの使用術は・・・・刀に触れたら絶命するというものだ。触れることすら許されない!!!!」

そんなのありかよ・・


獅電「清次! 下がれ!!」


霧島「おい、どうやって勝つんだ!」


華城「触れられる前に斬る。それか、刀を奪え」


獅電「現実的に不可能だ。必ず何処かで接触する」


豪己「いつまで俺様たちを無視しやがって・・」


ストーンハート「仕方ねぇな、お前らの相手は俺がしてやるよ」


俺「おい待ておっさん!!!」


ストーンハート「お、良いパンチだ! いいぞもっとこい!!」

ストーンハートは手でわざと攻撃を受けている。何という脳筋・・・・


獅電「ストーンハートに任せて大丈夫だ。安心しろ」


俺「はい」


華城「殺す方法は・・」


晃牙「俺、術使う、あいつ、刀、振れない」


俺「それは可能か?」


獅電「術が通用するのであれば可能性はある。ただ、使う前に晃牙が斬られたらおしまいだ」


俺「うーん・・・・」


信雄「よいしょ!!」

影狼の足元に木を生やしたが、当然の如く避けられた。


茜「今なら油断してるあいつを殺せそう・・・・」

茜が美蘭の胸元を狙った。


茜「ほっ」


豪己「ぐおおおおおおお!!!」


茜「クソ、あのデカブツ・・・・」

豪己が自分の腕で庇いやがった。


俺「やったれストーンハート!!!!」


ストーンハート「えー、俺が殺して良いのかー?」


霧島「もたもたすんな!!!」


ストーンハート「わかったよ・・」

ストーンハートが豪己の顔を殴ると、水風船のように頭が弾け飛んだ。


仁華「え・・」


アストリア「副団長が来てよかったです」


ストーンハート「ほら、言っただろ?」

自慢げだ。


右京「宰川の即時回復はどうだ?」


獅電「あれは傷を治すだけだ。絶命したら元も子もない」

戦い方が浮かんでこねぇ・・根性でどうにかできる相手ではないしな・・・・


影狼「豪己を殺したか。星界術師団は流石といったところだな」


俺「俺たちが大したことないみてぇな言い草だな」


影狼「違うのか?」

一気に曇天になり、影狼のもとに雷が落ちた。


影狼「くっそ・・・・」

いいぞ、ふらついてる!!!!


俺「死ね!!!」

無数の棘を影狼付近に生やした。


影狼「あぁ!!」

いいぞ、棘踏みまくってる!!!

何度も影狼の足から血が出ている。


獅電「棘は効いてるな」


俺「はい!」


彰「いけぇぇぇ!!!」

彰が助走をつけて氷槍を影狼めがけて投げた。


影狼「ぐっ・・」

刺さるのかよ。


久遠「雷煌! もう一発雷を落とすぞ!!!」


仁華「それは良くないですね・・」

雷煌の背後に現れた仁華が髪を掴んだ。


雷煌「まっ・・て・・」


霧島「てめぇぇぇぇ!!!!」


仁華に飛び込んだ霧島が抑え込んだ。


雷煌「感謝します!!」


霧島「この野郎ぉぉ!!!」

刀を持っていない霧島は仁華の首元に噛みついた。

そんなことをよく躊躇もなくできるな・・・・


仁華「あ”あ”あ”!!!」


俺「落ち着け、霧島!!!」

体を掴んで仁華から離した。


霧島「はぁ・・はぁ・・」


俺「駄目だ、周りが見えなくなってる。無理すんなよ!!!」

霧島は翔斗のそばでしばらく休ませよう。


獅電「仁華にほとんど弱った様子はない」


俺「何でだよ」


仁華「武士は野蛮ですね。うんざりしちゃいますよ。本当に」


剛斗「武士の野蛮さがこの程度だと思ってるお前はまだまだ甘いぜ!!!」

仁華のもとに剛斗が向かった。


仁華「肉の塊は下がってろ」

仁華は剛斗の殴打を避け、反撃を狙う。


晃牙「危ない」

仁華を弾き返し、二人の剣戟が始まる。


霧島「やったれ晃牙!!!」


仁華「何だ、太刀筋が見えない・・」

晃牙は仁華と渡り合えている。

あとは美蘭の妨害さえ・・・・


了斎「将英! 美蘭が縄を使ったら風刃で切ってくれ!!」


将英「了解」


影狼「クソ、受け身では負けるぞ!! 全員仕留めろ!!」


仁華、美蘭の目つきが変わった。

完全に俺たちを狩るつもりだ。


獅電「そちらがその気なのであれば、俺たちも応えよう」

獅電さんが刀を抜き、影狼の元へ斬りかかる。


俺「獅電さっ・・・・」


獅電「清次! お前は美蘭を斬れ!!」

影狼と剣戟をしながら言う。


一発でも食らうと獅電さんが死んでしまうというこの状況で、俺は美蘭を狙わなくちゃいけねぇ・・

かなりの重荷を背負っているが、今できることをするしかない。


俺「翔斗! お前は獅電さんの近くで待機しろ! お前が獅電さんを守りきれるかは分からねぇけど、居たほうが良い!!」


翔斗「承知した!」

未だかつてない俊敏さで翔斗が獅電さんのもとへ向かう。


まずは近づいて美蘭の特徴を捉える。

もちろん、将英とともに。


俺「将英、行くぞ!」


美蘭「正面から戦って私に勝つのは無理。出直しなよ」

縄で俺の体を縛ってきた。

クソ、動けねぇ・・


俺「将英!」


将英「ああ! 今切る!!」

将英が風刃で縄を切断しようとするが、縄は切れない。


俺「風刃じゃ切れねぇか・・!」


将英「そうなったら・・!」

刀で直接切っても、縄は切れなかった。


俺「雷煌!」

こちらを見た雷煌は返事をする前にこちらへ来て、縄を切った。


将英「雷刀のような特別切れ味の鋭いものでないと切れないか」


俺「んじゃ、大事なのは縛られないことだな」

とりあえず、美蘭の足元に亀裂を生み出し、渓谷ができた。


美蘭「うああっ!!」

渓谷に美蘭が落下していく。


俺「雷煌、あいつはきっと縄を使って戻ってくる。そこで縄を切って落とせ!!!」


雷煌「了解!!!」

すると案の定美蘭は縄をこちらへ伸ばしてきた。

しかし、縄の拠り所としたのは将英だった。


俺「将英!!」


将英「畜生・・・・」


雷煌「今縄を切ると将英さんも・・・・」


俺「剛斗!!!!」

こちらへ走ってきた剛斗に、将英の腕を掴ませた。


俺「落ちないようにこっちへ引っ張れ!!」


剛斗「わかった!!!」

しかし、将英はじりじりと渓谷へ近づいていく。

このままじゃ落ちてしまう、駄目だ!


剛斗「おい! このままじゃオレも落ちる!!!!」


雷煌「霧島さん!!」

気づいた霧島は瞬間移動でこちらへやってきた。


霧島「何だ!」


俺「霧を出して将英だけ救出できねぇか!!」


霧島「無理だ!」


俺「どうしてだ!!!」


霧島「無理なものは無理だ! 雷煌の高速移動で美蘭の命綱だけ切れねぇのか!!」


雷煌「そんな何回も連続で高速移動は使えません!!!」

じゃあもう残されるはあいつしか居ない・・!!


俺「了斎!!!!」

了斎がこちらへ走ってきた。


了斎「何だ? というか剛斗が落ちそうだぞ誰か引っ張れ!!!」


霧島「ああ俺がやる!!」

全力で剛斗を引っ張った。

落ちるまであと数十秒だな・・・・


俺「了斎、美蘭が将英に繋げてる縄を焼き切れ!!」


了斎「わかった、将英より下の縄ってことだな!?」


俺「そうだ! 早く!!!」


了斎が火球を放ち、縄に火がついた。


剛斗「よし! 切れた!!!」

美蘭が落ちていったかまでは分からないが、とりあえず将英は助かりそうだ。


俺「せーの!!」

全員で縄を引き、将英を引っ張り上げた。


将英「ありがとう・・縄を握る力ももうほとんど残っていなかった」


霧島「ギリギリだったな」

霧島がにこっと笑う。


俺「美蘭、死んでるといいけど・・・・」

この程度では死ななそうというのが正直なところだ。


了斎「とりあえず、仁華と戦おう・・」

仁華の方に目を向けると、晃牙が完全に仁華を追い詰めているのが見えた。


晃牙「君死ぬ」


仁華「まだだ・・まだっ・・!!!」


俺「止めをさせ!! 晃牙!!!」

必死に叫んだ。


その時、晃牙のそばを黒い光が通った。


剛斗「何だ!?!?」


晃牙の体から血が吹き出した。


雷煌「はっ・・・・」

何だ今の光は・・・・


獅電「お前ら伏せろ!!!」

伏せると、再び俺たちの真上を黒い光が通っていった。


俺「なんだこれ!!」

俺たちはなんとか避けれたみてぇだが・・


獅電「影狼の術に違いない!」


久遠「晃牙が死亡した! 総員退避だ! 城に戻れ!!!」


俺「退避だって?」


久遠「華城の指示だ! このままここに留まると全員犬死にするぞ!!!!」

脅しか本気か分からんが、俺たちは指示に従って全力で城へ走った。


そして、夜叉衆が俺たちを追ってくることはなかった。

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