やみめゆ
「やみめゆ……?」
不思議な名前のお店だなと思った。僕、一野康介は学校の帰り道を歩いていたはずだった。
しかし、気づいたら来たこともない通りに入ってしまったようだ。
危ない道は通らないようにね、これは僕のおばあちゃんのいつもいう言葉だ。お母さんを小さいころに亡くした僕は、祖父母宅で育てられた。おばあちゃんの煮物は美味しいし、おじいちゃんは色々な話をしてくれる。とても優しい人たちだ。
お父さんも海外から帰ってくるとおばあちゃんの煮物を美味しいって言って喜んで食べている。そういうときのおばあちゃんの顔はすごく嬉しそうだ。だから、何も不自由なく生活させてもらっている。たまに、学校の便りとか渡すと説明しなきゃいけないけど、そんなのは慣れた。
早くこの道からいつもの道に戻っておばあちゃんの煮物を食べに帰ろう。帰りたいところなんだけど、元の道が分からない。僕は記憶力が良い方なんだけどなぁ。来たであろう方向に戻ろうとしてもまた同じ景色が見える。
どうしたんだろうか。僕、夢でも見てるのかな。そんなことはない。だってさっき学校で授業を受けて、翔にバイバイしてきたところじゃないか。もうしょうがないからこのまま進んでみることにしよう。足元はレンガのタイル張りで、異国情緒漂う様子だ。少し歪んでいるところがあるから、工事をしてから時間がたっているのではないだろうか。
そんなことを考えながら10分ほど歩いていると一軒のお店に出会った。
「やみめゆ……?」
それが僕と夢さんの出会いだった。