高校三年生編(17)
表彰式。
おれは左腕を三角巾で吊りながら、右手でトロフィーを受け取った。
ついに、インターハイ優勝という悲願を成し遂げた。
そして、高校三年間の剣道生活に終止符を打つ時がやってきたのだった。
表彰式が終わり、S高校陣営に戻ってくると、みんなが待っていた。
「花岡、おめでとう」
「おめでとうございます、先輩」
「やったな、花岡」
「やっぱり俺が見込んだだけある」
応援に駆けつけてくれたみんなは口々におれを祝福してくれた。
同級生、後輩、卒業していった先輩たち、OB、Y大学剣道部の人たち、S警察署剣道部員の人たち。
おれは、ひとりひとりに応援してくれたお礼を言い、一緒に写真を撮ったりした。
顧問である小野先生などは、周りの目をはばからず号泣していた。
みんなからの祝福を受け終えたおれは、着替えてくると言って、その場を離れると選手控室へと続く廊下をひとり歩いた。
選手控室の前には、見覚えのある人が立っていた。
現代の武蔵。高瀬晴彦だった。
「優勝おめでとう、花岡くん」
「ありがとうございます」
「いい試合だったよ。最後の面打ち。あれは、本当に素晴らしかった」
「高瀬さん、どうして神崎は出てこなかったんですか」
おれのことを褒めてくれる高瀬兄の言葉を遮るようにして、おれは自分の中にあった疑問をぶつけた。
「ああ、そのことか。通りで優勝したのに、嬉しそうな顔をしていないわけだ。キミたちはライバルだったもんな」
「怪我とかですか?」
「いや、違うよ。留学だ。短期留学」
高瀬兄によれば、M学園の三年生で成績優秀な生徒は大学進学前に、短期留学をすることが出来るのだという。
神崎はその短期留学とインターハイ出場を天秤にかけて、留学の方を取ったというわけだ。
「納得がいかない。そんな顔をしているな、花岡くん」
「はい」
「なるほどね……。おっと、もうひとり納得がいかない顔をしているやつが来たな。じゃあ、俺はこの辺で」
高瀬兄はそう言うと、ホールの方へと歩いていってしまった。
高瀬兄と入れ替わるように、現れたのはその妹である高瀬さおりだった。
「おめでとう、花岡」
「ありがとう」
高瀬はいまにも泣き出しそうな顔をしていた。
「なんだよ、高瀬。おれは優勝したんだぞ。そんな泣きそうな顔をするなよ」
おれの言葉に、高瀬は強烈なパンチをしていた。
パンチを食らったおれは、おおげさにうずくまる。
「あ、ごめん。もしかして、痛めたところを殴っちゃったか」
「いや、大丈夫だ」
おれが笑顔で立ち上がると、高瀬は怒った表情でもう一発パンチをしてきた。
「てめえ、花岡」
おれはそのパンチに対して、間合いを詰めて避けると、高瀬のことをそっと抱き留めた。
「ありがとう、高瀬」
おれは心の底から、感謝の気持ちを伝えた。
それに対して高瀬はただ大粒の涙を零すだけで、何も言わなかった。




