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吠えよ剣  作者: 大隅スミヲ
高校三年生編

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高校三年生編(10)

 二回戦、おれは相手に一本も取らせることなく、面と小手で二本先取して三回戦へと進出した。


 自分の試合が終わると、おれはすぐに高瀬が試合をやっているコートへと移動した。同じ時間帯に試合が行われていたのだが、女子の試合は少し時間が遅れていたため、なんとか間に合った。


 一対一。高瀬は小手で一本を取っていたが、面で一本取られてしまったようだ。次に一本を取った方が勝者となる。

 見たところ、実力は拮抗しているようだ。お互いに攻めるが、一本となるような決め手には欠けているようだった。


 試合時間が終了し、延長に入る。

 高瀬は疲労していた。肩で息をしているのが、遠目でもわかる。

 延長戦は、先に一本を取った方が勝ちだ。


 高瀬の気合の入った声がコート内に響き渡る。


 相手と高瀬の竹刀が交錯する。

 鍔迫り合い。お互いに一歩も引かない。

 次の瞬間、高瀬が膝から崩れ落ちた。


 試合が中断され、会場に控えていた白衣を着たドクターが駆け付ける。

 どうやら、ひざを痛めてしまったようだ。

 試合は、高瀬が棄権をするという形で終了となった。


 高瀬は担架に乗せられて、医務室へと運ばれて行った。

 おれも医務室へと駆け付けたかった。

 しかし、三回戦がはじまるため、それは出来なかった。


 三回戦、おれは苦戦していた。

「集中しろ、集中」

 河上先輩の声が聞こえてくる。

 普段であれば、周りの声はまったく聞こえないぐらいに集中できているはずなのに、なぜか河上先輩の檄を飛ばす声はおれの耳に届いていた。

 それだけ集中が出来ていないということなのだろう。


 そんなことを考えていたら、相手の剣先がおれの面金を叩いた。

 入りは浅かったが、あと数センチ入って来ていたら、確実に一本を取られていただろう。


 おれの集中力が切れている理由。

 それは高瀬の怪我だった。高瀬は大丈夫だろうか。そればかりが心配で、頭から追い出したはずなのに、いつの間にかそのことを考えてしまっている。


 いまは試合中だぞ。集中しろ。

 おれは自分に言い聞かせた。


 肩に強い衝撃を受けた。

 相手の面打ちがはずれて肩に竹刀が当たったのだ。


「なにやってんだ、花岡」

 聞こえてきたのは、高瀬の声だった。

 振り返ることは出来ないが、高瀬がこの会場のすぐ近くに来ている。

 怪我は大丈夫だったのだろうか。


 相手はここぞとばかりに猛攻を仕掛けて来た。

 おれはその攻撃を竹刀で受け流す。


「花岡、攻めろ。守ってばかりじゃ勝てないぞ」

 また高瀬の声。


 うるせえよ。

 おれは口元に笑みを浮かべると、独り言を呟いた。


 そこからは一気に集中力が戻って来た。

 相手の竹刀の動きがよく見える。


 相手が面打ちを狙ってきたところを払って、小手を返す。

 小手と面の二本を取って、おれは三回戦を突破した。


 コートから選手控室に戻ると、膝に包帯を巻いた高瀬がいた。

「大丈夫か、高瀬」

「ああ。ちょっと痛めただけ」

 高瀬は寂しそうで、悔しそうな表情で言う。


「負けちゃったな」

「でも、すごいじゃないか。S高女子剣道部の快挙だぞ」

「花岡は負けるなよ」

「当たり前だろ。何度も言わせるな。おれはインターハイまで負けないって」

 そんな会話をしていると、見覚えのある女の人が選手控室の前を横切った。

 あの清楚で端麗な横顔。見間違えるわけがない、佐竹先輩だ。


「あ、佐竹先輩」

 先に声をあげたのは、高瀬の方だった。


 その声に気づいた佐竹先輩は、選手控室へと入ってくる。

「大丈夫、高瀬さん」

「ええ。ちょっと痛めただけです」

「試合、見ていたわよ。恰好よかった」

「ありがとうございます」

 佐竹先輩に褒められて、高瀬は照れた表情で言う。


「あれ、そういえば河上先輩も来ていましたよ」

「ええ、知っているわよ。だって、河上くんの車で一緒に来たんだもん」

「え……」

 おれはその言葉に絶句した。

 さっき、河上先輩はおれに『来ていないよ。きょうは彼氏とデートだそうだ』って言ったよね。嘘じゃん。しかも、一緒に来てるじゃん。

 河上先輩に、だまされた。


 おのれ河上、許すまじ。こんど出稽古に行ったら、絶対に試合稽古をしてもらうぞ。

 おれは心の中に新しい炎を宿した。

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