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吠えよ剣  作者: 大隅スミヲ
高校三年生編

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高校三年生編(7)

 地区大会が終了し、おれたち三年生は正式に引退することとなった。

 S高校剣道部では、引退式という儀式めいたものを行うのが通例で、そこで部長の交代もおこなわれるのだった。


 おれはかねてから決めていた通り、鍋島を後任の部長として指名した。

 女子の方は、羽田さんが成田さんを指名し、代替わりが成立した。


 引退式では、小野先生のおごりでジュースでの宴会が行われた。

 木下や前田といった三年のメンバーのほとんどは、進学や就職のために完全に部活から離れることとなる。

 だが、県大会への切符を掴んだおれや高瀬はまだ引退するわけにはいかなかった。

 地区大会では、高瀬は準決勝を勝ち上がり、決勝に進出を果たした。

 この時点で県大会への切符は手に入れたのだが、まさかのまさかで決勝戦で勝利を収めたのだ。


 S高校が男女優勝。

 翌日の地域紙のスポーツ面にはそんな記事が大きく取り上げられていた。

 これは今までにないことだと、校長にも褒められたらしく、小野先生も嬉しそうだった。

 だから、今回の引退式では小野先生からのジュース代が出たというわけだ。


「まさか、高瀬も県大会へ行けるとはな」

「それは自分でも驚いているよ」

 誰もいなくなった体育館で、おれと高瀬は向かい合って座っていた。

 お互い、恰好は剣道着だ。

 他のみんなは、小野先生が用意してくれた会議室で引退式の続きをやっている。


「これも、花岡のお陰だよ」

「別におれは何もしてないだろ」

「毎日、練習に誘ってくれた。わたし、練習とか面倒くさいって思っちゃうタイプなんだ。たぶん、花岡に誘われなければ、勝手に引退って言って、練習サボっていただろうな」

「よく言うよ。おれが練習を終わろうとすると、この動きを教えてくれとか、この場合はどうやって切り抜ければいいんだなんて言って練習後も三〇分以上はいつも居残っていた癖に。高瀬は練習が好きなんだよ」

「それは、花岡だったからだよ」

「うん?」

「教えてくれる人が花岡だったから」

「え?」

「ああ、もういい。さっさとやるぞ」

 高瀬は乱暴に言うと面をつけて立ち上がった。


「一本だけだぞ」

「わかってる」

 おれはゆっくりと正眼に構える。


 対峙する高瀬も正眼だ。

 この一年で高瀬は急激に成長したような気がする。

 剣道部に入ってきた時から、センスはあると思っていたがここまで伸びるとは思ってもいないことだった。

 現代の武蔵と呼ばれる高瀬晴彦を兄に持つだけあって、やはり才能はあったのだ。


 隙の無い構え。

 おれはどこから攻め崩そうかと考えていた。


 先に動いたのは高瀬の方からだった。

 一直線に伸びてくる竹刀。

 突き。その突きは、正確に顎下を狙って来ていた。


 おれは咄嗟にその伸びてきた竹刀を自分の竹刀で弾き、横面を狙って打ち込む。

 竹刀を立てるようにして、高瀬はおれの横面を受け流す。

 少し下がり、高瀬との距離を取る。


 やはり高瀬は確実に強くなっていた。

 これなら県大会でも、いいところまで進むのではないかと思えるほどだ。


 面越しに見える高瀬の目。

 鋭くこちらを射抜くように見ている。


 構えを正眼から下段に変化させる。

 基本的に下段は防御の構えであり、あまり自分から攻め込むという時には使わないものだ。


 だからこそ、おれは下段に構えて、高瀬の虚を突いた。

 重心を落として、床の上で足裏を滑らせるように進む。

 下から竹刀を擦り上げるようにして高瀬の小手を狙う。


 確かな手ごたえがあった。

 高瀬は呆気にとられたような顔をしていたが、すぐに小手を取られたことを認め、竹刀を収めた。


「やられたな」

 面を脱いだ高瀬が、ぼそりと言った。

 額にはうっすらと汗をかいている。


「強くなったな、高瀬」

「でも、一本も取れなかった」

「そりゃあ、相手がおれだからな」

 笑いながらおれがいうと、高瀬はおれの肩にパンチを打ち込んできた。


「まさか、わたしが地区大会で優勝出来るだなんて思ってもみなかった」

「それは、高瀬が強くなったってことだよ」

「そうなのかなあ」

 高瀬はよくわからないといった表情で言うと、胴を外した。


「あれ、まだこんなところにいたのか、お前ら。もうみんな会議室に集まっているぞ」

 体育館にひょっこりと顔をのぞかせた木下が、こちらに気づいて言う。


「ああ、すぐに行くよ」

 おれはそう答えて、防具袋を片付けた。

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