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吠えよ剣  作者: 大隅スミヲ
高校二年生編

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高校二年生編(51)

 稽古は終盤に入り、紅白戦を行うこととなった。

 もちろん、その中に高瀬兄も入って来る。


 おれは紅組、高瀬兄は白組だった。

 上手く行けば高瀬兄と当たることが出来る。

 おれは胸を高鳴らせていた。


 試合順はじゃんけんで決めた。

 おれはじゃんけんで負けたため、紅組の先鋒を務めることとなった。


 先鋒では高瀬兄と当たることはないだろう。

 正直、がっかりしていた。

 せっかく来てくれたのに、試合稽古をすることが出来ないのか、と。


 しかし、その予想に反して白組の先鋒として出てきたのは、高瀬兄だった。

 何という運命。やはり、おれは高瀬兄と戦う運命にあるようだ。気合を入れ直して、竹刀を手に取るとコートの中へと足を進めた。


「はじめっ」

 主審を務める前田が声を張り上げる。


 高瀬兄の構えは、正眼だった。

 竹刀の剣先から何かオーラでも出ているかのように、こちらに対してものすごい圧力が掛かってくる。


 おれは深呼吸をして、その構えを受けるべく、同じように正眼を取って対峙した。

 正直な話、おれは動けなかった。

 蛇に睨まれた蛙とは、まさにこのことだった。

 自分の呼吸が浅くなってきていることはわかっていた。苦しい。もっと空気を吸いたい。


 床を蹴りつけるようにして、おれは飛び込んでいた。

 高瀬兄の面を狙い、竹刀を振り下ろす。

 剣先は空を斬ったが、そのまま体を捻って、小手を狙いに行く。


 竹刀と竹刀がぶつかる。

 鍔迫り合いに持ち込もうと力を入れるが、簡単にいなされてしまう。


 間合いが空く。

 高瀬兄は、正眼で構えたまま、じっと待っている。

 攻めて来い。そう、おれに呼び掛けているのだ。


 だが、おれは攻めることができなかった。

 高瀬兄の構えには、隙ひとつ無いのだ。

 どこからどう攻めていけば良いのか、まったくわからない。

 こんな経験は、一度もしたことがなかった。


 来ないのであれば、こちらから行くぞ。

 高瀬兄の剣先がそう語りかけてきたような気がした。

 素早い踏み込み。

 振り下ろされる竹刀。


 見えない。

 剣先がどこにあるのか、おれは見失っていた。


 次の瞬間、おれは脳天に痺れに似た衝撃を受けていた。


「面あり、一本!」

 審判を務めている前田の声が聞こえてくる。


 一体なにが起きたのか、おれにはわからなかった。

 高瀬兄が踏み込んできたところまでは見えていた。

 その先がわからないのだ。

 正眼に構えていた剣先が、持ち上がったのは見えていた。

 そこに合わせて動こうとした。

 しかし、次の瞬間、おれは高瀬兄の竹刀の剣先を見失っていた。

 剣先が消えた。そう思えたのだ。


 先ほど、打ち込み稽古の際に高瀬兄の竹刀が消えて見えるような気がしていたが、実際に受けてみると、本当に剣先は消えていた。

 自分でも何をいっているのか、よくわかっていない。

 ただ、目の前から剣先が消えたという事実がそこにはあるのだ。


「おい、大丈夫か、花岡」

 いつまで経っても構えを取ろうとしないおれを心配して、前田が声を掛けて来る。


「あ、ああ。すまん、続けてくれ」

 我に返ったおれは竹刀を握り直し、構えを取った。

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