高校二年生編(48)
家の中から人の動く気配がした。
高瀬が唾を飲み込み、喉が上下するのがわかった。
ドアノブに手を掛けた高瀬がこっちを見る。
おれはゆっくりと頷いて、持っていた傘を竹刀代わりに握り締めた。
玄関のドアを勢いよく高瀬が開けると、そこには長身の男が立っていた。
年齢は二十代前半ぐらいで、体型は痩せ型。髪は短く整えてあり、目鼻立ちははっきりとしていた。
「玄関がガチャガチャいっていると思ったら……なにやってんだ、お前ら?」
「えっ、お兄……なんでいるの?」
高瀬が驚いたような口調で言った。
「ここは俺の家だ。いちゃ、悪いか」
「帰ってくるなんて、ひと言もいってなかったじゃない」
「どうして、自分の家に帰ってくるのに言わなくちゃいけないんだ」
「そうじゃなくてさ、東京から帰ってくるなんて、ひと言もいっていなかったから、お父さんとお母さんは出掛けちゃっているよ」
「そう……なの?」
高瀬兄は、参ったなあと呟きながら頭を掻いた。
「今夜は帰ってこないから、ご飯とか何も無いよ」
「ええー。なんだよ、それ。地元に帰ってきてまでファミレスとかで食事しなきゃなんないのかよ」
「連絡しないから、こういうことになるんじゃん」
高瀬の冷たいひと言に、高瀬兄は落ち込んだ表情を作った。そして、そこで初めて高瀬の隣に立っているおれの存在に気づいた。
「えっと、彼は……どちらさん?」
「彼はクラスメイトで、花岡くん」
おれが答えるよりも先に、高瀬が早口で高瀬兄にいう。
「どうも、兄です。いつも妹がお世話になっています」
先ほどまでの高瀬とのやり取りとは打って変わって、大人な挨拶を高瀬兄はおれにしてきた。
そして、おれの顔をまじまじと見ると、なにかを思い出したかのような表情を作った。
「ああっ。花岡……なるほど、きみがあの花岡くんか」
高瀬兄の表情が輝き、声が大きくなる。
「インターハイ準優勝。S高校期待の星。そうだろ、花岡くん」
「それは去年の話です」
「ああ、今年は三位だったっけね。隼人からキミの話は聞いているよ」
「えっ、隼人って……神崎隼人ですか」
「そう、神崎隼人。あれ、もしかして知らなかった。俺が隼人のコーチを個人的にやっているって」
なんだって。どういうことだよ、それ。
神崎のコーチを高瀬兄がやっているって。高瀬の兄貴って、一体何者なんだ。
待てよ、高瀬の兄貴が神崎のコーチをやっているってことは、高瀬家と神崎家は家族ぐるみの付き合いってことか。
つーことは、高瀬と神崎は幼馴染で、許婚な関係とかなのか。
おれは勝手な妄想を膨らませ、嫉妬の炎を燃え上がらせた。
「あのさ、もういいかな。花岡、二階へ行こう」
高瀬が話に割って入り、おれの腕をひっぱって階段を上りはじめた。




