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吠えよ剣  作者: 大隅スミヲ
高校二年生編

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高校二年生編(34)

 二回戦がはじまった。

 ウォーミングアップで十分に体を温めたおれは、万全の体制で試合場へと向かった。


 相手となる選手は一回戦を面打ちで二本取り、ストレート勝ちで上がってきている。相手に不足なし。


 おれは気合いを入れると、試合場の中央に立った。


 蹲踞を取り、竹刀を構える。

 構えはいつもと同じ正眼。じっと相手を見据えるように構えて圧力を掛けていく。


 相手も構えは中段だった。

 構えた竹刀をリズミカルに上下に動かしている。

 その動きを見つめながら、おれは相手が打ち込んでくるタイミングを計っていた。


「体のどこかしらでリズムを取る相手だと、癖がわかりやすいんだよ」

 平賀さんが教えてくれた癖を見破る極意のひとつだった。


 イチ、ニのサン、イチ、ニのサン。

 たぶん、次で来るぞ。

 イチ、ニの……。

 相手が一気に踏み込んできた。

 完全にこちらの読みどおりだった。


 おれは相手の面打ちのタイミングに合わせて体を引くと、引き胴打ちをカウンターで繰り出した。

 完璧なタイミングで引き胴打ちは相手の胴に入っていた。


 場内からどよめきが起こる。


「胴あり、一本」

 相手のリズムを掴んでしまえば、もうこの試合は勝ったも同然だった。


 イチ、ニのサン。また同じリズムで相手が竹刀を振ってくれたので、今度はこちらから先に仕掛けてやった。

 イチ、ニの……。このタイミングでおれは飛び上がるように一歩前に踏み出すと、面打ちを決めた。


 胴と面で一本ずつ。おれは二回戦を突破し、準決勝へと駒を進めた。


 おれ以外のS高校剣道部の面々の試合は、桑島先輩が二回戦で敗退、前田は相手と一本ずつ取り合い、延長戦で辛うじて勝利した。


 まさか前田が準決勝まで上がってくるだなんて、誰が予想しただろうか。

 それを証拠に、S高校陣営は前田の準決勝進出にお祭り騒ぎとなっていた。


「すごいな、前田。お前夏休みの出稽古でどんな稽古してきたんだよ」

「もしかして、Y大学の剣道部って虎の穴なのか」

「隠れた才能が開花したとは、このことだな」

 みんなが寄って集って前田のことを褒め称える。


 あの……おれも準決勝進出したんだけれども……。

 おれはみんなに囲まれている前田のことを遠巻きに見つめながら、少し妬いていた。


「前田、すごい人気だな」

 一人寂しくパイプ椅子に座っていると隣に高瀬がやってきていった。


 お前もか、高瀬。

 そんなことを思いながらも、口には出さずにおれは無言でうなずく。


「準決勝も勝てるよね、花岡」

「当たり前の事を聞いちゃいけないよ、高瀬」

 おれはふざけた口調でいう。


「今年はさ、インターハイ応援に行くから。だから、わたしをインターハイに連れて行ってくれよな」

「なんだよ、そのスポーツ青春漫画みたいな台詞は」

 おれが笑いながらいうと、高瀬は顔を真っ赤にして俯いてしまった。


 やばい。

 どうやら、高瀬は本気でおれにいったようだ。

 てっきり冗談だと思って軽口を返してしまったことをおれは後悔した。


「いや、ああ、そうだな。インターハイに連れて行ってやるよ」

「ほんとうに?」

「当たり前だろ。おれはこんなところで終わるつもりなんてないし。インターハイに出て、もう一度神崎と戦うんだ。そして、今度こそ勝つ」

 おれは右手の拳をぐっと握りこんだ。


「その言葉に嘘、偽りはないだろうな」

 突然、後ろから聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 振り返ると、そこには河上先輩と岡田さん、平賀さんの姿があった。


「どうしたんですか、先輩」

「どうしたんですかじゃないだろ。お前たちが立派に戦っている姿を見に来てやったんじゃないか」

「ありがとうございます」

「どうやら、花岡と前田は残っているようだな」

 河上先輩が壁に張られているトーナメント表を見ていう。


「ええ、おかげさまで」

「平賀さん、間に合ったみたいですよ」

 そう河上先輩がいうと、平賀さんは背負っていたリュックサックの中からノートパソコンを取り出して、なにやら操作をはじめた。


「お前たちの試合での動きのデータを収集したいんだってさ」

 訝しげな目で平賀さんのことを見るおれに、岡田さんが耳打ちする。


「そういえば、まだあの技は使っていないよな?」

 岡田さんが手首を回していう。


「はい。いまのところは使うところもなかったので」

「それが賢明だ。あの技は一回見せてしまったら終わりだからな。次からは相手が警戒してしまって使えなくなってしまう。使う時は、いざという時だけだ」

「わかりました」


 そんな会話をしていると場内に準決勝が行われるというアナウンスが流れはじめた。


「それじゃあ、行ってきます」

「勝ってこいよ」

 河上先輩はそういうとおれの背中を思いっきり平手打ちで叩いて送り出してくれた。

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