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吠えよ剣  作者: 大隅スミヲ
高校二年生編
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高校二年生編(31)

 翌日、完全復活したおれは、こまめに水分補給をすることを心がけながら、剣道の練習に打ち込んでいた。


 ただ、ひとつだけ納得の行かないことがあった。

 きょうも、また試合稽古の相手を頼もうと平賀さんのことを探したのだが、体育館のどこを探しても平賀さんの姿はなかった。


「ああ、平賀ならきょうは休むって、さっき電話があったぞ。なんでも腰痛らしい。昨日、花岡くんと試合稽古を頑張りすぎたからじゃないのか」

 岡田さんに平賀さんのことを尋ねると、そんな答えが返ってきた。


 たったあれだけの練習で腰痛って、どういうことだよ。仮にもY大学の剣道部員だろ。毎日あのぐらいの練習は普通にやるだろ。

 おれは平賀さんのことを心の中で罵ってみたが、そんな自分も昨日は熱中症で倒れたのだったと思い出し、平賀さんのことを責められなくなってしまった。


「試合稽古の相手だったら前田くんができるって、平賀が電話でいっていたぞ。全部、前田くんに教えたら大丈夫だって」

「前田ですか?」

 おれは顔をしかめた。

 どうして大学の剣道部に出稽古へ来てまで前田と試合稽古をしなければならないのだろうか。

 前田との試合稽古なら、普段の部活で飽きるほどやっているというのに。


「昨日、花岡が帰っちゃってから、平賀さんから花岡攻略法は伝授されているから大丈夫だよ」

 防具を着けた前田がやってきて、にやつきながらいう。


 なんだよ、その攻略法って。

 いつもは試合稽古でおれから一本も取れないくせに。

 面白いじゃないか、だったらやってやるよ。


 おれは前田の挑発に乗る形で、前田と試合稽古をすることにした。


「おっ、はじまるんだな」

 おれと前田が試合場の中央に立つと、河上先輩のどこか楽しげな声が聞こえてくる。


 前田は中段に構えると、じっとおれの動きを見守るかのように動かなかった。

 昨日の平賀さんもそうだったことを思い出し、おれはなんだか無性に腹が立ってきた。


 攻略法ってやつを見せてもらおうじゃないか。

 おれは大きく踏み込むと、前田の面を狙って竹刀を振り下ろした。


 完全に一本が取れるタイミングだった。


 しかし、おれの手には手応えがまったく伝わってきていなかった。


 その場所に前田の姿はなかった。前田はおれが竹刀を振り下ろした場所よりも、左に半歩行った位置に立っている。


 やばい。

 そう思った瞬間、視界に竹刀の先が入ってきた。


 避けろ。そう体に命令をするよりも先に、体の方が勝手に動いていた。

 目の前を前田の振った竹刀が通過して行く。


 横面打ちだった。

 瞬間的に反応していなければ、まともに喰らっていただろう。


 おれが一歩下がると同時に、前田も一歩後ろに下がり、ふたりの間に距離ができた。

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