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吠えよ剣  作者: 大隅スミヲ
高校二年生編

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高校二年生編(20)

 夏休みに入り、おれは気合い十分で河上先輩のいるY大学剣道部を訪ねた。


 今回の練習に参加を許されたのは県大会出場のメンバー、プラス高瀬の四人だけだった。

 なぜ、高瀬が一緒に来ることを許されたのかは知らないが、小野先生が高瀬も連れて行けとしつこかったので首を縦に振らざる得なかった。


 例によって三年生の県大会出場メンバーは勉強の方が優先らしく、きょうの練習には参加していない。

 桑島先輩などは、河上先輩と一緒に練習がまた出来るなら連れて行けとしつこかったが、小野先生からの許可は下りなかった。


 待ち合わせ場所である大学敷地内にあるレンガ造りの時計台へ向かうと、すでにそこの場所には高瀬と河上先輩の姿があった。


 高瀬も河上先輩も私服であり、二人の私服姿を見たのは初めてのことだった。


 なんか大人っぽいな、高瀬は。

 普段見慣れない高瀬の私服姿を見て、おれはなんだか妙な感覚に捕らわれていた。


「おはようございます」

「よう、花岡。相変わらず集合時間前に登場だな」

 河上先輩が笑いながらいう。


 おれはいつも集合時間よりも十分前には現地にいるように心がけていた。

 それは祖父の教育の賜物だといっていいだろう。


 時間に遅れるような奴は侍じゃない。祖父が口癖の様にいっていた言葉だった。

 でも、宮本武蔵は佐々木小次郎と巌流島で決闘した時に遅れたじゃないかと、待ち合わせに遅れたことを祖父から怒られた時に屁理屈をいったことがあった。

 すると祖父は顔を真っ赤に染めて怒りを爆発させた。

「宮本さんとお前じゃ、立っている場所が違う。それにあれは作戦で、お前のは寝坊だ」

 その一喝を受けて以来、おれは集合時間に遅刻をしたことはない。


「高瀬は何分ぐらい前に来たんだ?」

「わたしも、いま来たばかりだよ」

「でも、俺が五分前に来た時には、すでに高瀬さんはいたけどね」

「ちょっと、先輩。それはいわない約束じゃないですか」

 高瀬が怒って河上先輩のことを叩く真似をする。


「なんでそんなに早く来てたんだ?」

「別にいいだろ」

「お前が時間よりも早く来るのを知っていたからだろ。でも、俺という邪魔者の方が先に来ちゃった」

「先輩、それも!」

 高瀬が口調を強くして河上先輩にいう。


 なんだかよくわからないが、二人が楽しそうに笑っていたので、おれも釣られて笑っておいた。


 残りの二人は時間ぴったりに登場した。

 男子剣道部の二年生である前田まえだと女子剣道部次期主将の羽田はたである。

 二人ともおれが休んでいる間に行われた地区大会で成績を残して、今回の県大会への出場権を手に入れていた。


 おれたち四人は河上先輩に案内されながら、剣道部の部室へと向かった。

 部室は男子剣道部と女子剣道部で分かれており、高瀬と羽田は待っていた女子剣道部の女の人に案内されて別の場所へと行ってしまった。


 男子剣道部の部室のドアには『禁煙』という貼り紙がしてあり、やっぱり大学と高校では違うんだなと妙に感心してしまった。


「ただいま戻りました」

 部室のドアを開けると河上先輩が中に声を掛ける。


 大学の剣道部というのは、どんな人たちがいるのだろうか。そんな好奇心でいっぱいだったおれは河上先輩の肩越しに室内を覗いてみた。


 室内にいたのは、神経質そうな顔立ちをした黒縁メガネの痩せた男の人がいるだけだった。しかも、その黒縁メガネの男の人は、膝の上に置いたノートパソコンに目を落としたまま、こちらを見ようともしなかった。


「あれ、他の先輩方は?」

「体育館で待っているって」

 黒縁メガネの男の人は、やはりノートパソコンの画面に目を落としたままで呟くようにいう。


「そうなんすか。わかりました」

 河上先輩はそういうと、部室のドアを閉じた。脇から覗き込んでいたおれは危うく鼻先をドアにぶつけるところだった。


「悪い、もう体育館で待っているらしい」

「いまの人も剣道部なんですよね?」

「ああ、そうだよ。平賀ひらが先輩っていう二年生だ」

「そうですか」

 なぜか胸騒ぎがしていた。とっても嫌な予感がする。

 いつだって、おれの嫌な予感はあたる。


 例えば、小学生の時に遠足で山登りに行ったときも嫌な予感がしていた。

 楽しい遠足のはずなのに、前日からなんだかとっても嫌な予感がしたのだ。

 そして、おれの嫌な予感はあたった。


 前日まで雲ひとつない晴天だったにも関わらず、おれたちが山登りをはじめた途端に豪雨に見舞われた。

 おれたちはずぶ濡れになりながら山の麓まで引き換えして、観光バスの中で体を乾かしながら持参した弁当を食べた。

 いまとなってはいい思い出だが、当時は悪夢以外なにものでもなかった。


 そう、おれの悪い予感は当たるのだ。

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