高校二年生編(18)
おれは会議室を出て、廊下から窓の外を眺めた。
オレンジ色の夕日が山の向こうへと沈んでいこうとしているのが見える。
「なに黄昏ているんだよ」
振り返ると高瀬が立っていた。すでに着替えたらしく制服姿だった。
「神崎と話はしたのか?」
「うん、ちょっとだけだけど」
あまりその話には触れて欲しくないのか、高瀬はそれだけ言うと口を噤んでしまった。
「あのさ」
「あのさ」
二人の言葉が重なる。
「お先にどうぞ」
おれは笑いながら、高瀬に話をする権利を譲った。
「変なこと聞いてもいいかな」
「変なこと?」
「そう。変なこと」
含みのある言い方だった。いつもならストレートに質問をぶつけてくるのだが。
なんだか、高瀬らしくない。
「別に、おれは構わないけど」
「あのさ、花岡はまだ佐竹先輩のことが好きなの?」
「なんだ、そのことか」
なんだか面倒臭いな、そう思いながらもおれは口を開いた。
「自分でもわかんないんだ。冬の大会の時に、おれははっきりと佐竹先輩にフラれた。それだけは確かなんだけどな」
おれは自嘲気味にいった。
「そっか。わかんないのか。それじゃあ、わたしは入り込む余地はないか」
「ん?」
「きょう、久しぶりに隼人と会ってわかったんだ。やっぱり、わたしは花岡のことが好きだって。前から花岡のことが好きなのかもしれないとは思っていたんだけれど、ずっと心のどこかに隼人の影があったんだ。でも、きょう隼人に会ってわかった。本当に好きなのは花岡のことだって」
何のリアクションも取れなかった。
高瀬がおれのことを好き? なにかの冗談じゃないよな。
いままで何の意識もせずに、一緒に練習したり昼飯を食べてきたりしたけれど、そんな素振りは見せてなかったよな。
いや、よくよく考えてみると、そんな素振りはあったかもしれないぞ。
だけど、おれは気づかない振りをしていた。
男勝りな高瀬に限って、そんなことはありえないと思い込んできた。
「それだけはいっておきたいと思ったんだ。いきなり、こんなことを言われたら困るよな。別にわたしは花岡にすぐ返事をくれとかはいわない。いまの関係が崩れてしまうんだったら、返事なんかはいらない。だけれども、誰かに花岡を取られてしまう前に、わたしの気持ちを伝えておきたかったんだ」
言葉が出てこなかった。気持ちは嬉しかった。だけれども、正直にいってしまえば高瀬をそんな風に意識したことは、いままで一度も無かった。仲の良い女友達。剣道部の仲間。そんな風にしか高瀬を見ていなかった。それが、急に高瀬のことを意識し始めてしまう。
「ごめん、一方的に喋りすぎたな」
妙な間。沈黙。
高瀬の顔を見ると、夕日が反射して真っ赤に染まっていた。
よく見ると、高瀬って可愛いかもしれない。
告白されたせいか、それとも夕日のせいか、おれの心臓は高鳴っていた。
「花岡の話っていうのは?」
沈黙に耐え切れなくなったのか、高瀬が聞いてきた。
「えっ、ああ……忘れちまった」
本当のことだった。あまりにも高瀬からの話が衝撃的だったため、おれの頭の中は一瞬真っ白になり、自分が高瀬になにを話そうとしていたのか完全に忘れてしまっていた。
「なんだよ、それ」
高瀬はそう言いながらケラケラと笑った。
おれも釣られて笑い声を上げた。
いつもと変わらない風景がそこにはあった。




