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吠えよ剣  作者: 大隅スミヲ
高校二年生編
44/98

高校二年生編(17)

 団体戦は、三勝四敗一引き分けという成績でM学園に敗北した。


 普通の団体戦であれば、負けたことを悔やみ、顧問である小野先生も部員たちを叱り飛ばしているところだが、あのM学園相手にこれだけの成績を残せたということで、小野先生も満足をしているようだった。


 試合後の交流として一階にある会議室を借りて、M学園との懇親会を行った。

 木下や鈴木先輩などは積極的にM学園の女子剣道部員に話し掛けていたが、おれは会議室の隅でスポーツ飲料のペットボトルを傾けながら、誰も寄せ付けない雰囲気をかもし出して、一人で座っていた。


 そんな空気を読まないのか、読めないのか、神崎が笑みを浮かべながら話し掛けて来た。


「お疲れさま、花岡くん」

 そういいながら、神崎はおれの隣にパイプ椅子を持ってきて腰を下ろす。


「いい試合だったね。個人戦も団体戦も。うちの連中も遠征してきた甲斐があったってみんな口々にいっていたよ。うちの連中は、S高校がこんなに強いなんて誰も思っていなかったんだ。東京でも敵無しとかいわれて、ちょっと天狗になっていたM学園もさすがに今回の遠征で鼻を折られた気分になっただろうし。斉藤さんなんて凹んでいたよ。いままであの人、インターハイ以外では負け知らずだったんだ。それがきょう、桑島さんに負けたでしょ。しかも逆転負けで。相当ショックだったみたい」

 神崎はこちらが黙って聞いているといつまで経ってもお喋りをやめることはないのではないかと思わせるぐらいに喋り続けた。


 おれは神崎の話を聞きながらも、別のことを頭の中で考えていた。

 どうして、おれは神崎に勝てなかったのだろうかと。


「なあ、おれのどこが悪かったんだ」

 神崎が渇いた喉を潤すためにペットボトルのお茶へ手を伸ばしたところで、おれは思い切って聞いてみた。

 ずっと考え込んでいるよりも、おれの動きを封じ込めた神崎に聞いてみるのが一番だと思ったからだ。


「悪くはなかったよ。強かった」

「じゃあ、どうして、おれは負けたんだ」

「負けじゃないよ。引き分けだろ」

「いや、負けだ。お互いが一本ずつ取ったあと、お前はおれに何もさせなかった。おれは何も出来なかったんだ。これを負け以外に何ていうんだ」


「うーん、困ったなあ」

 神崎が考えるような仕草をする。


「花岡くんはインターハイの時と同じぐらいに強かったよ。でも、あえていうならそれ以上の強さはなかったかな。多分、怪我をしていて練習があまり出来ていなかったからだとは思うんだけれども」

「インターハイの時と同じ?」

「そうだね」

「それは、おれがまったくあの時から成長をしていないってことか?」

「悪い言い方をすれば、そういうことかな。今日の練習試合を見ていて思ったんだけれども、花岡くんはS高校の剣道部で一番強いでしょ。だから、自分よりも強い相手と練習ができていないんだよ。強くなるには、自分よりも強い人と一緒に稽古をしなきゃだめだよ」

 神崎の言葉を聞いて、おれは何も言い返せなかった。

 確かに神崎のいうとおりなのだ。おれは朝から晩まで稽古をしてきたつもりだったが、自分よりも強い相手と戦ったりはしてこなかった。インターハイ以来、警察の剣道場や幼い頃に通った道場への足は遠のいていた。

 そういうことか、そういうことだったのか。


「でも、花岡くんには、いま以上に強くなって欲しくないな」

「どうして」

「だって、いまよりも強くなられたら、負けちゃうかもしれないだろ」

 神崎はそういうと爽やかに笑って見せた。


 くそ、むかつく野郎だ。

 でもなぜか神崎に対して、ぶん殴ってやろうとかそういう悪意の感情は生まれてこない。


「ちょっと、神崎くんを独り占めしないでよね」

 いつの間にかおれはS高とM学園の女子剣道部員たちに囲まれていた。

 そして、女子剣道部員たちはおれを囲みの外に放り出すと、神崎を囲んでなにやら楽しそうな話をしながら盛り上がっていた。

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