高校二年生編(14)
おれが体育館に入っていくと、試合場では桑島先輩と、さっきおれが戦った斉藤が熱戦を繰り広げているところだった。
「なにやってたんだよ、はやく防具をつけろ」
高瀬に急かされながら、おれは胴を手早く装着する。
「M学園の大将は隼人だって」
「ああ、そうみたいだな」
おれはそう高瀬にいいながら、面をかぶる。
心の中では神崎に対する思いが甦ってきていた。
インターハイ決勝。
あれは事故だった。
あの時、靭帯を切っていなければおれは勝っていたはずだ。
絶対におれは負けていない。そのことをいまここで証明してみせる。
そして、もう一度、佐竹先輩にアタックするんだ。
面の紐をきつく締め上げ、気合いを入れる。
「ごめんね。私には花岡くんは可愛い弟みたいにしか見えないの。酷な言い方かもしれないけれども、恋愛対象外」
突然、頭の中に佐竹先輩からいわれた言葉が甦ってきた。
恋愛対象外。
そうまで言われたのに、おれは佐竹先輩にもう一度アタックするつもりなのか。もうフラれたんだぞ、完璧に。
それなのに、どうしてもう一度アタックなんて思い浮かぶんだ。
佐竹先輩はおれのことなんて見てくれていないんだぞ。
きっと、大学で楽しくやっているさ。サークル活動で知り合った他の大学生たちと。なのに、おれはいつまでも未練たらしく佐竹先輩の幻影ばかりを追いかけている。
もう、現実を見ろよ。おれはフラれたんだぞ。
「――って、すごいな桑島先輩は」
「え?」
高瀬の声で我に返った。
「なんだよ、見てなかったのかよ。あれだけ攻められていたのに、逆転したんだぞ」
「あ、ああ」
試合場の中央では桑島先輩が試合を終えて、相手の斉藤と握手を交わしていた。
高瀬の話から推測すると、桑島先輩は勝ったようだ。
「さあ、気合い入れていけよ。隼人なんかに負けるなよ、花岡」
高瀬がおれの肩を思いっきり叩く。
痛てえ。
だけれども、その衝撃でおれは目が覚めたような気がする。
いまは佐竹先輩は関係ない。
おれは目の前にいる、神崎隼人という男と戦わなければならないのだ。
余計なことは試合のあとで考えよう。
いまは、神崎との試合に集中する時だ。
おれは気合いを入れなおすと、試合場の中央へと向かった。