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吠えよ剣  作者: 大隅スミヲ
高校二年生編
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高校二年生編(13)

 M学園との練習試合の団体戦は、一対一の状態で中堅戦を迎えることとなった。


 S高校剣道部員や見ていたギャラリーたち、あのインターハイ常連であるM学園と肩を並べていることに興奮が抑えきれないといった様子だった。


 S高校の中堅は鈴木先輩と女子剣道部三年の塙先輩だったが、おれはトイレに行きたくなってしまい、試合を見ることなく、胴を外して体育館を出た。


 体育館から出て校庭へ目をやると、野球部がどこかの学校と練習試合をしていた。スコアボードには大差でS高校が負けていることが表示されており、ちょうどいまも三塁にいた相手高校のランナーが走りこんでホームベースを踏んだところだった。


「あーあ、こりゃ勝てねえな」

 独り言を呟くと、おれは体育館の脇にあるトイレに向かった。


 トイレに入っていくと、そこには先客がいた。

 神崎隼人だ。神崎は洗面台の鏡を見ながら、水で濡らした手で髪型を整えている。


 どうせ面をつけるんだから髪型なんて気にするなよな。

 そんなことを思いながらおれが神崎の後ろを通り過ぎて便器に向かうと、神崎が声を掛けてきた。


「団体戦、花岡くんは出るんだよね?」

「ああ、出るけど」

「そうか。いまは中堅戦だから、花岡くんは副将か大将だね」

 おれは神崎の意図が読めなかったので、何も答えなかった。


「僕は大将だから」

「それって、おれに対する挑戦状?」

「さあ、どうだろうね」

 神崎は口もとに爽やかな笑みを浮かべると、剣道着の懐から手ぬぐいを取り出して濡れた手を拭いた。


「花岡くんともう一度、試合が出来ることを楽しみにしているよ」

 そういって、神崎はトイレを出て行ってしまった。


 くそ、なにが楽しみにしているよ、だ。

 おれがS高校の大将として団体戦に出るだなんてひと言もいってないだろうに。

 でも、おれの読みどおりだった。

 やっぱり、神崎は団体戦で大将になっていた。

 ちきしょう、爽やかに挑戦状なんて叩きつけてきやがって。

 こうなったら絶対に勝ってやる。

 勝って、あいつから爽やかさを全部拭い取ってやる。


 おれは心に誓うと、洗面台で手を洗い、首に掛けていたタオルで乱暴に手を拭いて、トイレを後にした。


 トイレから戻る途中で、石倉さなえに、ばったり会った。

 一年生の頃に比べると伸びた髪はショートカットからボブに変わっており、どことなく大人びた顔立ちをしている石倉は、少し前に隣のクラスの奴から告白されたがその場で断ったという噂が立っていた。


「あれ、もしかして試合終わっちゃったの?」

 少し慌てた様子で石倉がいう。


「いや、まだやっているよ。いまは団体戦。個人戦は終わっちゃったけれど」

「よかった、まだやっていて。でも花岡は、こんなところで何をしているの。まだ試合中でしょ」

「ああ、ちょっと外の空気を吸いにね」

「そっか。花岡の出番はまだなんでしょ?」

「そうだな、あと十分ぐらいは来ないかもしれない。でも、試合が早く終わっちゃうと……」

 おれはそこまで言った時、体育館の方から木下が走ってきた。


「おい、花岡。何やってんだよ、早く戻って来いって。出番になるぞ」

「もう出番かよ」

 おれはわざとかったるそうな口調でいいながらも、体育館へ向かって足早に歩き始めた。


「体育館の二階で応援してるからね。がんばって」

 石倉の声を背に受けながら、おれは体育館へ急いだ。

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