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吠えよ剣  作者: 大隅スミヲ
高校二年生編
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高校二年生編(12)

「木下、動けっ!」


 棟田先輩が大声を出した。

 あまりにも突然だったので、隣にいたおれは耳を塞ぐ余裕がなかった。

 そのひと言が木下に掛かっていた藤堂の呪縛を破った。


 木下の左足が床を蹴り、藤堂の面を目掛けて竹刀を振り下ろす。


 藤堂が間合いを外すために一歩後ろに下がる。


 一瞬、木下が笑ったように見えた。

 もちろん、面越しなので表情までしっかりと見ることはできないのだが、なんとなくそんな風に見えたような気がしたのだ。


 木下の竹刀が藤堂の面に振り下ろされる。

 届かない距離。

 藤堂にはそう見えただろう。


 しかし、木下の竹刀はきちんと藤堂の面を捕らえていた。


 木下の踏み込みは、普通とは違っていた。何よりも飛距離がある。

 体育の授業で計測した幅跳びでは、非公式ながらも県内の高校生記録と並ぶ距離を飛んでいるほどだ。

 木下に以前、どういう練習をすればそんなに飛距離のある踏み込みが出来るのかと聞いたことがあったが、木下は別に飛ぶことに関しては何の練習もしたことはないと答えた。

 この跳躍力は木下の生まれ持った才能なのだろう。


「面あり、一本」

 今度はS高校が歓声を上げる番だった。体育館の二階にいた女子たちも木下に黄色い声援を送っている。


「木下の良さがでましたね」

「そうだな。だけど、手の内を見せてしまった以上、次の一本を取るのは厳しいだろうな」

 腕組みをしながら棟田先輩がいう。


 中央に戻ってからの木下と藤堂は睨み合いを続けていた。

 木下が攻めの姿勢を見せれば、藤堂が引いてしまうという展開になる。

 まさに棟田先輩のいうとおりだった。


 不意に木下が左足を半歩ほど後ろに下げた。

 そのことに藤堂は気づいていない。


「勢いをつけて踏み込むつもりだな、木下」

「でも、藤堂は気づいていますよ。何も気づいていない振りをしながらも」

「ここが木下にとって勝負ってところだろうな」


 木下が一気に踏み込んだ。

 飛距離はさっきよりもさらにある。

 しかし、藤堂は木下の計算外な行動に出た。下がるのではなく、前に出てきたのである。


 胴を叩く音が体育館内に響き渡った。


「胴あり、一本」

 旗が上がったのは藤堂の方だった。


 試合を終えて戻ってきた木下は、負けたことを悔やんで項垂れていたが、棟田先輩に「よくやった」と褒められていた。

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