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吠えよ剣  作者: 大隅スミヲ
高校二年生編
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高校二年生編(7)

 続いて二年生の試合となった。


 おれが面付けをしていると、体育館の隅で高瀬と神崎の喋っている姿が目に入ってきた。

 二人とも笑いながら何かを話している。


 幼馴染の再会か。

 そんなことを思いながら二人の様子を見ていたが、心の奥底でなにか別の感情が芽生えだしていた。

 その感情が何なのか、自分ではよくわからなかったが、なにかに焦るような気持ちがあるような気がした。


 二年生の試合のトップバッターは木下だった。

 木下が緊張しているのは手に取るようにわかった。

 ただでさえ色の白い顔をさらに白く染めて、足を小刻みに震えさせている。


「いつも通りにやれよ。気楽にな」

 おれは試合場に向かう木下に声を掛けてやった。


「あ、ありがとう、花岡」

 木下はそう言うと、引き攣った笑みを浮かべながら、試合場の中央へと進み出ていった。まだ緊張が解けていないのか、歩き方もどこかぎこちない。


 試合が始まった。

 正眼の構えを取った木下に対して、相手は上段で構えていた。

 構えを見ただけでも、相手がなかなかの強さだということが窺い知れる。


 木下が大きく踏み込んだ。

 竹刀が相手の面を打つ。しかし、浅い。

 審判を務める小野先生も一本を認めない。


 離れ際に相手の面打ちが木下に入り、最初の一本は相手に取られてしまった。


 完全に木下のミスだった。

 離れ際にガードが甘くなる。それは木下の癖だった。

 練習ではそれを直すために何度もおれと打ち込み稽古をやったはずだ。

 おれは舌打ちをしたいのを我慢して、大声で激を飛ばした。


「木下、落ち着け。いつもの練習どおりに動けば大丈夫だ」

 おれの言葉が聞こえたかどうかはわからないが、木下は気持ちを入れ替えて、再び正眼の構えを取って、相手を見据えた。


 今度は相手の方から打ち込んできた。

 小手狙いの浅い入り。

 木下はそれをしっかりと見て相手の竹刀を払い落とすと、その勢いで横面打ちを決めた。


 今度はしっかりと入っていた。小野先生も一本の旗を揚げる。


 試合は一対一となった。

 どちらかが一本取れば、勝ちとなる。


 両校から声援が飛んだ。

 いつの間にか、体育館の二階にはS高の制服姿の女子生徒たちが何人か集まってきていて、木下に対する黄色い声援を送っていた。


 そういえば、石倉さなえも練習試合を見に来るようなことをいっていたっけ。

 そう思い、おれは石倉の姿を探してみたが、まだ来ていないのか石倉の姿はどこにもなかった。


 木下は構えを変えて下段にしていた。

 相手は相変わらず上段で構えている。

 木下が下段で構えるのは珍しいことだった。少なくともS高剣道部に入ってからは、試合稽古で見せた事はないはずだ。


 木下が下段構えのまま、一気に突っ込んで行った。

 相手は慌てて、木下の面を目掛けて竹刀を振り下ろす。


 次の瞬間、木下が下段に構えていた竹刀を振り上げて、自分の面に向かってきた相手の竹刀を跳ね上げる。


「上手い」

 思わずおれは声に出してしまった。

 それほど木下の竹刀捌きが上手く見えた。

 相手の竹刀を跳ね上げた木下の竹刀は、そのまま相手の横面を綺麗に打っていた。


 二年生の第一戦は、木下の勝利で終わった。

 その流れに続こうと他の部員たちも頑張ったのだが、結果は惨敗で六人が戦って、六人とも負けという結果になってしまった。


 そして、二年生の最後の試合。おれの出番となった。

 相手は神崎だろうと思っていたのだが、神崎は面をつけていない状態で試合を見守っている。


 どういうことだ。神崎は二年生の試合に出ないのか。

 おれがそんなことを思っていると、おれの相手となるM学園の二年生が試合場の中央へと進み出てきた。

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