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吠えよ剣  作者: 大隅スミヲ
高校二年生編
33/98

高校二年生編(6)

 日曜日。S高校の前には大型の観光バスが停まっていた。

 観光バスの車体には東京M学園の文字が英語で描かれており、観光バス自体がM学園の持ち物であるということがわかった。


 やっぱり東京の高校っていうのは違うな。

 おれはそんなことを思いながら、体育館の二階窓から外を眺めていた。


 M学園の面々は、いま体育館の半面を使って準備体操などを行い、体をほぐしている。

 うちの剣道部はM学園が使っていない半面を使っているのだが、いまいるのは桑島先輩以下数名の三年生部員と二年生部員たちだけであり、一年生部員たちは部室の掃除などをやらされていた。


「こんなところでサボっていたのか」

 白袴を履いた高瀬がおれに気づいて、体育館の二階へと上がってきた。


「別にサボっていたわけじゃないよ。M学園がどんな練習をするのか二階から眺めていただけだ」

「高みの見物ってやつか?」

 高瀬が笑いながらいう。


「よく言うよ。それよりも、神崎とは会ってきたのか」

「いや、まだ」

「なんだよ、再会の挨拶でもしてくればいいじゃないかよ」

「そういうのはいいよ。それにあいつは、わたしがS高校の剣道部にいるってことは知らないはずだし」

「なんだよ、照れているのか。高瀬らしくないじゃないか」

「うるせえ」

 そう言って、高瀬がおれの肩にパンチをしてくる。

 いつもと変わらない、高瀬。

 おれは少し安心した。


 M学園の剣道部員たちが整列をし始め、練習が始まった。

 一人前に出て素振りの手本を見せているのが神崎だった。

 神崎の素振りは絵になっていた。基本がしっかりとしているのが、遠目から見てもよくわかる。

 足運びの素早さ、竹刀を振り上げた時、振り下ろした時など動作の一つを取っても、切れがある。


「S高剣道部、練習をはじめるぞ。全員、集まれ」

 オネエ言葉を封印した桑島先輩が大声で部員たちを呼んでいる。

 おれと高瀬は二階から降りると、桑島先輩たちのいる舞台前へと向かった。


 舞台前に全員が集まると、整列しての素振り練習が始まった。

 前に立つのは主将である桑島先輩だ。


 おれたちは桑島先輩の気合いの声を聞きながら、素振りを一〇〇本おこなった。

 素振りが終わると、顧問である小野先生に呼ばれて部員たちが集まり、M学園との顔合わせとなった。


「インターハイ以来だね、花岡くん」

 神崎が右手を差し出しながら話し掛けて来た。


 相変わらず涼しい顔をしている。

 切れ長の目に筋の通った鼻。男のおれから見ても、神崎は恰好良かった。

 こんなに恰好のいい神崎を女子が放っておくわけもなく、S高の女子部員たちは神崎のことを遠巻きにしながら、ひそひそと何やら囁きあっていた。


 くそ、剣道も強ければ、女子にもモテる。どうして神様は神崎に優しいんだよ。人間は生まれながらにして平等じゃないのかよ。

 おれは神様に向かって心の中で罵ってみた。


「足の方は、もう大丈夫なのかい?」

「ああ、完治したよ。試合だって問題なく出来る」

「そうか。それはよかった」

 神崎は微笑を浮かべた。


 その微笑に何人の女子が心を奪われたんだ。

 くそ、顔もよければ性格もいいのかよ。

 こうなったら、剣道だけでもいいから、神崎に勝たなければ。

 おれはそう胸に誓って神崎から離れた。


 練習試合は、個人戦と団体戦の二つが行われることになった。

 まずは一年生同士の試合が行われ、まだ入ったばかりの新入部員たちが、緊張した面持ちで試合を行った。

 そんな一年生同士の試合の中でも、鍋島はいい動きをしていた。


 M学園は剣道が強い学校として有名で、東京以外の近県からも生徒が集まってくるため、一年生であってもレベルが高い生徒が結構いたが、神崎の様にずば抜けて剣道の強い一年生は残念ながらいなかった。

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