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吠えよ剣  作者: 大隅スミヲ
高校一年生編
3/98

高校一年生編(3)

 高校生活にも慣れはじめたある日の放課後、木下が数人を引き連れて、おれの席へとやってきた。


「ねえ、花岡くん。剣道部の練習を見学しに行こうと思うんだけれども、一緒にどうかな」

「別にいいけど」

 特に断る理由もなかったため、おれは木下の誘いに乗ることにした。


 実のことをいえば、おれもそろそろ剣道部の練習を見に行って、入部するかどうかを決めようと思っていたところだった。

 だけれども、おれはそんなことは木下にはひと言も告げず、しょうがないなあといった感じを出しながら、木下たちと一緒に剣道部が練習している体育館へと向かった。


 木下が連れて来た連中は、みんな中学時代に剣道部に所属していたという奴らだった。

 何人かはおれのことを知っているみたいだったけれど、おれには見覚えのない顔の奴だったので、適当に話を誤魔化しておいた。


 剣道部の練習が行われている体育館には、気合いの声が響き渡っていた。


 月、水、金は、剣道部が体育館の半分を使って練習をする日であり、それ以外の日は柔道部やバレーボール部などが体育館を使っているのだと、木下が教えてくれた。どうやら、色々と事前調査を行ってきたようだ。


 その日は、体育館の半分を男子剣道部と女子剣道部が分けて使っていた。残りの半分は新体操部がマットを敷いて使っている。


 おれたちは体育館の端に立っていたジャージ姿の顧問の先生に声を掛けて、剣道部の練習を見学させてもらう許可を得た。


 剣道部の人数は、男女合わせても十五人ぐらいだった。これで全員だとすると、随分と人数が少ない気もする。

 剣道部はあまり人気のない部活なのだろうかと、ちょっと不安になったりもしたが、人気なんかは関係ないとおれは思いなおした。


 素振りの練習を終えた剣道部員たちが面を装着し、二人一組になって打ち込みを行うという練習に移りはじめた。一人が受け役となり、もう一人が面や胴、小手などに対して打ち込みを行っていくという打ち込み稽古だ。

 それを二十本ほど繰り返し、今度は受け役と攻め役が交代して、また二十本繰り返す。


 練習内容を見ている限りでは、中学の剣道部の練習と何ら変わりはなかった。

 それだけに、おれは少しがっかりした。

 見ている限りだと、男子剣道部のレベルもそんなに高そうには見えない。中学生の剣道に毛が生えた程度。おれは男子剣道部の練習を見ながら、そんな風に分析をしていた。


 そんな男子剣道部に比べると、女子剣道部の方はレベルが高そうに見えた。何よりも動きが速い。面打ち、胴打ち、小手打ちなど、どれをとっても男子よりもレベルが高いのではないかと思えた。


 おれが女子剣道部の練習風景に目を奪われていると、一人の男子剣道部員が近づいてきた。


 身長はおれと変わらないぐらいの一七五センチ前後、浅黒い肌で妙に白く見える歯と、濃い眉毛が印象的なはっきりとした顔立ちの人だった。


「どういうつもりで見学に来たのかは知らないが、スケベ心で剣道をやるのであれば、部に入ってもらわなくてもけっこうだ」


 その男はおれのことを睨みつけるような目で見ながら、言い放った。

 面白いことを言うじゃねえかよ、先輩。そのひと言がおれの剣道魂に火をつけてしまった。そこまで言うなら、試合で一泡吹かせてやるよ。てめえで吐いた唾を飲み込むんじゃねえぞ。おれはその先輩のことを睨み返した。


 防具の垂の部分には、河上かわかみという名前が刺繍されていた。他の部員たちとのやり取りを見ていると、どうやらこの河上という先輩が男子剣道部の主将のようだ。


 最初に、この河上から一本を奪ってやって、おれの強さを剣道部の連中に知らしめてやろう。おれはそんなことを思いながら、剣道部の練習を見つめていた。


 見学を終えた帰り際、おれは入部届けをその場で書き、顧問である小野おの先生に提出した。


 一緒に見学をしていた木下以下数名は、もう少し考えてからにするといって、誰も入部届けは出そうとはしなかった。


 いまに見ていろ、おれが剣道部の連中をぎゃふんと言わせてやるからな。

 おれは新たなる野望を胸に秘め、S高校剣道部へと入部を果たしたのだった。

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