高校一年生編(27)
大会が終わり、会場の後片付けをしていると、佐竹先輩が近づいてきた。
「おめでとう、花岡くん」
「ありがとうございます」
「これは私からのプレゼント」
差し出されたのはペットボトル入りのスポーツ飲料水だった。
「ありがとうございます、佐竹先輩」
聞き覚えのある声がして、おれがペットボトルを受け取るよりも先に、横から別の手が出てきて佐竹先輩からの差し入れを奪ってしまった。
「なにするんだよ、高瀬」
おれは慌ててペットボトルを取り返そうとするが、高瀬は素早くおれとの距離を取って手の届かない位置まで逃げてしまう。
「佐竹先輩の前だからって、鼻の下を伸ばしているんじゃねえぞ、花岡」
「な、なにをいっているんだ」
おれの反論も虚しく、高瀬はペットボトルを奪ったまま、体育館の端へと逃げていってしまった。
佐竹先輩はそんな高瀬とおれのやり取りを見て笑っている。
「あらあら、ヤキモチ焼かれちゃったみたいね。剣道は強いし、可愛いんだから大切にしてあげないと、彼女のこと」
「やめてくださいよ、先輩。彼女なんかじゃないですよ」
おれは慌てて否定する。
「あら、そうなの。私にはお似合いなカップルに見えたんだけどなあ」
「おれはいまでも佐竹先輩……」
「もう、諦めなさいよ」
「えっ?」
「いつまでも私なんかを追いかけていることないのよ。私にはちゃんと彼氏もいるんだし」
「おれは、それでも構いません」
「ごめんね。私には、花岡くんは可愛い弟みたいにしか見えないの。酷ないい方かもしれないけれども、恋愛対象外」
「そんな……」
「もっと、周りをしっかりと見なさい。花岡くんのことを気に掛けてくれている人はたくさんいるんだから。そういう人たちに気づいてあげないと」
そのあとも佐竹先輩は色々といっていたが、おれの耳には何も届いては来なかった。
フラれた。完璧にフラれた。
おれは県内で一番高いビルである県庁の屋上からどん底まで叩き落された気分だった。
こうして、おれの高校一年の冬は終わり、そして佐竹先輩への恋も終わってしまったのだった。
【高校一年生編 了】