高校一年生編(24)
決勝戦。
対戦する両者がS高校剣道部ということもあり、選手控え席は二つに分けられていた。
おれは「精神統一をしてくる」とサポートについてくれた部員たちに告げて控え席から離れると、迷うことなく二階席にいる佐竹先輩ところへと足を運んだ。
佐竹先輩は部活の時とは違って、きょうは髪の毛をポニーテールにしておらず全部降ろしていたが、その姿も一段と可愛かった。
「佐竹先輩、見に来てくれたんですね」
おれが佐竹先輩に声を掛けると、佐竹先輩が少し困ったような表情で振り返った。
「あら、花岡くんまで……」
「花岡くんまで?」
おれは佐竹先輩の言葉に疑問を抱きながら、佐竹先輩と席を一つ空けて隣に座っていた河上先輩の方を見た。
そこにはおれと同じ考えを持った人間が、もう一人いた。桑島先輩だ。
桑島先輩は普段の練習では見せないような笑顔を河上先輩に対して振りまいている。桑島先輩は河上先輩のことが大好物だった。
最初の頃は、河上先輩も擦り寄ってくる桑島先輩のことを邪険に扱っていたそうだが、どんなに突き放しても擦り寄ってくるため、途中で諦めたそうだ。
「ウォームアップしなくてもいいのかよ、二人とも」
呆れた顔で河上先輩がいう。
「大丈夫です」
おれと桑島先輩は声をそろえるようにしていうと、お互いの顔を見合わせた。
会場アナウンスがおれたち二人の名前を呼んだのは、それから五分後のことだった。
「先輩、おれ絶対に優勝してみせますから」
「がんばってね、花岡くん」
「はい、がんばります」
おれはガッツポーズを作って見せると、佐竹先輩の隣を離れた。
試合場へ行くと、おれのことをサポートするために待機していた高瀬が飛び掛らんばかりの勢いでおれに近寄ってきた。
「お前、決勝前だっていうのに何してんだよ」
「ちょっと、精神統一を」
「鼻の下を伸ばして精神統一か? 嘘ばっかり吐いてんじゃねえよ。ここから二階席はよく見えるんだよ」
高瀬がおれの胸倉を掴み上げる。
どうして、高瀬はこんなにも熱くなっているんだ。おれはそんな疑問を感じながらも、胸倉を掴んでいる高瀬の手をそっと振り解いた。
「大丈夫だよ、おれは絶対に勝つから」
「そういう問題じゃねえ」
下腹部を蹴り上げられて、おれは悶絶した。
なんなんだよ、この女。
試合が始まる。
おれはまだ下腹部に違和感を覚えながらも、試合場の中央に立った。
桑島先輩と立ち合うのは久しぶりだった。
最近は剣道部の練習でも、あまり試合稽古でぶつかることが無かった。
最後に試合稽古をしたのは、夏のインターハイ前だったかもしれない。