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吠えよ剣  作者: 大隅スミヲ
高校一年生編
16/98

高校一年生編(16)

 打ち込み稽古のあとは、男女関係なく二つに分けて紅白戦を行った。


 朝練習参加者はちょうど十人だったため、五人ずつに分かれた。

 その後の中から、先鋒、次鋒、中堅、副将、大将と割り振って、試合を行う。


 おれは紅組の副将となり、対戦相手となる白組の副将は二年の鈴木先輩だった。

 鈴木先輩は小太りな体格だが豆タンクの異名を持ち、力強い攻めで県大会では上位に食い込むことの出来る実力者だ。


 高瀬は同じ紅組だった。

 先鋒として出場することを志願した高瀬の対戦相手となるのは、二年生の棟田という男子部員だった。


 棟田先輩は二年生の中では、主将の桑島先輩に次ぐ実力者だ。

 だが、棟田先輩は相手が女子ということで油断してくるだろう。

 もし、高瀬が棟田先輩に勝つチャンスがあるとしたら、その油断を突くしかない。


 体育館の中央で、高瀬と棟田先輩の試合がはじまった。

 高瀬の甲高い気合いの声が体育館に響き渡る。

 正眼の構えをする高瀬に対して、棟田先輩は下段に構えていた。


 案の定、棟田先輩は高瀬のことを女子だと油断している。

 下段構えでわざと隙を作り、相手を誘い込んで、剣先を変化させながら大きく踏み込んで面打ちを狙っていく。それが棟田先輩の必勝パターンなのだが、いまの棟田先輩は高瀬のことを誘い込むだけ誘い込んでおいて、高瀬が打ち込んでくると逃げるようにバックステップを踏んで一定の間合いを保ち続け、自分からは攻めようとはしなかった。


 そんな棟田先輩に対して、高瀬は猛然と攻め続けた。

 あと一歩、あとひと伸びで剣先が届くというところまで引き付けて置いて、ステップを踏んで避け続ける棟田先輩。


 そんな攻防に苛立ちが募ってきたのか、次第に高瀬の攻めは雑になってきていた。


 さっきの打ち込みで教えたばかりだろ。

 おれは高瀬の雑な攻めを見ながら、歯がゆい気持ちを覚えた。


 棟田先輩がライン際に追い込まれた。

 だが、それも棟田先輩の計算の内なのだろう。

 逆に高瀬はそこまで誘い込まれてしまったといった方がいいかもしれない。


 そこにきて、棟田先輩の動きが変化した。

 床を蹴り、大きく一歩を踏み込む。

 棟田先輩の必勝パターンだ。


 終わった。

 おれは棟田先輩の動きを見て、そう思った。

 おそらく、そう思ったのはおれだけではないはずだ。


 しかし、次の瞬間、そこにいた全員が自分の目を疑った。


 抜き胴だった。

 高瀬の甲高い気合いの声が、体育館に響き渡る。


 審判をしていた女子剣道部主将である山縣先輩が、高瀬の旗である赤色の旗をあげる。

「胴あり、一本」

 見ていた部員たちが驚きの声を上げて、ざわめいた。


 高瀬が棟田先輩の胴を打ち抜いたのだ。


 まさか高瀬は、ずっと狙っていたのか。

 棟田先輩の癖を見抜いて、攻めに転じる瞬間をまっていたのだとしたら、高瀬はとんでもない剣道の素質を秘めているということになる。

 どうしてこんなに凄いやつが、いままで剣道をやっていなかったんだよ。


 まさか高瀬に一本を先取されるとは思っていなかったであろう棟田先輩は、煮え湯を飲まされたような表情になっていた。


 そこからは棟田先輩の怒涛の攻めがはじまった。

 高瀬は防戦一方となり、棟田先輩に二本を奪われて敗北した。


 試合こそは負けてしまったものの、自陣へ戻ってきた高瀬には紅組のみんなから拍手が送られた。


 拍手をされた高瀬は、照れ笑いを浮かべながら頭を掻いていた。

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