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吠えよ剣  作者: 大隅スミヲ
高校一年生編
13/98

高校一年生編(13)

 日曜日の朝、家には誰もいなかった。


 父は去年の暮れから台湾に単身赴任中であるし、母は何年ぶりかの同窓会とやらで朝早くに家を出て行った。姉は数十分前に、大学のテニスサークルの練習という名前の彼氏とのデートへ出かけている。


 家にいるのはおれ一人だけだ。

 ソファーに寝そべりながら、テレビのチャンネルを色々と変えたりしていたが、特に目に留まるような面白い番組がやっているわけでもなく、おれはすぐに飽きてしまった。


 いままでであれば、日曜日となると警察署の道場へ通うか、庭で竹刀の素振りをやって身体を鍛えたりしてたのだが、インターハイが終わってからというもの、竹刀は一度も握ってはいない。もちろん、足を怪我しているからということもあるのだが、それ以上にやる気というものが湧き出てこないのだ。


 もし、祖父がまだ生きていたら、こんな堕落しているおれを何といって叱っただろうか。

 そんなことを考えながら、おれはテーブルの上に置いてあったごま煎餅へと手を伸ばした。


 暇を持て余していると、時間の流れが妙にゆっくりと感じる。そのせいもあってか、おれは色々と余計なことばかりを考えてしまっていた。


 一番最初に頭の中に現れたのは、佐竹先輩のことだった。

 せっかく与えられたチャンスをあと一歩というところでふいにしてしまった。


 インターハイ準優勝。それでは佐竹先輩の出した条件を満たしてはいない。

 だけれども、準優勝まで行った。どうにかして、佐竹先輩は付き合ってくれないだろうか。

 でも、約束は約束だ。

 ああ、でもなあ。

 付き合いたい。

 佐竹先輩と付き合いたい。

 佐竹先輩をおれのものにしたい。

 ああ、佐竹先輩。


 おれはソファーに寝そべって、クッションを抱えながら悶々としていた。


 佐竹先輩は学校で会っても、いままで通りに接してきてくれている。

 先輩が後輩を可愛がるような感じで、何かと世話を焼いてくれるのだ。

 だけれども、いまのおれにとってはそれが辛かったりする。もし、佐竹先輩と付き合えていたら。そんなことばかりが脳裏を過ぎってしまうのだ。


 おれは佐竹先輩に対して未練たらたらだ。諦めようと思っても、諦めがつかない。

 インターハイで優勝できなかった悔しさよりも、佐竹先輩と付き合えなかった悔しさの方が何十倍も大きい。


「あーあ、やっぱり佐竹先輩と付き合いたいなあ」

 おれはついつい口に出して独り言を呟いてしまっていた。


 突然、テーブルの上に置いてあったスマートフォンが鳴った。

 驚きのあまり、おれはソファーから転げ落ちそうになってしまった。


 短い着信音。

 メッセージアプリからの通知だ。


 日曜日の昼間に、おれ以外にも暇な奴がいるんだな。

 そんなことを思いながら、スマートフォンへと手を伸ばし、メッセージアプリの画面を開く。


 メッセージの送り主は高瀬だった。

 そういえば何日か前に、高瀬からしつこくメッセージアプリのIDを教えろといわれて、しぶしぶ教えたのだった。

 IDを教えてからというもの、一度も高瀬からメッセージは来たことはなく、今回が初めてのメッセージだった。


 送られて来たメッセージは、本当にお前は女子高生かよ、とつっこみたくなるぐらいにシンプルなものだった。


『剣道ってさ、面白いの?』


 たったそれだけの文章。

 おれは思わずそのメッセージを読んで笑い声を上げてしまった。


 なんとも高瀬らしい。

 おれは答えもシンプルにしてやらなければならないと思い、短いメッセージを返してやることにした。


『楽しいぞ』とだけ打ち込んで返信する。

 すぐに既読は付いたものの、高瀬からの返事は来なかった。


 やっぱり、あんな短い返事をしたのがまずかったんだろうか。

 もしかして、怒ったか。

 そんな不安が頭を過ぎったが、もし高瀬が怒ったのであれば、彼女の性格上、絶対に怒りの返信してくるはずだから、きっと怒ってはいないだろう。


 などという勝手な推測をしながら、おれはソファーの上でいつの間にか眠ってしまった。

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