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九十三編
聞いた話。
もしも、目の前にある一枚の木の葉が木の葉以外の何かだとしたら。コップに入れられた水道水が別の何かだとしたら。
あなたはどうしますか。
少女は川辺の小高い道を歩いていた。放課後の色あせた道。
水色に淡いオレンジ色が微かに混じったような空に、ちぎれ雲がゆったりと泳いでいる。
前には数人の小学生。クラスも学年も違うようだった。
彼女がぼうっと歩いていると浮いた雲のひとつが不自然な動きで、ぐんぐんと速度を上げてこちらに近づいてくる。珍しい生き物をみた。そんな気持ちで眺めていると曇は目の前の小学生の集団を包み込んだ。雲の中で驚くような声がくぐもって聞こえる。
雲がブルッと震える。すると声は静まった。
ぽかんとした顔で瞬きをする頃には雲は遥か上空に昇っているところだったという。
「雲に飲まれた子はさ、なんかみんなぼんやりした顔だった。なにかを取られたみたいな感じの顔で……」
小さく陰る声で、あれは何だったんだろうと彼女はいった。