表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私の話。  作者:
92/125

九十二編

 聞いた話。


 あなたは自分が住んでいる家、部屋の前の持ち主、前そこに住んでいた人がどんな人でどんな人生を送っていたか知っていますか?


 破格の安さから、そういうことはある程度、覚悟していたつもりだった。彼は家路を歩きながら溜息をつく。

 部屋にいると毎晩、誰かが訪ねてくる。戸を叩き、インターホンを押す。しかし、ドアを開けても、覗き穴を見てもその犯人は姿を表さない。もはやそういうものだとしか思えなかった。

 幽霊。

 超常のもの。


 白熱灯に照らされたアパートの廊下を進む。

 ふと自分の家の灯りがついてることに気がつく。すりガラスから漏れる白い光り。

「電気消した……よな」

 確かに消した。

 では誰がいるのだろう。

 彼はそっと扉に近寄り、ドアノブを握った。出た後に確認したのと同じように鍵が掛かっている。新聞紙が刺さったポストの入り口から自分の玄関が見える。知らない靴が雑に脱ぎ捨てられていた。扉の向こう側から複数の笑い声と生活音。

「幽霊の次は何だ……?」

 そう呟きながら彼はポケットの中から鍵を取り出し、差し込む。ドアノブを開き、大きな声を出して威嚇した。

「オイっ! だれ……だ?」

 しかし、部屋は真っ黒だった。しんと静まり返っていて、当然灯りなど点いていない。

 あったはずの靴もなく、ポストから容易に見えたはずの玄関はアパートの廊下の光りによって、やっと見えるほど暗く沈んでいた。

 生ぬるい風が頬を撫でる。

 喩えようのない違和感に彼は扉を閉め、元来た道を走った。


 後ろから複数の笑い声と生活音が聞こえたような気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ