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九十編
聞いた話。
死にたい人は死ねばいいし、生きたい人は生きればいい。
ただ、どちらも人に迷惑をかけるな、と思う。
彼女は自殺しようと思っていた。何を行っても上手くいかず、勉強にも身が入らない。立て続けに起こる不幸にも嫌気がさしていた。
街中で十円玉を親指で弾く。裏が出たら死のうと思った。
ばさりという羽ばたく音。
「あっ」
十円玉がカラスに持っていかれた。
もう一度、弾く。十円玉はクルクルと回転し、地面には落下せず、ドブの小さな穴に入って見えなくなった。
もう一度、弾く。胸ポケットに入った。
もう一度、弾く。地面に垂直に立った。
もはやそうなると彼女はおかしくて仕方がなかった。
自分は見えない何かに死ぬなといわれているとしか思えなかった。
彼女は死ぬのをやめた。