八十八編
聞いた話。
明るいところには幽霊はでないという。
はたしてそうだろうか?
彼はコンビニでバイトをしていた。深夜のバイトは人が少なく、ぼうっとしている時間が多かった。本当はそんな時間に働きたくはなかったのだが、バイトの人数が少なく否が応無しの選択だった。
今、彼以外で店にいるのはオーナーだけ。オーナーは五十代半ばといった風体の男で一見カタギとは思えない顔つきだった。
オーナーは基本的に干渉してくるような人間ではなく、普段からあまり喋らなかった。
そんな深夜の時間帯、気がつけばレジに飴を持った女の子が立っていた。視線はずっとつま先を向いていて、髪の色は真っ黒だった。受け皿には既にお金。
彼はいつの間に入ったのだろうといぶかしみながらも飴の袋をレジに通す。
「そいつにモノ売るんじゃないっ!」
隣にいたオーナーが怒気を孕んだ口調で強くいった。彼はその気迫に驚いて、息を詰まらせた。
何か悪ことをしただろうかと考える。
時間が時間だし、子供がいた場合は注意しなくちゃいけなかったのだろうか。
そう彼は思った。だからすみませんと言おうと口を開きかけた。
「ここはお前のようなもんが買いにくるところじゃねえ。元来た場所に帰えんなっ!」
店長は少女を睨みつけ、吐き捨てるようにいう。恫喝とも取れるほどの声色。
「…………」
ピクリとも動かなかった少女が顔を上げた瞬間、ゆるい風が店内を駆け抜け、天井の白い灯りが点滅するように消えかけた。
蛍光灯の調子が戻る頃には少女はどこにもいなかった。ただレジに飴の袋があるだけ。
彼は足がすくんで動けなかった。
確かに少女の目は空洞で、口の中も真っ黒だった。まるで頭の中が空っぽだったかのように。
明らかに人ではなかった。
「どうして分かったんですかっていうとさ、オーナーはあの子のが置いたお金が百円札だったっていうんだよ。時間も時間だし、自動ドアが開いたのを見てなかったから、こりゃオカシイと思ったんだって」
深夜のバイトは二度としたくないと彼はいった。




