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八十六編
聞いた話。
アナタが昔、蹴飛ばした道路の石が実は霊験あらたかなものだったとしたら、どうだろうか。
不思議なことに子供はそういう変わったものを見つけるのが得意だ。
彼は森で遊んでいた。近くで川のせせらぎが聞こえる静かな森だった。
川辺には碁石のように黒く綺麗な石がピラミッド状に積まれていた。周りには似たようなものがいくつも見える。
幼かった彼はその美しい石に魅せられ、積まれた石の一番上のものを一つポケットに閉まった。
家に帰り、父と母にその石を自慢した。
きれいでしょ、みてみて。
手のひらに乗った平たい石。光沢と角の失われた丸くて黒い石。
父と母は絶句した。
すぐさに父は彼を殴り、怒鳴りつけた。母は複雑そうな顔をした。彼は泣き叫ぶ。
辺りは暗くなっているというのにその日のうちに彼は森に連れていかれ、自分の手で石を元通りにさせられた。泣きべそをかきながら彼は石を元通りにした。
「暫くしてその川の名前を知ったんだけど、そこさ、賽の河原っていうんだってよ。そりゃ、やっちゃいかんよね。無知って怖いわ」
彼は笑った。