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八十五編
私の話。
私は別に過去、その部屋で人が死んでいようが、自殺をしたことがあろうと特別、何かを思うことはない。
別にそれは綺麗に清掃されているのだ。問題ないだろう。
ただ、幽霊が出るというのは勘弁してもらいたい。
だって怖いじゃない。
ある日、友達を私の家に呼んだ。引越してきてから初めて呼ぶ友人だった。
彼女は私が持っている漫画を読みに来ていた。お邪魔しますという声が玄関でこもる。
私は冗談で言った。
「この家、霊が出るから気をつけてね」
当たり前のようにいうと彼女は靴を脱ぎながら、当たり前のように返した。
「大丈夫、そこのアレでしょ? 大人しそうだから問題ないと思う」
彼女は冷蔵庫の隅を指さしながら靴を揃える。私は二秒ほど固まり、振り返って彼女の顔を見た。彼女は無言で首を傾げる。
「えっ、冗談だよね?」
「……冗談、だよ」
乾いた笑いが私の口から出た。