八十四編
聞いた話。
私達が歩いているただの道も昔は人が内臓をぶちまけた事のある場所なのかもしれない。
山道で交通事故が起こった。男はその事故現場に向かう。
崖の下に車は落ちたらしく、ガードレールは引きちぎれ、道路にはタイヤの軌跡が残っている。男とそれを“清掃”するための係の者たちは直ぐに森の中でひっくり返っている車を見つけた。地面が抉れていて、車はぐちゃぐちゃだったが何とか形は保っている。窓ガラスは中途半端に割れている上に、血でべっとりと汚れていて車内は窺えない。男たちは扉をバールでこじ開けて、中を見た。
不思議なことに中には誰もいなかった。血の跡があるだけだった。
「たまにあるんだよ。野犬とかそういうのが仏さんを持っていっちゃうのってね。体の部品が足りないのなんて日常茶飯事。でも、それは仏さんがむき出しの状態の話だ。だからさ、こういう密室の状態で死体がなくなるっていうのは本当に訳わかんないよ」
「それはよく起ることなんですか?」
「……たまに、ほんとにたまにね。でもある時はある。街中だろうと山の中だろうとさ」
結局、それは未解決に終わったと聞いた。