八十二編
聞いた話。
自分の未来を知ることができたら、と一度は誰しもが思う。しかし、それは利点しか見ていないと言わざるを得ない。
もしも自分の未来が見えてしまったら、それが避けられないものなのだとしたら、私はきっと首を括るだろう。
私の友人は見えるという分類の人間で、町中にいるエセ霊能力者やら占い師を困らせているようなちょっと性格の悪い人だった。
彼女が前に中年の胡散臭い女を泣かせていたのを私は見たことがある。
ある日、どういつツテなのか、彼女は占い師が占ってもらいに行くという高名な占い師の元に向かった。
白く味気ない病院のような雰囲気の施設にその青年はいた。宗教団体のような体をうっすらと感じる。
青年は重度の障害者らしく、明らかに知能指数にも問題があった。彼の世話係のような者の指示に従い、彼女は手のひらを机に置いた。
「もしもしぃミカァ? うん、いまどこおお」
「…………」
「はいはい、そのけんはあ、ええそのようにぃ」
「…………」
「このあとこーじんとこいってさぁ」
壊れたラジオのように青年は言葉を紡ぎ続け、持ち時間を終わらせた彼女はその部屋を出た。
帰る途中、赤信号を目の前にぼうっと立っていると雑踏の中からいくつかの声が聞こえた。それだけがハサミで切り取られ、色付されたかのようにはっきりとしている。それ以外の声が小さくなってしまったかのような錯覚を覚えた。
「もしもし、ミカ? うん、いまどこ?」
「……はい、はい。その件は、ええ、そのようにお願いできますか?」
「この後コウジんとこいってさ、飲めばいいんじゃね」
信号は青に変わり、人は流れて行く。
その日、彼女は不気味な既視感に悩まされ続けた。
彼女は私にそれを説明している途中、急に言葉を詰まらせたかと思うと、頭痛をおさえるようにこめかみをもんだ。
「あー、今いったあたしの言葉も、あいつ言ってた。うわあ、気持ち悪ぅ……」
「それ、占いとか霊能力とかじゃなくて、もはや予知だよね」
「……そうかも」
彼女は苦笑しながらグラスに口をつけた。




