八十一編
私の話。
夜に起きる不思議な出来事には怖いという印象が浮かぶ。
昼に起きる不思議な出来事にはどういう印象を抱けばいいのだろう。それが人ごみ溢れる中だった場合どうすれば。
私と兄は若干イラついていた。
田舎道だというのにその日は道が込み、対向車線も詰まっていた。
父は後ろのシートで寝ていて、兄は運転席でハンドルを浅く握りながら、つまらなそうに前を見ている。私は助手席の窓の辺りにアゴを乗せて、ゆっくりと流れて行く対向車と、歩道を歩いていく人々を恨めしく眺めていた。
吹き付ける風は秋の涼しさを孕んでいて少し心地いい。歩道の向こう側には田んぼが広がり、その奥には大きな森。
私達はその時、父の弟から借りた左ハンドルの車に乗っていたように覚えている。
私は兄に足でハンドルを操作している人がいると笑った。兄は「逆に凄い」と私に言う。
暫くするとクリーム色の外車が横で止まった。
なんてことのないアンティークな車。だがそれは何かがおかしかった。
「……ねえ、見てあれ」
「ん……」
兄はめんどくさそうに私の指さした方向を見る。そして絶句した。
その車の運転席には誰も座っていなかった。もちろん後ろの席にも誰も座っていない。ただ硬そうなハンドルがあり、イスがある。人はいない。いないにも関わらず、自然と動き、進んで行く。
私と兄は確かにそれを目撃していて、酷く興奮し、パニックになった。父を起して後方にゆっくりと消えていく車のことを話した。
「何だ、そんなことか。よくあることだ」
父はそういってまた寝た。
興奮覚めやらぬ私と兄はひたすら、先程の車のことを話しあった。
しかし、結局何も分からなかった。
今でもあの時のことを兄と語り合うが今だ謎は解けない。